第五十五話:集う勇者ってギルド名が廃れちまうからな
「……意外と、どうにかなったな」
「ですね」
かなり覚悟して挑んだと言うのに、雰囲気を台無しにされたような気分だ。
「ま、三人でも切り抜けられたんだから、七人なら余裕でしょ」
「そうですね、敵の攻撃もよく見るとそこまで速くないですし」
「フフ、もう今ならソロでも抜けられるだろう」
そう、あの大量のデビルたちとの戦いはあっさりと終わってしまったのだ。
先輩たちが落ちて来た俺たちとすぐに合流して、七人になったから……と言うのもあるんだが。
先輩、ランコ、アイン……この三人はデビルと戦いまくったおかげか、デビルにはすっかり慣れてしまったみたいだ。
慣れ過ぎたせいか、デビルの攻撃をスルスルと避けては一方的に倒している。
そのせいで、俺たち四人が覚悟を決めて一歩を踏み出す間に十歩くらい先を行っていた。
「なんだか、決死の想い! って感じで挑んだのが台無しッス」
「効率的にデビルを排除できたので、終わり良ければ総て良しとしましょう」
まだ終わりじゃねえだろ、今俺たちが目の前に見ているのはボス部屋で、今倒したのは結局のところ雑魚に過ぎない。
現在は全員回復こそしたが、疲れはしたので寝っ転がって休んでいるところだ。
先輩たちはぶっ通しで戦っていた故に、力を完全に抜いている休み方をしていた。
「ところで……ボスについてだが、どのように戦う?」
「そうですね……私と先輩で守って、N先輩たちに攻撃を任せるべきでしょうか」
「まぁ、それが一番だろうな。単純な物理攻撃だけなら、俺も受け止められるし」
ハルの作戦提案に、ランコとアインもうんうんと頷いている。
ユージンはポカーンとしていて、皆に任せますって顔だ。
ディララは『あなた方の問題でしょう、好きに決めてください』って感じの態度だ。
ドが付くほどの正論だから、どうとも言えねえな。
「うむ……大雑把ながらも戦い方はまとまったな」
「じゃあ、いざ出陣、ってとこッスかね!」
「ですね!」
先輩、ユージン、ランコが立ち上がる。
「よーし、デビルが出ようと、エンジェルが出ようと頑張るぞ!」
「私も、今ばかりは集う勇者のメンバーとして、戦わせていただきます。
ブレイブさんには……以前の借りがありましたからね」
「前回は先輩と一緒になれなかったので、今回は奮闘します!」
アイン、ディララ、ハルもそれに続いて立って武器を抜く。
最後に俺が立って……皆で円陣を組むようになった。
「皆、ここを抜ければ大きなものが得られる。よし……! 漢ブレイブ・ワン! まかり通るぜ!」
「応!」
俺が剣を掲げると、皆の声が揃い、同じように武器を掲げた。
そして、ボス部屋の巨大扉の前に立つ。
「せえあっ!」
先輩が恒例行事と言わんばかりにガァンッ!と金属の扉を全力で蹴り飛ばす。
扉は開き、ボス部屋に明かりがついて……真ん中に鎮座しているボスを発見。
ヤギのような角を生やした……っつーか、ヤギそのものな見た目。
だが、首から下はミノタウロスによく似ていて、黒色の肌でなければミノタウロスと間違えそうだ。
武器は両手剣……HPバーはたったの一本。
ボスにしては随分と少ないけれども、一本の密度が高いんだろうな。
HPバーが削れるごとに行動パターンの変化が起きる、ってギミックはなく、最初から最後まで同じなんだろう。
「よおおおしっ、行くぞ!」
「ファーストアタックは……私から!」
「セカンドアタックは僕で!」
俺の声に応えたランコとアインが飛び出し、先陣を切った。
まぁ、アタックはあくまであいつらに譲るけど、ボスの初撃は俺が防がなきゃだけどな。
と言うことで、俺は二人に続いて走り出し、一番前を走る。
『俺ヲ目覚めさせシ者らヨ……滅ブ覚悟ハ出来ているナァ!?』
体長3mはありそうなボスが立ち上がり、モンスターネームが現れると同時に吠えた。
モンスターネームは……【デビル・ジェネラル】……悪魔将軍か。
よく見ると、近くに燕尾服を着た男と、メイド服を着た女も立っているな。
まぁ、悪魔将軍が立ち上がった途端に離脱し、どこかに隠れて行ったので気にしない。
『グアアアオッ!』
「サード・シールド!」
悪魔将軍は真っすぐに両手剣を突き出して来たので、俺はサード・シールドを展開。
そして盾を構え、剣の突き出るところに合わせる!
