1.亮平 アイドルのオレ
オレは知った。
あの頃、君が見ていた空の色を。
そして、オレは知る。
これから、君が見る空の色を。
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「Earthのみなさん、本番入りまーす。」
の掛け声によって、オレはアイドルとなる。
一瞬にしてカメラの前でアイドルとなる。
オレの仕事はアイドル。自分の口から自身はアイドルと名乗るのはムズがゆい気もするが、本当のことだ。仕事の内容はありがたいことに多岐にわたるが、最近のアイドルを取り巻く環境は、昔と大きく変わり、歌って踊れるのは当たり前。それ以上のことが求められる時代となった。俳優、声優、報道番組の司会やコメンテーター、バラエティ番組においては芸人顔負けの体当たりもこなす。テレビを見れば、誰かしらアイドルが画面に映りこんでいる。オレも例に漏れず、昼間のワイドショーのコメンテーターを週1回、月曜にやらせてもらっている。また、趣味の読書が高じて、週1回だが深夜に30分のゲストを交えて本を紹介する番組を持つようになった。また、雑誌でエッセイやコラムなどを時々書くこともあるが、基本は読み専だ。本は好きだが、本の書き手になりたいと思ったことは一度もない。
オレの名は、橘 亮平。アイドルグループ「Earth」のメンバーである。Earthとは直訳すると「地球」という意味であるが、これは日本だけにとどまらず、地球全体をターゲットにしていこう、という何ともスケールの大きな意味を込めてつけられた。まぁ、本当のところはメンバー5人の名前の頭文字を並べた結果、たまたま「Earth」となっただけなのだが。
「E」は、五十嵐 詠斗、通称エイト。グループ最年長であり、Earthのリーダーを務めている。182センチの長身を生かし、モデル業もこなす。普段からオシャレで、私服でテレビに出演することも少なくない。彼はどんなことにおいても責任感が強く、リーダーになるべくしてなった、とオレは思っている。
「a」は、今井 アキト、通称アッキー。英国からの帰国子女ということもあり、語学堪能。だが、凄いのはそこだけではない。彼は「ザ・アイドル」、アイドルの中のアイドルとメンバーのオレでさえ思ってしまうほどの輝きを放っている。グループの中で飛び抜けてダンスが上手く、また彼にファンサービスをやらせたら、彼の右に出る者はない。なおかつ、プライベートを徹底して匂わせない。天性のアイドルだと、オレは確信している。
そして「r」がこのオレ、橘 亮平、通称りょう。自身でグループでの立ち位置を分析するのは気が引けるが、オレはグループ内ではあまり前へ出ていくタイプではない。極度の人見知りというこの業界に身を置くものとして何とも致命的な運命を背負っており、5人でトーク番組に出演した際、何も話さずに終わる、というとても残念なことを過去にやらかしてしまったこともある。大いにメンバーに助けてもらっている、といったところか。
「t」は、大原 巧、通称たく。グループの中で一番歌への思い入れが強く、ソロ活動も積極的に行っている。彼は基本自然体で、外見に強いこだわりはないようで、髪を染めたところを未だかつて見たことがない。一言で言えば、クールな男で、多くは語らない。
最後の「h」は、中川 大翔、通称ハル。グループ最年少でとにかくパワフル。グループ内のムードメーカー的存在だ。本人は決して見せようとはしないが、かなりの努力家で負けず嫌いだ。その性格が買われてか、何かとバラエティ番組でよく対戦をしている。
そんな5人で「Earth」は構成されている。幸いなことにデビュー当初からメンバーが誰一人抜けることなく、今まで5人で走り抜けてきた。それももう12年になる。
オレらは他のアイドルグループに比べ、グループでの活動が少ないため、グループとしての認知度はそう高くない。個々の活動を重視しているため、グループ仲が悪いのではないか、と噂されることもあるが、それは強く否定しておく。また、際立ったグループ活動をしないのであれば、解散すればいいのではないか、とありがた迷惑な助言を耳にすることあるが、オレは少なくとも全くその気はない。
オレはあくまでも「Earth」の橘 亮平であり、橘 亮平個人としての仕事も全て「Earth」に還元できていると思っている。まぁ、そう言えば聞こえはいいが、「Earth」という名にすがりついていることを否定できない自分がいるのもまた事実である。
「Earth」のメンバーとして活動を続けてきて12年、今年でオレは30歳となる。青春時代を「Earth」に捧げてきたと言っても過言ではない。今までのさまざまな活動を振り返れば、よくやってきたと自負できるが、30歳を迎える今、そしてこれからオレはこのままアイドルとして輝いていけるのだろうか、そもそも今もアイドルとして輝いているのだろうか、そう漠然と考えながら過ごすことが最近増えてきた。
30歳という節目の年齢がそうさせるのか、オレが自信をなくしているのか、それはわからないが、今葛藤という名の渦の中をさまよっていることに間違いはなさそうだ。




