第百話:芸術は、爆発だぜ
「レオとリュウがやられたか……クックック、奴らは真の魔王の中でも結構強い方だ」
「カオス、それ普通にヤバい状況だから」
カオスはクールな表情と声音でそう言うが、焦ってるのが目に見える。
氷の刃を次々に飛ばしてキロスを倒していくのはいいけれど、飛ばし過ぎだ。
レオとリュウの分まで補おうとしてるんだろうけど、このままじゃガス欠しかねない。
なら、今の俺たちが出来ることは──!
「レオとリュウがいなくなった分、俺らももうちょいペース上げるぞ!」
「了解! じゃあ私も本気で行きます!」
「そうですね……! 僕も出し惜しみはしません!」
リンとアインはギアを上げ、ダメージ覚悟の突撃を始めた。
二人がこうして突撃してくれてる以上……ボス戦組もどうにかなるか? と、メガロスの方を向くと、盾での防御姿勢に入っていた。
「……マジか」
中衛組と後方支援組の弾丸、矢、魔法が次々にメガロスに命中するが、ダメージが全然入っていない。
……防御力貫通攻撃とかは試してはいるんだろうが、何か別のギミックがあるんだろう。
となれば……ただの時間稼ぎって所か?
「まずいですね……非常に」
「どうした、ガウェイン」
「レオさんとリュウさんが落ちた以上、キロスの処理がかなり苦しくなってきています。
このままでは、本隊にまで被害が及びかねない」
「そりゃわかってる。だから俺たちがペースを上げて、キロスを殲滅しようって方針にしてるんだろ」
「ですが、それは無理に穴を埋めているだけに過ぎない。消耗が激しくなる一方、向こうはまだどれだけの雑魚がいるかもわからない状況です。
故に、第三回イベントで使っていた小鬼を呼び出すスキルを使って貰いたいのですが、出来ますね?」
「使いたいのは山々だけどな……今の状況だと、アレを使うよりも俺自身が一人で戦い続けた方が消耗は抑えられるんだよ」
小鬼召喚をしたところで、キロスを相手にするのは難しい。
ゴブリンキングくらい呼べればどうにかなるかもだが……キングは一体だけでもかなりのSPを持ってかれるし……ステータスだけなら頼れる方だけど、プレイヤーのような多彩な動きが出来るわけじゃないことを考えれば大人数での連携は難しい。
「……そうですか、では仕方がありません」
ガウェインは残念そうにしつつも、フリーになっているキロスに斬りかかった。
……今は一番前にリンとアインがいて、二人が暴れに暴れてヘイトを稼いでいる。
オリオンはこん棒を抜かず、矢を番えて撃つことだけに集中。
アルトリアとKnighTはくっついて行動しているし、モードレッドは単騎。
カステロ、ボルクス、ユージンは三人で手早くキロスを倒している。
カオスは無詠唱魔法でキロスを凍らせ、砕くを繰り返すのみ。
「どうすっかな」
ガス欠しそうなアインとリンの方を手伝うか、一人で動くかの二択。
だが、俺のやれることを考えればすぐに答えは出た。
「おおッ!」
「お義兄さん!?」
「ブレイブさん!」
アインとリンが驚いて手を止めるのを気にせず。
俺はフロート・シールドをジャンプ台にしながら密集するキロスに向けてダイブ。
勿論、無防備に飛び降りるわけでもなく、スキルを使って。
「ゴブリンズ・ペネトレート!」
丁度俺が飛び込むであろう位置に立つキロスに向けて、放つ。
そこから剣を横薙ぎに振るい、穴を埋めるように集まるキロスを斬る。
既に鬼化は使い、ステータスにブーストはかけてある。
「さぁて……一気に押し返すぞ!」
「了解です!」
「その言葉を待ってました!」
リンとアインがキロスをかき分けるようになぎ倒しながら俺の隣に立ってくれた。
……よしっ、三人寄らばなんとやらと言うし、なんだかやる気が出て来た。
「水流乱舞!」
「バーサーク・スマッシュ!」
本当に踊っているかのような、美しさをも思わせる攻撃。
パワーに物を言わせたかのような、速くも乱暴な攻撃。
それらが縦横無尽に振るわれ、飛び交う刃はキロスを片っ端から斬り飛ばしてゆく。
一方で本隊の方をちらりと見ると、メガロスが防御状態を解除していた。
「……どうすっかな」
中衛と後方支援隊の攻撃が入り、少しずつメガロスのHPは減ってゆく。
……もう少しでHPバーの二本目が削れるって所だが、減りが遅い。
メガロスへの攻撃チャンスが中々やってこないってのが痛いな。
「お義兄さん! そっち行って――」
「わかってるよ」
アインの注意を聞くまでもなく、俺は向かってきたキロスを斬り伏せる。