案の定サード・シールドは剣とぶつかり合って数瞬で砕けたので、俺自身が悪魔将軍の剣を受け止める。
サード・シールドでも勢いを殺しきれなかった悪魔将軍の両手剣は、ガガァン! と重い音を立てて俺の盾とぶつかった。
「ぐっ……おっも……!」
「兄さん、大丈夫!?」
「一応無事だ! それより、攻撃のチャンスを逃すな!」
悪魔将軍は俺の盾を突破しようと剣を押し込む体制になっていた。
だから、俺は今全力で両手剣を掴んで止めている。
HPが少しずつ削れているが……これでランコたちに攻撃チャンスが生まれたんだ。
「ライトニング・スピア!」
「シャイニング・アックス!」
ランコとアインの放った二つの属性攻撃が、悪魔将軍の膝に辺りに命中。
まぁ、ほんのちょっと削れるくらい……ん?
「全然効いてない!?」
「硬い……斬った手応えがない……」
驚いて甲高い声になったランコ、苦虫を噛み潰したような顔をするアイン。
二人とも驚いてはいるが……まぁ、HPバーが一本しかないなら防御力が高いのはお察しだ。
それに、属性の通りが悪いだけかもしれねえんだ。
『グオオオ!』
「チッ!」
悪魔将軍は無理矢理斬り上げに入ろうとしたので、俺は咄嗟に悪魔将軍の両手剣を手放す。
なんとか持ち上げられるのは回避したが、マズいな、剣は今振り上げられた状態……このまま踏み込まれて、振り下ろされちまう。
避けるのは出来なくはないけれども……受け止めた方が攻撃のチャンスが来てくれるか?
『ガアアア!』
「考えてる暇は、ねえなっ!」
両手剣の振り下ろしを、俺の盾と剣で受け止める──
前に、別の盾と剣が悪魔将軍の剣を受け止めていた。
「ハル!」
「皆さん! 今のうちにっ!」
「お前の思い、無駄にはせんぞ、ハル!」
「んじゃ、遠慮なくいくッスよぉっ!」
「うおおおっ! 行くぜっ!」
ハルの言葉に応え、俺たち六人はスキルを詠唱し、放つ。
「落雷ノ一太刀!」
「ダブル・ウィンドソードッス!」
「流星剣!」
「アックス・スロー・オブ・バーサーク!」
「ブリザード・スピア!」
「【サード・アースランス!】」
十字を描くように放たれたユージンの風の刃。
先輩が居合の姿勢から放った、落雷を描くような斬撃。
俺が放った、星を纏って突撃してゆく剣。
アインが狂化して投擲し、回転しながら標的に迫る斧。
凍り付いた槍から放たれた、真っ直ぐに尖った氷。
膨大な魔法攻撃力から生まれ、放たれた土の槍。
『ガアアア!』
それらは全て、ほぼノーガードだった悪魔将軍に命中!
