死の天使 Full version〜1〜
そう遠くはない昔の噺。
従来語り継がれている死の天使の物語とは、ほぼ180度違う噺。
古めかしいが、こう語り始めよう。
今は昔、と。
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今は昔、冷酷で残忍な少女がいた。
いつもいつも、狂ったように笑い続けていた。
彼女は両親を殺し、友達を殺した。
その死体を前にして、少女は嗤っていた。
「あはははっ!はは、ふふふふっ」
村人は、彼女をこう呼んだ。
《死神》と。
誰も少女に近付かない。
それが少女にとっては嫌で、自分を避ける人を殺して回った。
やがて村人は、少女に恐れをなして別の村へと移っていった。
村に自分以外の人間が居なくなった少女は、寂しさのあまり泣き叫んだ。
少女は、孤独が嫌だっただけ。
少女は、ただ寂しかっただけ。
それが歪んでしまった結果として、人を殺してしまった。
殺している最中は、孤独を忘れられたから。
血で汚れた自分を見て、再び少女は泣き喚いた。
やがてそれは地を震わすような絶叫に変わる。
少女の心にあった寂しさは、憤怒となった。
何故、皆自分を避ける?
何故、皆自分を拒む?
何故、皆自分を見下す?
嗚呼、腹立たしい。
少女は村を転々としながら、殺戮をし続けた。
少女にとっては報復で、村人にとっては恐怖だった。
いつしか初心を忘れ、少女はただの殺戮機械となった。
少女の前に、死の天使と名乗る少年が現れた。
「君と一緒に居てあげる」
少女は、戸惑った。
今迄嫌という程の人間を見、殺してきたが、こんな人は初めてだった。
「大丈夫、僕も殺人者だよ。だから、君を怖がらないし、ずっと側にいてあげる」
死の天使は、微笑んだ。
表面上は優しいが、陰で北叟笑んでいた。
それに少女は気付かずに、死の天使を信じ込む。
「私と…ずっと一緒に居て?」
「うん。ずっとずっと、ね。約束」
少女は微笑み、死の天使が差し出した小指に自分の小指を絡めた。
それが、契約の言葉であることも知らずに。
それからは、二人で殺戮機械となった。
少女は一緒に居てくれる少年を、とても大切に思ったいた。
正体を隠して行ったとある村で、二人は目撃した。
1人の少年を、大人数で虐めている現場を。
それもわざわざ、人通りの無い場所を選んで。
「ねぇ…どうして、あんなことをするんだと思う?」
少女は、死の天使に尋ねた。
「自分より、劣っていると考えているから、だろう」
違う、と少女は言う。
「あの、虐められている方のこと。どうして、黙って蹴られているの?」
それが少女には、不思議でならなかった。
「ねえ、どうして?殴り合いで勝てなければ、ナイフでも金槌でも鉈でも、持って来ればいいのに。黙って我慢しているだけになる必要なんて、ない筈」
暫く黙って、死の天使は口を開いた。
「本人に、聞けばいい」
名案よ、と言って、少女は少年に近づく。
死の天使はその間、村を周遊した。
そしてさっきの疑問をぶつけた。
「自分がされて嫌なこと、だからかな。きっと、あの人達は分かってないだけだから」
「何を?」
少年は、傷だらけのまま笑顔を見せる。
「人を傷付けることの、辛さ」
少女は目を見開く。
そんなこと、考えたことなどないから。
「人を傷付けるなんて、簡単よ?辛さなんて…」
「じゃあさ、自分が傷付けた人を忘れられる?」
勿論、と言いかけて、少女は気付いた。
自分が殺した人の顔が、次々と浮かんでは消える。
誰1人忘れてはいない。
「あ、れ?」
思わず少女は声を漏らす。
忘れられないのは当然、少女は殺人を愉しんでなどいないのだから。
そう、だ…私は、寂しくて────
人殺しは、望んでない。
ただ、本当に寂しかっただけ。
「───寂しい、の」
少年は、少女の身の上話を聴いた。
少女が人を殺したことも、臆せずに聴いてくれた。
少年は、少女を抱き締めた。
「同じだよ。僕も──寂しいんだ」




