第6話
あおいは、そもそもどこにも勤める気はなかったんだと言った。
体裁を嫌った母親にすすめられて、というか、勝手に就職先を決められてしまって、とりあえず行ってみるだけ行ってみろと言われて行ってみたけど、やっぱり、馴染めないと感じたらしい。
馴染む馴染めないというか、おそらく親への反発がそうさせたのだろうと、私はその話を聞いて思った。
「だいたい、何をしている会社かも知らんかったし」
「サイテーやな」
就職したくてもできない人は世の中にたくさんいるというのに。一応、二流でも大きな会社に就職できたのなら、とりあえずは、万々歳ではないだろうか。両親だって、なんでもいいから就職して結婚してくれたら、とりあえずは安心できるんだし、そしてそれがこの国の人間にとっては、唯一の幸せで世の中の仕組みもだいたいそうやってできている。
という幻想を、あおいはひどく嫌っていた。
高校時代は、友人に誘われてバンドでベースギターをやってみたり、大学は美大に行ってみたり。やる気があるのかないのか定かではないけれど、なにしろわりに器用でなんでもこなしてしまうのが、かえって彼を不幸にさせてしまったのかも知れない。
せっかくなので、モデルとか役者なんかいいんじゃないかと言ってみたが、残念ながらそういうことはあまり興味がないようだった。
「小学校んときは、プロ野球選手で、中学校んときは体操の選手になるつもりやった」
「子どもの頃は、夢多き少年やってんな。なんでならんかったん?」
「体硬いし、下手くそやってん」
「それは、致命的やな」
「バイク好きやから、バイクであちこち旅してまわりたいっていうのはあるけど」
「日本を?」
「いや、海外とかも」
誰にも束縛されることなく自由に旅をしているあおいを想像してみた。何の隔たりもない真っ青な空の下にいるあおいの姿は、これ以上はないくらいよく似合っていると思った。




