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第五十六話:フェニックス

「こんの野郎……随分と、おもてえ一撃じゃねえかよ……!」


 明らかにハルが受けて来た斬撃とは全く違う威力。

 そんなものを真正面から受けたのに、俺のHPは1割も残ってくれている。

 皆は俺の方に意識を向けてはいるが、悪魔将軍は硬直している。

 スキルの影響かなんかは知らないが、幸いにも皆は無事だ。

 ……先輩がいる以上、あの場はすぐに立て直すだろう。

 だったら俺はゆっくりと回復しつつ、やるべきことをやるまでだ。


「よっ……と」


 俺は立ち上がって、雑嚢からポーションを取り出して飲み干す。

 HPはそれなりに回復してきたし、慌てることはない。

 それで、俺は瓦礫がガラガラと音を立てて崩れている所を見る。

 さっきの悪魔将軍の攻撃で俺が壁をブチ抜いた……これはただの演出じゃないことがよくわかってくる。

 そうでなかったら、壁の奥に立ち入りが出来る部屋なんてないはずだしな。


「よし……」


 俺は真っ暗な部屋に足を踏み入れる。

 ……ゲームであるおかげか、暗めだけれども、ちゃんと見ることは出来る。

 リアリティがなく見えるけど、プレイのしやすさ的な問題だからな。


「お」


 部屋はそこまで広くないようで、あっさりと部屋の隅っこについた。

 あとは壁伝いにグルグルと回って見るが、特別なものはないみたいだ。

 ただ、本棚があるから、そこに何か調べるヒントがあるかもしれん。


「えーと……何か本……本……」


 片っ端から本をベタベタと触って見るが、特にイベントがありそうなものは見つからない。

 うーん、まさか本当に何もない……そかそう言うオチはない、よな?

 流石に何かしら……何かしらあってもいいだろ。


「頼むぞ……あ」


 祈りを込めるように本棚を物色していると、一冊だけ本の背にタイトルがあった。

 他の本は背の部分は字なんて書かれていなかったけれど、一冊だけ違うものがあった。

 えーと……タイトル名は『真の敵』……ヒントか何かか?


「まぁいい、パッパと読んじまおう」


 ヒント系の文章なら、長いかもしれないけれども……攻略がずっと楽になるかもしれない。

 せめて、弱点属性だけでもわかれば御の字と信じて……いざ、ページを開く。


『この本が手に取られている時、読んでいる君は命の危機を感じているだろう』


 いや、別に感じてはねえな。

 先輩たちがいるし、何とかなるだろって精神だ。


『だが、その状況を打破するためにこの本を最後まで読んで欲しい』


 わかった、わかったからとっとと打破する方法を教えろ。

 先輩たちだって無限に戦ってられるわけじゃねえから。

 と、俺は若干の苛立ちを感じながらもページを捲る。


『この屋敷の主人はとても臆病だ』


 臆病、ねえ……あの悪魔将軍が臆病とは思えねえな。

 だって、強そうだし……俺がアレならビビらねえで戦ってるよ。


『臆病な彼は常に姿を偽装している』


 偽装……もしかすると、変身術みたいなのでも持ってるのか?

 それで、別のモンスターの姿でもトレースしてるのか……となると、プレイヤーに化ける可能性もあるわけか?


『彼の真実の姿を見つけ出すその時に』


 真実の姿……なんらかのフラグを建てれば、あの姿を解除できるのか?

 となると、一定以上のダメージとか、そんなのか?


『この武器はきっと役に立つだろう』


 武器……どこかにおいてるのを取るのか?

