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第五十四話:ラストリゾート

「……マジか」


「取り敢えず今どこにいるか聞いてみますか」


 いきなりのメッセージに俺たちは困惑しつつも、ハルが先輩へ返信した。


『今どこにいますか? あとN先輩はトラップなどにかかって転移しましたか? それとも真っ直ぐ部屋を進んだだけですか?』


 皆が固唾を飲んで見守っていると、また新たなメッセージが。


『それについては今は答えられん モンスターが死ぬほど湧いてくる 休憩していられる時間が一分程度しかない』


 ……ボス部屋を発見したって言うのに、何があったんだ?

 新しいトラップにでもかかったのか、ボス部屋前がそういう構造なのか。

 どちらにせよ、急がないと先輩が危なさそうだな。


「トラップが転移系だとマズいな」


「となると……俺とディララさんはあんまり動かない方がいいっぽいッスね」


 うーむ、あの感圧板で反応するトラップを解除したくても動けねえのが辛いな。

 あそこに辿り着くまでのトラップは結構多そうだし、殺される気しかしない。

 俺たちが入って来たドアと、あのトラップまでの距離が遠いわけだし。

 ダンジョンを作った奴が意地悪な奴なら、トラップは三、四個は置いてあるだろう。

 いや、意地悪でなかったとしても一つや二つくらいはあると見ていい。


「うーん……トラップがあると仮定すると、どんなものでしょうか」


「天井や壁を見ても何かを発射するような穴とかはありませんし……転移系ですかね?」


「シンプルに落とし穴とか!」


 ディララが腕を組んで悩んでいる所に、ハルとアインが予想を始めた。

 転移も落とし穴もありそうだが……天井がパカッと開いて何か落ちてくるんじゃなかろうか。


「天井からタライでも落ちてくるんじゃないッスかね」


「コントかよ」


 ユージンと俺の考えていたことは同じだった。

 だが落ちてくる物の内容は全然違っていた。


「うーん……じゃあどれが来てもいいようにさ、安定感のある人とかどう?」


「安定感ってなんだよ」


「ソロでもしぶとい人」


 ランコがそう言うと、全員の視線は何故か俺に集まって来た。

 ……いや、俺に行けとかそういう奴じゃないよな?

 俺に選んでくれ、って意味だよな?


「お願いするッスよ、ブレイブさん」


「骨は拾いますから、先輩」


「貴方だけが頼りです、ブレイブさん」


「頑張ってください、ブレイブさん!」


「頑張れ兄さん」


 ……完全に俺が行く流れになってる。

 皆俺の肩やら背中やらにポン、と手を置いてくるが……嫌だ。

 ぜってえ行きたくねえ。

 一人でダンジョンを探索するのは超嫌だ。

 つーか、俺はしぶとい自負こそあれど、割と死ぬときは死ぬからな?

 俺は確かに物理攻撃にこそ強いが、魔法には滅法弱い。

 MNDは別にそれほど問題ないんだが……正確には属性攻撃に弱い。

 俺の装備している小鬼王シリーズは、何故か属性攻撃への耐性が低い。

 だから魔法攻撃力だけの威力じゃなく、属性の乗る魔法攻撃全般には弱い。


「頼むよ兄さん、兄さんならぶっちゃけいなくなっても損失ないから」


「そうですよ先輩、守りは私が、攻めはアインさんとランコさんがいますし」


「僕たちでユージンさんたちを守るので、ブレイブさん! よろしくお願いします!」


 ……なんだか俺が必要ないって言われるみたいで嫌になって来たな。

 この野郎どもが……一人でトラップにかかりに行くってどれだけ怖いってわかってんのか。

 虫とかいたらどうすんだよ。俺発狂するぞ? ログアウトしちゃうぞ? プツンッと行くよ?