……一体一体は、今の俺たちなら大したことはない。
だが、数が増えると面倒になるし、塵も積もればなんとやら──いや、もうどうでもいいか。
「ハァッ!」
『アーッ!』
考えることなんてやめだやめ、アレコレ考えてどうにかなるもんじゃない。
第一、俺はどうしようもないくらいのバカ野郎なんだ。
だったら、ひたすらに目の前のキロスをぶった斬るのがいい。
『ヘーッ!』
「シッ! ハッ! せぇいっ!」
向かってくるキロスの斧を躱し、掌底を当ててからグラつかせ、蹴りを入れてから首を刎ねる。
確かに小鬼帝の剣は壊れることはないが……何も、剣で斬るだけが攻撃じゃない。
剣道だって、竹刀を振る以外にも攻防のテクニックはあるんだ。
「よし! 二本目! 皆この調子でいくぞ!」
……メガロスの二本目のゲージが削り切れた。
アーサーが皆を鼓舞し、やる気を引き出させている。
だが、この調子では皆が持つかどうかわからない。
『オオオオオ……』
「毒ガスブレスが来ます!」
カエデが叫ぶと、すぐさま回復隊が何かを詠唱する――
と、全員に高度の毒耐性バフが付与され、ブレス自体のダメージはほぼ0だ。
更に、毒状態を治す回復魔法も使ったようで、前線の毒は全て消えている。
「仕事が早いことで」
「心強くて何よりですよね!」
「つくづく助けられっぱなしですよ、僕ら……!」
三人でキロスを斬り伏せながら、軽く会話を交わし――
本隊を守りながら戦うメンバーたちとの挟み撃ちのような状況が完成した。
さっきまではこっちが囲まれるがままだったが、キロスの数が減り出した。
……皆、この一瞬一瞬の間で戦況をコロコロと変えるんだな、スゲーよ。
「来ます、火炎ブレスです!」
「流星盾!」
「【ラウンズ・エレメント・シールド】!」
「【地獄門】!」
ハル、ギャラハド、カエデの最大級のシールドが展開される。
他四人のタンクは普通に盾を構えるだけで、スキルを使ったのは火炎ブレスの軌道にいた三人だけだ。
メガロスが吐いたの火炎が盾にぶつかってあちこちに弾けてから三秒ほど。
迫りくるキロスを斬り、殴り、蹴り飛ばしていると――
『グオオオオオオオ!』
「溜め技! 防ぎきれ!」
「はい!」
火炎ブレスを終えたメガロスがすぐさま溜め攻撃を放ち、タンク隊を薙ぎ払った。
スキルを使わずに直接受けたせいか、何人か大きくHPバーを減らしている。
が、すぐさま回復が入ったのでもうノーカンだな。
「行くぞ! くらうがいい……! ロンゴミニアド!」
「フッ……! 神天ノ太刀!」
「聖十字剣戟!」
聖剣から放たれる大槍、天まで届く神業、聖なる十文字の斬撃。
それらがメガロスの腹、膝へと放たれ、着実にHPバーを削りつつメガロスの体勢を崩す。
そこに、四人が踏み込んだ。
「魔力放出、からの魔力集約、そしてジェット・ストライク!」
「【ナインスウッシュ・ワン・ブーストパンチ】」
「ハァァァッ! 雷鬼鉄槌!」
「ヘルフレイム・フェニックス・スラスト!」
MPを解き放ってオーラを全身に纏い、それを剣に集約させての一点突き。
武器を持たず、ダンと踏み込んで赤く輝く拳での殴打。
雷と共に加速し、雷鳴の如き轟音を唸らせながら叩きつけられる槌。
地獄の業火によって生み出された不死鳥のエネルギーを込めた、槍の突き。
体勢が崩れたメガロスの腹、頭、首へとそれぞれが突き刺さる。
「よし、かなり削れた……!」
「交代だ!」
ユリカとカイナスがそう言いながら合図を出すと、攻撃隊と中衛が入れ替わる。
中衛の先ほどと全く同じスキルがメガロスに放たれると、メガロスのHPバーは更に減る。
なんなら、最初の総攻撃の時よりもHPバーの減りが早いくらいだ。
「なるほど、メガロスはHPが削れるほど防御力が下がるのですか……」
「そんなのわかるのか、ガウェイン」
「推測ですが、それで合っているはずです。現にHPが削れるペースがどんどん早くなっています」
「要はぶった斬れば更に斬れやすくなンだろ、だったら楽じゃねえか!」
ガウェインの冷静な分析と、モードレッドのシンプルな結論。
おかげで、メガロス攻略に希望が見えて来た。
っつーか……コイツらいつの間にかキロスをブッ飛ばして来たのか。
もう、キロスの数は最初に見た時の半数は減っているように見えるぞ。
「三本目……攻撃パターンが増えるかもしれない、皆注意!」
「はい!」
そうこうしている内に、メガロスのHPバーはもう三本目が削れた。
キロスの数もこうして減ってきたし……四本目が折れる頃にはキロスも潰しきれるか。
なら!