 と、俺が辺りを見回していると、俺の左腰のあたりが光っている。

 いや、俺の剣が光っていた。

 すると、本も光り出して……本と剣の光が共鳴した。


『これを読んだ君自身の手で、奴を終わらせてやってくれ』


「お!?」


 小鬼王の剣・改が勝手に俺の鞘から抜けた。

す ると、本のページも勝手に捲られて行き……ド真ん中の部分に来た。

 その真ん中の部分には、鳥を象った鍔をつけられた剣……の柄があった。

 刀身だけが全くないその剣……【Phoenix Blade】は、本のページから浮いて出て来た。

 本当に、刀身だけがない剣だった。


「は!? え、ちょ、オイ!」


 Phoenix Blade……フェニックス・ブレードと、小鬼王の剣・改が入れ替わった。

 俺の鞘にはフェニックス・ブレードが収まっていて、小鬼王の剣・改が本の中に入っている。

 グラフィック部分を再現している上に、スペルも【Goblin King Sword・Break】になった。


「……こんなのでどうやって戦えってんだよ」


 俺はフェニックス・ブレードを鞘から抜いてまじまじと見つめる。

 ……取り敢えず、この剣の詳細を見てみよう。


 【フェニックス・ブレード】

 【攻撃力:80】【属性:炎・不死鳥】【片手剣】

 『不死鳥の願いが宿った炎の剣。

 不死鳥の願いに鋼の刃は存在せず、灼熱の刀身が人を守り魔物を焼き尽くす。』


 スキル

 【フェニックス・ドライブ】【フェニックス・スラスト】【フェニックス・ドライブ・マルチ】


「……どういう意味だこりゃ」


 詳細を見てもわけがわからない出来になっている剣を見て、俺は鞘に納めた。

 刀身”だけ”がないので、一応鞘にしまうのも簡単っちゃ簡単だ。

 まぁ、こんなのでどうやって攻撃すんだよ、って話だけどな。

 ……ん?さっきの本にまだ続きがあるのか、調べるアイコンが出て来た。


『真に見るべきは目の前の敵だけじゃない』


『目で見るだけじゃなく全身で感じてみるんだ』


『真実は常に意外なところにある』


 ……普段の俺ならちんぷんかんぷんだっただろうけど。

 なんでか、今はこの言葉を理解できた。


「よし……漢ブレイブ・ワン……まかり通るぜ」


 俺はフェニックス・ブレードをグッ、と握った。

 そして鞘から抜き放つ。

 刀身の無い剣だろうと……やってやる。

 俺の戦い方で、刀身の有無なんざ関係なくしてやるぜ!


「行くぜッ!」


 俺は全力で一歩を踏み出し、走り出した。

 そうだ……本当の敵は……最初に見ていたハズだったんだ!


『ガルルルアアアアアッ!』


「きゃあっ!」


 悪魔将軍の薙ぎ払った刃を受け止めきれずに、ハルが吹っ飛んだ。

 皆のHPは……かなり消耗しているようで、ランコは両足を失っていて、隅っこで座り込んでいた。

 ……よく見てみると、アインも左腕を斬り落とされている。


「皆! 待たせた!」


「ブレイブさん! 待たせすぎッス!」


「先輩……! もう、ヒーローだからって遅刻は許しませんから!」


「フ……遅刻は大目に見てやろう。

それで、その剣は……奴を倒すための物か?」


「さぁね……正直、さっきより不安ですよ」


 けれど……なんとなく、悪魔将軍相手でも戦えるとは信じている気持ちもある。

 だから俺はグッ、と力強く剣の柄を握り……スキルの詠唱に入る。

 すると──


「うおっ」


 フェニックス・ブレードの鍔から、刃が出て来た。

 炎を纏った……と言うか、炎そのもので出来ている、凄まじい熱さの刃。

 片手剣程の長さで、ごうごうと燃えていた。

 ……これなら、いけるか!


「フェニックス・ドライブ!」


 スキル名を叫び、思い切り剣を一振るい!

 炎からは……前にディララが放ったことのあるフェニックス・ヘルファイアと似た鳥──

 と言うか、炎で出来た鳥と言う時点で同じ、不死鳥が現れた。


『グアアアオオオオッ!』


 悪魔将軍は俺の放ったフェニックス・ドライブを叩き潰そうと、技の構えを取った。

 ……さっき先輩が放っていた、陸ノ太刀・流し斬りだったか。


「いけえええッ!」


『アアアアアッ!』


 悪魔将軍が旋回して振るった剣は、フェニックスに直撃した……が、所詮は物理攻撃を炎の塊に放ったに過ぎない。

 悪魔将軍の攻撃を受けても、俺のフェニックス・ドライブは勢いを落とさない。

 そのまま顔面へと突撃し、悪魔将軍の体を瞬く間に炎へと包んだ。


『グアアアアア!』


「効いて……いる?」


「多分」


「多分って……先輩、もう少し自信持ってくださいよ」


「仕方ねえだろ、初めて使うスキルなんだし」


 悪魔将軍は全身を炎に包まれたまま、悶えるように苦しんでいた。

 HPは……フェニックス・ドライブが入った瞬間と、燃えている体の持続ダメージでどんどん減っている。

 と言っても、まだHPバーの二割だけだ。

 悪魔将軍の耐性とかを考えると凄い方だが……本当に倒す敵はコイツじゃない。

 だったら、ちゃんといるはずだ……本当のボス、そしてソイツは今何をしているか!


「フェニックス・ドライブ・マルチ!」


 俺はフェニックス・ブレードを振るい、今度は七体のフェニックスを解き放つ。

 剣から飛び立った不死鳥たちは、俺の部屋の隅々に散っていき──


『な、なんだ!? うわあっ!』


「そこか」


 壁の模様と同化するように紙のようなもので隠れていた奴が炙り出された。

 メイド服を着て、角を生やした悪魔……いや、隠れるためとは言えどその服いるか?


