礼拝堂の遺体
『二人目のカノン』シリーズ第7弾!
いずれスピンオフを書く予定ですが、シリーズ本編はこの『楽園消失』で完結の予定。
楽しんで頂けると幸いです!
寒さが身に染みる十二月十八日の夜。私、小川沙知は先輩刑事の御厨圭介と共にとある施設を訪れていた。殺人事件と思われる事案が発生したのだ。
門から見上げると、目に入るのは大きな洋館。もし今が夜でなかったら、綺麗な白い壁が見えたのだろう。
東京郊外にあるこの施設は、NPO法人『ルピナス』。アルコール依存症の患者等の厚生施設だ。
「おい、入るぞ」
「あ、はい」
私は、御厨さんに促され建物内へと足を踏み入れる。制服警官に警察手帳を見せながら挨拶をすると、警官は快く私を規制線の中に入れてくれた。私達は、庭を通り本館ではなく別館へと向かう。
私の前を歩いていた御厨さんが別館の前で立ち止まる。捜査員たちが頻繁に出入りするので、別館のドアは開いたままだった。
御厨さんの後ろから中を覗くと、目の前には礼拝堂のような空間が広がっていた。木製の長椅子がいくつも並べられており、ドアと反対側の壁周辺には祭壇もある。
厚生施設と言うより、宗教施設みたいだな。
私達は、手袋と足カバーを着けて礼拝堂の中に足を踏み入れる。そして、祭壇の方に視線を向けた。
木製らしき祭壇に背を預け、一人の男性が床に座り込んでいる。しかし、ジーンズを穿いた脚は投げ出され、首はだらんと右に傾いている。既に亡くなっているだろう事は一目で分かった。
白いTシャツは胸の辺りが赤く染まっていて、胸を刺された事が容易に想像出来る。
そして、私達は祭壇の側にある壁に視線を移し、しばらく凝視してしまった。何故なら、壁には白いシーツが張り付けられ、そこに『DEVIL』という血文字が書かれていたからだ。
「……御厨さん。これを書いたのは犯人でしょうか。犯人は、この被害者に恨みがあったんでしょうか。被害者の事をDEVIL――悪魔と思っているんでしょうか」
御厨さんは、血文字を見ながら答えてくれた。
「……さあな。それを知る為には、地道に捜査していくしかない。まだ被害者の身元も分かっていないしな」
そして、御厨さんは鑑識さんに声を掛けた。鑑識さんは、御厨さんの求めに応じて、被害者の所持品を持って来てくれる。被害者は、ジーンズのポケットに財布とスマホだけを入れていたらしい。
「さて、早速被害者の名前を拝見するとしようか」
御厨さんが、そう言って被害者の財布を確認する。財布の中には当然のように車の免許証が入っていた。
御厨さんは免許証に視線を落としたけれど、すぐに目を見開く。私は、首を傾げて御厨さんに聞いた。
「どうしたんですか、御厨さん?」
御厨さんは、私の方に免許証を差し出して言った。
「小川、これ見てみろ」
私は、御厨さんから免許証を受け取る。そして、そこに記載されている名前を見て、思わず呟いた。
「え……これって……!!」
ご遺体の身元は一体……?