よし、これで流石にHPバーの一割くらいは──
「……全然削れてない!?」
「それどころか、ダメージを1も与えられてないような気がするッス……!」
「非常に困りましたね」
「ウッソだろオイ!」
「狼狽えるな、恐らく奴は属性耐性が多いだけに過ぎん! ならば、弱点を見つけ出して斬るまでだ!」
困惑したランコを始めとした俺たちを、先輩が落ち着かせてくれた。
先輩は居合の姿勢に入り、スキルを詠唱し始めた。
……よし、俺もあのスキルで行くとしよう。
『ガアア!』
「二撃目が!」
「任せてください!」
悪魔将軍が剣を横薙ぎに振るってきたが、ハルがそれを真正面から受け止めた。
ハルの方が、総合的な防御面では俺よりもずっと上みたいだな。
俺は結局、VITのステータスの値でしか防御出来てねえわけだし。
「今です! 攻撃を!」
「任せろ……【壱ノ太刀・薙ぎ払い】!」
刀を両手で握った先輩が放つ、一撃の薙ぎ払い。
悪魔将軍の膝に吸い付くように放たれたが、金属音と共に先輩の刀は止まった。
「【弐ノ太刀・十文字斬り】! 【参ノ太刀・剣閃】!」
「ぜ、全然効いてないッス!」
先輩が立て続けに放った斬撃も、悪魔将軍にはダメージになっていない。
クソッ、攻撃を受ける度に硬くなる仕様でもあんのか?
「まだだ……【肆ノ太刀・守裂】!」
『ガアッ!』
「おおっ、効いてる!効いてる!」
恐らく先輩が放った技は防御力貫通攻撃……確かにこれならダメージも入る。
なら、俺たちがやる行動はたった一つだ。
『グアアアオッ!』
「あの構えは……ハル! アレは【伍ノ太刀・霞二段】だ! 最初の一撃は受けず、二撃目だけを受けろ!」
「はい! サード・シールド!」
悪魔将軍が両手剣で放ってきた攻撃──
の一撃目は、幻影のように消え、直後にガァンッ!と言う金属音がハルの展開した盾に響いた。
以前、リザードマン・ロードと戦った時の技とよく似ている。
ただ、今の技の一撃目は幻影のように消えたから、ただのフェイントどころじゃないな。
「行くぞ! ディフェンス・ブレイク!」
「同じく、俺もディフェンス・ブレイク、ッス!」
「くらえっ! 【ディフェンス・クラッシュ】!」
「ディフェンス・ブレイク!」
「肆ノ太刀・守裂!」
俺たちの防御力貫通攻撃が、一斉に悪魔将軍に向かって叩きつけられる。
……だが、奴はどうやら防御力貫通攻撃だけじゃまだ効果的にダメージは与えられねえみたいだ。
現に、先輩に斬られた時もそうだったが、HPの数値が高すぎるんだろう。
だから、防御力を無視してもダメージは小さいし……ダメージカット系のパッシブは防御力と関係はない。
防御力貫通攻撃だったとしても、向こうがダメージカットのパッシブスキルなどを持っているなら相性が悪いな。
『グエエエアアアアアッ!』
悪魔将軍は右手で両手剣を薙ぎ払うように振るってきた!
剣の向きのせいで、ハルの盾の範囲外!
しかも、矛先は一番前に出ていた先輩と来た!
