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異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?  作者: 早野 茂
第6章 神界の感情泥棒と暴走する世界初期化(ゼロ・コード)

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第82話 閾値を待たぬ暴走

 基幹層へ降りていくにつれ、空気はどんどん冷えていった。

 だがそれは温度ではなく——

 “感情の気配”そのものが薄れていく冷たさだった。

 壁も床も天井もない、ただ灰色の空間。

 足元だけが光の道となって続いている。

「……なんか、やばいとこ入ってきたな」

「ここは“律の狭間”よ。

 本来なら感情の流れを調律柱が受け取り、整えて通す部分だけど……」

 ルシアナは唇を噛んだ。

「今はもう、ほとんど流れが途絶えている」

「途絶えるって……なぁ、ルシアナ」

 カケルは目の前の空間に手を伸ばした。

 そこに触れた瞬間、

 ざらり、と砂のような抵抗を感じた。

「……これ、なんだ?」

「情動……の“死骸”よ」

「死骸……?」

「本来は世界中から上がってきた残渣が、ここで循環するの。

 でも……今回は違う」

 ルシアナは空間に現れた黒い粒子をすくうように手を動かす。

「残渣が循環せず、ただ“吸われて”消えていってる」

「……また、あの《削減》か」

「ええ。でも——」

 そこでルシアナは一度、深呼吸した。

 その目は、どこか覚悟を決めている。

「カケル。

 あなたに話しておきたいことがあるの」

「なんだ?急に」

「あなたの“負債ログ”の話よ。

 ——150億ルーメを超えると、世界がリセットされるって話」

「……ああ。

 俺もここんとこ、ずっと気になってた」

 カケルは眉を寄せた。

「冷律会の暴走と、俺の負債のルール……

 関係してんのか?」

「関係してるわ。

 でも、“あなたのせい”じゃない」

 ルシアナはきっぱり言った。

「150億ルーメのリセットは……

 本来、ラグナが残したシステムが“世界を守るため”に作った安全装置だったの」

「……守る?」

「そう。

 世界の情動が急激に欠損すれば、秩序が崩れてしまう。

 本来なら、情動の損失が150億ルーメに達した時、

 世界を“一度初期化して整える”って設定だった」

「だからそれが“リセット”か……」

「ええ。

 でも、大事なのはここから」

 ルシアナは静かに続けた。

「本来、そのリセットは“条件を満たした時だけ”発動するはずだったの」

「条件?」

「情動の欠損が150億ルーメを越えた時よ」

「つまり……

 俺の負債が150億超えたらヤバかったって話だよな?」

「そう。

 でも——」

 ルシアナが足を止めた。

「今起きている“冷律会の暴走”はね。

 本来の閾値しきいちを待っていないの」

「……待ってない?」

「ええ。

 リセットの条件を満たしていないのに、

 勝手にゼロ化へ向かって動き始めている」

 カケルは言葉を失った。

 心のどこかで「150億にはまだ遠い」と、安心していた。

 少なくとも、リセットだけは避けられると思っていた。

 だが——

「つまり、ラグナの残した仕組みが、

 勝手に自分で動き始めたってことか?」

「そう。

 本来は“安全装置”だったはずのものが……

 ラグナ本体が消えたことで制御を失い、

 『情動をゼロにすることが最適解』だと暴走してしまっている」

「……はぁ……」

 カケルは額を押さえた。

「安全装置が暴走して世界ぶっ壊すとか……

 ブラック企業の管理システムみてぇじゃねぇか」

「あなたの世界にも似たものがあったのね……」

「似てるもんどころか、まんまだよ。

 “努力が足りない”って数字で殴ってくるタイプの管理システムだ」

 自嘲気味に笑った後、カケルは真顔になった。

「……でも、つまりこうだよな」

 カケルは指を一本立てる。

「① 本来のリセット条件=150億ルーメの欠損

 ② でも今は、勝手に“ゼロ化”が始まってる

 ③ つまり、今のシステムは閾値を無視して暴走してる」

「その通りよ。

 だからあなたの負債が“何億ルーメ”であろうと、

 この暴走は止まらない」

 ルシアナは振り向いた。

「だから、これは——

 あなたのせいじゃない」

「……」

「あなたがラグナを倒したことは、

 本来、世界を守る行為だったの。

 でも、残った“ラグナの影”が狂ってしまった」

 カケルは少し黙り、

 そして深く息を吐いた。

「……なるほどな」

「怒ってる?」

「怒ってねぇよ」

 カケルはそう言うと、拳を軽く握った。

「むしろスッキリしたわ。

 150億だの閾値だの言ってる場合じゃねぇってことだろ?」

「ええ」

「だったら——」

 カケルは前方の闇を睨んだ。

「この暴走システムもろとも、ぶっ壊してやるだけだ」

 ルシアナが小さく微笑む。

「簡単に言うのね」

「簡単に言わねぇとやってられねぇだろ、こんなの」

 二人が歩みを進めると、

 足元の光が“ぱりん”と割れた。

 その割れた隙間から、

 闇の中に“網目のような光のパターン”が見えた。

「ルシアナ、あれ……?」

「…………!」

 ルシアナが目を見開く。

「基幹層……!

 この下が“ラグナ残滓”のいる領域よ!」

 闇の底から——

 低い声がまた響いてきた。

《——削減。

 ゼロ化。

 不要情動、排除……》

「……聞いたぜ」

 カケルは薄く笑った。

「待ってろよ、残りカス。

 全部ひっくり返してやる」

150億ルーメのリセット設定。本来は安全装置だったものが、壊れて暴走している。

機械の暴走ほど厄介なものはありません。

「閾値を無視してゼロ化」という最悪のシナリオに対し、カケルの腹は決まったようです。


次回、感情を読み取る敵が登場。

カケルの怒りが逆に利用されてしまう……!?

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― 新着の感想 ―
カケルがラグナの残渣と戦う事になる。そうなってしまった、その責任を感じてルシアナは、覚悟を決めて全てを話した。今までの日々があり、信頼し合っているからこそ…、これから行う事は、一筋縄では行かないのがわ…
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