「皆、一気にペース上げるぞ! ここでキロスを倒しきる!」
「何か、秘策でもあるんですか?」
「特になし、ただとっとと倒すだけだ!」
「さいですか……なら、わかりましたよっ、と!」
リンは何かしらのスキルを使ったか、速度を上げ始めた。
一方でアインはベルセルク状態になったようで、素手でキロスを屠っている。
ガウェインとモードレッドは一撃でキロスを倒し、どんどん数を減らす。
俺も負けてられねえな。
「フェニックス・ドライブ・マルチ!」
「メギドバースト」
精密な操作は考えず、取り敢えず目の前にいるキロスに当てるだけ。
真っ直ぐに飛ばすだけなら、七体同時でも可能っちゃ可能だ。
そんな俺に張り合うように、カオスが広範囲魔法でキロスを一気に吹っ飛ばした。
「おらよっ!」
「ハァッ!」
「中々やるな、KnighT……私の隣に並び立つに相応しい活躍だ」
弓矢とは思えない威力の矢をぶっ放すオリオン。
そんな彼のすぐ近くで、KnighTとアルトリアが競い合うようにキロスを倒している。
この二人、結構仲良くなれてるんだな。良かった良かった!
「よーし、俺たちも負けてられないッスね!」
「無論だ! もう遅れは取らん!」
「兄よ、我らも惜しみなく戦いましょう!」
閃光のような速度で行ったり来たりしてるように見える三人。
が、実際はすれ違いざまにキロスが斬られ、斬られ、斬られる……
「勝利は目前だ! 皆、死力を尽くせ!」
「応!」
回復隊のリーダーであるイアソーンがそう言いながら手を振ると、俺たちに多数のバフが来た。
……いや、俺たちだけじゃない、恐らくここにいるプレイヤー全員にだ。
攻撃力から防御力に始まり、持続回復に加えてスキルクールタイム減少……今が決め時か。
「よし! もう遠慮することはない! メガロスさえ巻き込まなきゃ、どんなスキルでも解禁だ!」
「っしゃぁ! それを待ってたぜ!」
「では……お言葉に甘えて!」
俺の指示に真っ先に反応したモードレッドとガウェイン。
彼女たちは剣にライトエフェクトを纏わせ、モードレッドは大上段に構え、ガウェインは放り投げる。
ガウェインはそのまま飛び上がり、バレーのスパイクのように、剣を思い切り叩きつけた。
「【サンシャイン・フォース】!」
「【クラレント・レッドサンダー】!」
地を走る太陽の炎と、赤い雷。
キロスの移動手段を奪い、逃げ道を絶ったか。
なら!
「【カースフレイム・フェニックス・ドライブ・マルチ】!」
「水流飛沫!」
「【ベルセルク・フォール】!」
呪われた黒い炎が象る不死鳥を七体飛ばし、それを縫うようにリンが駆け抜ける。
アインは倒れたキロスを踏み台にし、バック転と共に跳び上がってから――
落下し、着地点に凄まじい轟音と共に絶大な威力の衝撃波を響かせた。
「おうおう、すげえスキルだな」
「であれば……私も! 【ヘルフレイム・ストライク】!」
「バースト・エア! 【シャイニング・ブラスター】!」
オリオンがアインたちに感心していながらも、こん棒でキロスを一体一体仕留めている。
一方でKnighTとアルトリアもスキルを惜しみなく使っている。
ユージンとカステロとボルクスは……なんかもう、見るのが嫌になる速さだ。
「いよっし、どんどん減って来た……!」
俺が三人の速度に口をあんぐりと開けている間にも。
キロスの数はどんどん減っていき、カオスの氷と炎が次々にキロスを包む。
「よし、もう数えられるくらいの数にはなったか」
「早えよ!」
メガロスを巻き込まないようにしているはずなのに。
皆の総攻撃で、次々とキロスが消えて潰れていく。
もう、俺たちがキロスの数を上回る程の人数差になってしまうほどに。
「……だったら、ラストスパートだ!」
「応!」
俺の声に応えたオリオンは、思い切りこん棒を投擲した。
ライトエフェクトを纏いながら回転するそれは、ギュン、と加速して――
俺の頬をかすめながら、固まりながら一点に集まるキロスヒットして。
「芸術は、爆発だぜ」
どこかで聞いたことのあるようなセリフと共に大爆発した。