「くっ! 【陸ノ太刀・流し斬り】!」
旋回しながら放った先輩の太刀が、悪魔将軍の振るう両手剣と衝突。
だが、先輩のパワーは足りず、悪魔将軍に押し負けている。
「ぐっ……この、ままでは……!」
「サード・スラッシュ!」
俺は先輩の押し込んでいる力の向きに合わせ、悪魔将軍の両手剣に向けてスキルを放つ。
よし、これで……なんとか剣を止めてはいられる。
『ガアア!』
「ハル!」
「はいっ! っ、ぐ……」
悪魔将軍は剣で押し込むのが敵わないと悟ったか、拳で俺を殴りに来た。
だが、このたった数秒の攻防でもハルが来る時間を稼げた。
ハルは盾で拳を受け止めた直後、剣を鞘にしまってフリーになった右腕で悪魔将軍の腕を抑え込んでいる。
「今だお前ら!」
「ディフェンス・クラッシュ!」
「ディフェンス・ブレイク!」
「うおおおっ! ディフェンス・ブレイクッス!」
アインたちの防御力貫通攻撃が悪魔将軍に放たれる。
だが、これでようやくHPバーの一割の半分しか削れていない。
「フェニックス・ヘルファイア!」
どうするか、と悩んでいた所で、ディララの放った不死鳥を象った炎が悪魔将軍に命中した。
お、悪魔将軍が初めてノックバックした。
『グオオオッ! フゥッ……』
「思ったよりも、効いているのか……?」
一撃でHPの2%くらいは削れているし、俺たちの総合的な火力を上回っているかもしれない。
……もしかすると、コイツって意外と炎属性の攻撃に弱かったりするのか?
そういや、さっきの一斉攻撃でも炎属性の攻撃は誰も使ってなかったな……。
「先輩、炎系の技は──」
「あるに決まっているだろう! バーニング・ブレイド!」
「まぁ、俺だってありますしね! バーニング・ソード!」
「こっちにだってあるッスよ! バーニング・ソードッス!」
先輩、俺、ユージンの持つ炎属性のスキルによる斬撃が悪魔将軍に刻まれる。
……けれども、ディララのフェニックス・ヘルファイアよりもダメージはずっと少ない。
なんなら、今の三撃でもHPバー自体は減っているようには見えない。
ダメージは与えられているんだろうけどもな。
「くぅぅぅ、これじゃあ夜が明けようと倒せないッスよ!」
「弱気にならないでください、ユージンさん。
相手もモンスターではある以上、倒す方法だってあるはずですから」
「あぁそうとも、ビビって逃げてちゃあ、集う勇者ってギルド名が廃っちまうからな!」
そうさ……こんだけ強い相手なら、攻略のし甲斐があるってもんだぜ。
コイツを倒せば、先輩がずっと望んでいたことだって出来るんだ。
だったら、負けてなんていられねえ。
いつかは……王の騎士団のアーサーだろうが、真の魔王のカオスだろうが越えてやる。
コイツを倒して、上に行くのは俺たちだ。
「僕たちも負けちゃいられないですね、ランコさん!」
「うん! 兄さんだけに、いいカッコなんてさせられないから!」
「私も頑張りますよ! 色々と!」
「未知の怪物を斬る時ほど、心躍る瞬間はないものだな……フフフ」
皆の意気込みが揃い、剣を構えた悪魔将軍と再度睨み合う。
悪魔将軍は居合の構えを取った……これは先輩も見たことがある太刀シリーズか?
が、まぁいい……どちらにせよ、俺とハルで受けきるまでだ!
『地ノ底ニ還るガ良イ!』
『グオオオアアアアッ!』
「あれは【捌ノ太刀・地擦り斬月】か!」
「俺が止めてやる!」
悪魔将軍が放ってきた両手剣を、一番前にいた俺が盾と剣をクロスさせて受け止め──
ることは敵わず、俺は悪魔将軍から見て右の壁に叩きつけられ、壁をブチ抜いた。
俺のHPは……丁度、残り一割になった。
「ブレイブ!」
「兄さん!」
「先輩!」
「ブレイブさん!」
「お義兄さん!」
「ブレイブさんんんーッ!」
プレイヤーネーム:アイン
レベル:50
種族:人間
ステータス
STR:95(+80) AGI:70(+60) DEX:0(+20) VIT:50(+80) INT:0 MND:10(+40)
使用武器:双黒竜斧・改、白銀斧・改
使用防具:黒銀の鎧・改、黒銀の兜・改、魔侯爵の服・上・改、魔侯爵の服・下・改、黒鉛のグリーヴ・改、黒銀の籠手・改、疾風の腕輪