「ほらほら兄さん、時間が無駄だからとっとと行ってよ」


「ブレイブさん! お願いします!」


「諸刃の剣」


 ランコが痺れを切らしたように俺を蹴り始めたので、俺は即座に諸刃の剣を発動。

 よし、もうコイツら許さねえ。


「え?」


「あ、ちょ、兄さん?」


「くぅぅらえええええええっ!」


 俺はランコとアインの腕を掴み、全力で真後ろに向かって叩きつけた。


「ぎゃんふっ!」


「ぐはっ!」


 ランコとアインは顔面から床に沈んだところで、二人の倒れた床がパカッと開いた。


「あっ」


「えっ」


「じゃ、バーイ。仲良くやれよこのリア充共」


 俺は中指を立てながら二人を送り出し、手を振ってやる。

 自分の妹とその友達に何してんだ、って客観的にはツッコみたいだろう。

 けどな、いくら優しいお兄ちゃんでもイラッと来るときは来る。

 そういう時は、妹だろうが誰だろうが手加減をしてはならんのだ。

 ……まぁ、それに二人こそ俺よりしぶといだろう。


「このクソ兄貴いいいいいいい!」


「なんでえええええええええ!?」


 本性を剥き出しにしたランコと、困惑するアインはその言葉を最後に消えた。

 パカッ、と開いていた床は元に戻った……うん、多分先輩はこれにかかったっぽいな。

 床の色が全く同じだし、見抜こうにもそれっぽい目印も何もない。

 こりゃあ仕方ねえよ。


「……鬼ですか貴方は」


「いや、小鬼だけど」


「そういうこと聞きたいんじゃないッスよ……」


 ディララとユージンが呆れた様子で俺を見るが、知ったこっちゃねーよ。

 先輩がこれにかかったなら、二人だってちゃんと合流できるだろ、多分。


「取り敢えずトラップがあることはわかったんだ。

俺たちは別のルートから行こうぜ」


「……はぁ、ちょっと流石に私でも引きました」


「一人で落とし穴直行させられる立場になってから言え」


 そもそも俺は方向音痴なんだ。

 ダンジョン内でだって結構迷子になること多いんだぞ。

 だから入り組んだところとかは嫌いなんだ。


「まぁ、二人から死んだとか死にそうってメッセージは来てないッスね。

それにHPも減ってる様子はないみたいッス」


「なら、無事……問題なし、ノー・プロブレムと見ていいでしょう」


「じゃあ、俺たちはあのトラップを解除してから、奥に続くドアに行くとするか」


 ランコとアインを叩き落とした落とし穴の位置は大体わかってる。

 この部屋自体は特にオブジェクトも少ないし、あのトラップに辿り着けたらいい。


「よし、じゃあ俺が行くから──」


「待ってください」


「あ? どうした?」


 俺が足を前に出そうとすると、ディララに肩を掴まれたので俺は足を戻す。


「私に任せてください」


「極振りのお前に行かせてどうすんだよ」


「いえ、私の持つスキルなら……トラップにはかかりにくいかなと」


 俺は頭にクエスチョンマークを浮かべ、首を傾げた。

 ハルも傾げた、ユージンも傾げた。

 どういうことだ。


「まぁ、一見は百聞に如かず、って奴です」


 ディララはそう言いながら、走る構えを取った。

 ……いや、その言葉は違くねーか?


「では行きます……【跳躍】!」


 ディララがノロノロとした速度で走り出してスキル名を叫ぶと、ディララは高く跳んだ。

 おぉ、天井に当たらないギリギリ……しかも、ディララの落下は遅かった。

 ふわり、と跳んだかのようにゆっくり落ちて行き……ディララは矢を発射するトラップの真後ろに着地した。

 すげえなあのスキル。


「ふぅ……」


「ところで、俺たちはどうやってそっちに行けばいいんだ?」


「少しお待ちを」


 ディララはトラップから離れる……と言うよりも、ドアに近づいた。

 なんならドアを背にして俺たちの方を向いている。

 そこでディララは目を瞑って……杖をこっちに向けて来た。

 ……あ、もうなんとなく予想できた。


「吹き荒れろ……【サード・ブリザード】!」


「流星盾!」


「マジック・アヴォイド!」


 ディララが杖を床に向けて魔法を放ったが、念のためで俺たちは防御スキルを放っておく。

 ……魔法の余波が若干こっちに来て、流星盾が凍り付いた。

 うーん、俺の属性耐性が低いおかげで、流星盾もこんな風に魔法が来ればあっさりと使えなくなるな。


「さ、これで渡れますよ」


「すっげー無茶苦茶ッス」


 ユージンの感想に、俺はうんうんと何度もうなずく。

 いやだって、氷の魔法で床を凍てつかせて橋の代わりみたいなのを作り上げやがったもん、ディララ。

 これなら落とし穴だろうが地雷だろうがあっても関係ないけれど……こんなの規格外だろ。


「まぁ、この無茶苦茶なのが極振り故ですよね」


「確かに」


 極振りと言えばカエデを思い出すが、アイツはMNDとVITで半々らしいからな。

 ……それでも、STRとかの他のステータスには一切ステータスポイントを使ってねえし、実質極振りだな。


「……この扉には鍵がかかってるんでしょうか、開きません」


「攻撃すれば開くタイプとかか?」


 氷を渡って、ディララの所まで行くとディララはドアの前で悩んでいる顔だった。

 ドアが開かないとなると……面倒くせえことになりそうだな。

 最初の所に戻って、別のルートを探索して行くことになりそうだ。

 けれど、この四人だとどーも不安が残る。


「取り敢えず俺が試してみるッス」


「頼んだユージン」


 ユージンが双剣を握り、腕とクロスさせて構える。

 なんかのスキルか?


「【強風乱舞】! うおおおおお!」


 風が流れるかのような凄まじいスピードで、ユージンの双剣がドアに叩きつけられ始めた。

 アインのバーサーク・スマッシュや、リンの水流乱舞よりも速いな。

 これなら流石の俺も一撃だけにカウンターを合わせるってのは難しい……っつーか無理だな。

 ユージンが分身してるかのように見えるんだもん、コレ。


「ふぅっ……はぁっ……ふぅっ……ど、どうッスか!?」


「……開きませんね」


 ディララがドアノブをガチャガチャと回したり、押したり引いたりしているがドアは動かない。

 ……ユージンの攻撃、確かに速度こそ凄かったが、威力が足りないのか?