『くっ……隠れていたと言うのに見つかってしまうとは……ならば、これ以上隠れても無駄だということか……ならば、私が直々に相手をしてやろう!』


「あんなところに新たなモンスターがいるなんて……」


「俺、全然気づかなかったッス……」


「いや、恐らくあれはブレイブでも気づいていなかっただろう。

恐らく、先ほどの部屋でヒントを得て……その武器のスキルで炙り出せた、と言う所か」


 ハルとユージンが驚愕の声を上げる中、先輩は冷静に解説してくれた。

 っつーか、俺が必死に探してた手がかりとかをたった二行で説明しないでくれ、先輩。


「ですが……敵を発見したのならば好都合! いきます……」


 ディララは杖と本を構え、魔法の詠唱を始めた。

 ユージンとハルも、本物のボスの方に向き直った。

 ……アインとランコは、まだ戦線に復帰できる状態ではないらしい。

 手足を斬られたのは最近の方だったか。


『ガアアア!』


「丁度いい、お前の相手は俺一人でやってやる」


 炎の拘束が解けた悪魔将軍は、無防備な先輩たちに剣を突き出してくる。

 だが、それは俺が盾でなんとか受け止め……弾く。


「フェニックス、集合……からの、一点突破!」


「グオオオオオッ!」


 本物のボスを見つけたフェニックス以外……つまりは六体の不死鳥だ。

 そいつ等を剣に集め、そのまま突き出す。

 そうすることで六体のフェニックスが密集して悪魔将軍へと突き刺さる。

 ……うん、悪魔将軍はあと少しで倒せるな。

 あれだけ硬かったのが、もうHPの残りが二割くらいだ。

 本来全体攻撃で使うようなスキルを一点に集中させることが出来れば、べらぼうに強い……また新たに、チートクラスの武器を手に入れることが出来てしまった。

 ……まぁ、それでもこの剣にだってデメリットはあるにはあるんだけどな。

 フェニックス・ドライブも、マルチもSPの消耗量が激しいし。

 その上、フェニックスの操作が思いのほか難しかったりする。

 アバターまで一緒に動きそうになるから、フェニックスだけの操作は相当面倒だ。

 と、思いつつ俺はSPポーションをがぶ飲みし、減ったSPを回復させておく。

 燃えている悪魔将軍が、そろそろこっちに向かってスキルを打ってきそうだし。


『ガッ……ガアアアアアアア!』


「来るか」


 咆哮を上げ、グルルル……と、唸りながら悪魔将軍は俺を吹っ飛ばした技に入る。

 地擦り斬月とか言われていたっけな……なら、こっちも近距離攻撃で応えてやるのが、熱い展開だろう。


『グルルルウウウオオアアアアアッ!』


「フェニックス・スラスト!」


 炎の刀身を大きくし、フェニックスの力を纏わせた剣を突き出す。

 地を削りながら放たれる悪魔将軍の剣と、俺の剣が交差した。

 地擦り斬月は、俺の左脇腹から右肩にかけて命中……俺のHPバーはたった一撃で1まで減る。

 だが、俺だって攻撃をただ受けたわけじゃない。

 悪魔将軍の膝に、巨大な炎に包まれた剣が突き刺さっていた。

 フェニックス・スラストはちゃんと悪魔将軍に届いていた。

 威力、勢いそのままに……その炎は、悪魔将軍のHPを……削り切った。


『グゥゥゥッ……グオオオオオォォォッ……』


 悪魔将軍はフラフラとよろめいたと思うと、止まった。

 そして、背中からズシン……と倒れ、肉体はポリゴン片となって消えた。

 カラン、と音を立てて刃のない剣だけがそこに残り、ドロップアイテムと経験値が俺たちに入る。

 ……経験値は入ってもまだ意味はないが、ドロップアイテムはいい物だな。流石ジェネラル。


「さて……あとはお前か」


 俺はHPポーションを飲み、ハルたちが戦っている真のボスを見る。

 名前は……【デビル・グレートジェネラル】か……悪魔大将軍とでも言うべきか。

 この臆病者はメイド服を脱ぎ去り、上半身裸の姿になっていた。

 あ、ちゃんとボディは男なのね……良かった。


「くっ……中々に硬いですね」


「あぁ、一筋縄ではいかないようだ」


「早く二人が復帰してくれないと、時間が稼げそうにッ!っと……ないッス」


 で……今は、なんとかしのげているようだが、皆ピンチっぽいな。

 悪魔大将軍が持つ武器は……右手に刀、左手に扇子。

 こんな洋風な屋敷には随分ミスマッチだなオイ。

 ……服もメイド服から軍服っぽいのに変わってるから、ミスマッチ感がすげえ。

プレイヤーネーム:N・ウィーク

レベル:50

種族:人間


ステータス

STR:85(+75) AGI:100(+50) DEX:0(+30) VIT:25(+25) INT:0 MND:25(+25)


使用武器:真・閃光雷刀

使用防具:真・龍の羽織 真・稲妻の髪飾り 真・稲妻の着物 真・魔力袴(緑) 真・幻手袋 真・魔力草履 真・力の指輪


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