 ダメージ0の攻撃を1億回繰り返したって意味はない、って理論でドアもそんな感じなのか。

 だとしたら。


「ハル、今度はお前がやってみてくれ」


「はい!」


 ……ダメだったので、割愛。


「じゃあ俺がやるか!」


 ……勿論俺でもダメだったので、割愛。


「ならば、最終兵器ラストリゾートたる私が──」


 ……最終兵器、とか言ってたディララでもダメだったので、割愛。


「全然ダメッスね」


「そうだな」


 破壊不能オブジェクト……言わば、どれだけ何をしようと無駄。

 絶対に壊せない数値になっているレベルの硬さ……ってワケだ。

 となると、このドアは何らかのフラグを建てる必要があるのか。


「……します? 探索」


「……しますか」


 開かないドアと、凍った床を見て……俺たちは入ったドアの方へ振り返る。

 すると、都合が良すぎるんじゃないか、と言う程のタイミングでメッセージが来た。

 パーティ内全員に届くメッセージなので、読み上げる必要なし。

 で、メッセージを送って来たのは……先輩とランコか!


『何とか生き延びた、死にかけたがアインとランコのおかげで助かった』


『あのトラップはN・ウィークさんの言ってたボス部屋に繋がってたみたい』


『ボス部屋も開けようと思えば開けられるみたいです』


 ……で、アインのもたった今来た。

 ふむ……じゃあ、落とし穴に落ちるのが正解のルートってワケか。

 他の部屋とかはダミーなのか、それに通ずるヒントでもあるのか。

 それとも……何か、また別の物があったりするんだろうか。

 まぁ、どっちにしろどうだっていいか。

 善は急げ、だ。


『わかった、じゃあ俺も落とし穴でそっちに向かう』


 と、俺はランコたちにメッセージを送信し、ハルたちも同様の事を書き込んでいた。

 俺は立ち上がって、ハルたちに目配せをする。


「よしお前ら……じゃあ行くか!」


「では氷を溶かします。サード・ヘルファイア!」


 ディララが杖から獄炎を放つと、床に張っていた氷とぶつかり合い、凄まじい水蒸気と共に部屋が元に戻った。

 溶けた氷は水になって、床に染み込むように消えて行った。

 だが床に水が染みた様子はなし……ま、気にしなくてもいい程の事か。


「んじゃ、俺から行くッス!」


「では続いて私がっ!」


 ユージンがアインたちの落ちた落とし穴のある床に目掛けてジャンプ。

 ハルもジャンプ、無言でディララと俺もそれに続き──

 底の見えぬ落とし穴へ、自由落下。


「うおおおおおおお!」


「わああああ!」


「……」


「結構長いなコレ!」


 落とし穴に落ちている間……まるで、エレベーターに乗っているような感覚だった。

 体が浮いているのにも関わらず、着地するまでの時間がとても長く感じられて……何よりも、周りは真っ暗なはずなのにユージンやハルたちはしっかりと視認できる。

 俺たちが落ちて来た穴はもう見えなくなったと言うのに。


「あ、なんかそろそろ着地するような気がす──おばっふ」


「うわっと」


「よっと」


「ぐはっ!」


 ユージンと俺は着地に失敗し、ユージンは顔面から、俺は背中から地面に激突した。

 まぁ、幸いなことにHPは全く減らなかったが……それでも落ちたという感覚はある。

 体育の授業で思い切りマットに叩きつけられた時みたいな感覚だ。


「ふぅ……それで、ランコさんたちはどこに──」


 ハルが辺りを見回して言い始めた所で、俺たちは固まった。


「あー……先輩が死にそうになる理由も頷けるな」


「つーか、俺たちでも死ぬんじゃないッスか?」


「ですが、ランコさんたちは察してこちらと合流するかもしれません。

故に……ノー・プロブレム、問題ありません」


 そう、俺たちはさっき六人がかりで連携して仕留めていたデビルたちに、囲まれていた。

 数は大雑把に見ても、十体以上はいる。

 俺一人なら逃げの一択だが……四人もいれば、チャンスはあるよな。

 多分だけれども、この包囲網を抜ける事だって出来ると思う。


「よぉしお前ら……気ぃ引き締めていくぞ!」


「おう!」


 三人の声が揃い、俺の声に応えてくれた。

プレイヤーネーム:ハル

レベル:50

種族:人間


ステータス

STR:55(+58) AGI:20(+30) DEX:0 VIT:75(+120) INT:0 MND:75(+120)


使用武器:黒金の剣・改、黒金の大盾・改

使用防具:黒金の鎧・改、黒金の冠・改 守りの黒衣・改 鉄壁スカート・改 黒金のグリーヴ・改 黒金の籠手・改 守りの指輪+3


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