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異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?  作者: 早野 茂
第6章 神界の感情泥棒と暴走する世界初期化(ゼロ・コード)

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第81話 基幹層への降下

 光の階段は、まるで空間の底に吸い込まれていくように続いていた。

 カケルは一段、一段と足を運びながら、背後の光が遠ざかっていくのを感じていた。

 残してきた会議場も、調律会の神々も、もう見えない。

「……静かだな」

 思わず口にすると、隣を歩くルシアナが小さく頷いた。

「ええ。

 本来なら“情動流”のざわめきが聞こえるはずなの。

 この階層に降りるなら、なおさら」

「ざわめき?」

「人間の街みたいにね。

 喜び、怒り、悲しみ、安堵……

 本来は全部が糸みたいに交わって、微かな声として響くの」

 ルシアナは耳元に手を添え、かすかに眉を寄せた。

「でも……

 今は、それがひとつも聞こえない」

「……全部、冷律会の削減のせいってことか」

「まだ“入口”にすぎないのに……これは異常よ」

 ルシアナが言い終える前に、

 階段の下からひやりとした風が吹き上がった。

 

◇


 やがて、階段の先が広い踊り場のようになっているのが見えてきた。

 そこは——

 まるで巨大な図書館のホールのようだった。

 だが、本があるわけではない。

 無数の“光の板”が空中に浮かび、ゆっくり回転している。

「これ……全部、神界律の“断片”ね」

「律(ルール)のピースかよ」

「ええ。

 本来なら調律会の管理下にあって、静かに循環しているはずなのに……」

 ルシアナが手のひらを差し出すと、

 光の板のひとつがそっと近づき、そこに文字列が浮かんだ。

 

 《情動流 条件:安定》

 《削減プロセス:未承認》

 《感情ゼロ化:禁則》

「……正常な律(ルール)よ。

 ここまでは、まだ“壊れてない”」

「じゃあこの先か」

「そう思う」

 ルシアナは光の板をそっと手で押し戻し、カケルの方を向いた。

「この階層は“律の中庭”と呼ばれている場所なの。

 基幹層に近いほど、純粋なルールが現れる。

 ここが静かすぎるってことは……」

「ルールそのものが、上書きされてる?」

「……かもしれない」

 

 ◇


 その時だった。

 空間が、ふいに“ざらり”と音を立てた。

 カケルもルシアナも条件反射で身構える。

 光の板のうちいくつかが、不自然に揺れながら一箇所へ集まり、

 ぼんやりとした“人影のような形”になった。

「おい……これって……」

「情動の残渣(ざんさ)が……勝手に寄り合ってる!?」

 ルシアナの声に驚愕が混じる。

 本来、残渣は人間の情動の“余波”であり、意思など持たない。

 それが勝手に集まって形を成すなど、あってはならない。

「あれ……誰かに“呼ばれてる”みたいだな」

「呼ばれて……?」

「集まって、一方向に流れてる」

 光の残渣たちは、踊り場の奥——

 さらに暗い階層へと、ずるずる吸い込まれていくように消えていった。

 その光景に、ルシアナが震えた声で呟く。

「……そんな……

 残渣は意思を持たないはず。

 呼び寄せられてるとしたら、それは——」

「“ラグナ残滓”か?」

 カケルが言うと、ルシアナは強く頷いた。

「可能性は高いわ。

 冷律会が“基幹層の律を参照”とか言っていた……

 あれは、たぶん——」

「本来の基幹層じゃなくて」

「ラグナが死ぬ前に残した、“影の層”よ」

 空気がひんやりと沈み込んだ。

 踊り場の奥は、ただ黒い闇に包まれ、何も見えない。

 しかし、その奥から確かに微かな低い音が響いていた。

 ——ボ、ボウ……ウ……

「……なんだ、この音」

「情動が……“逆流”してる音よ」

「情動が逆流……?」

「感情が生まれる前に、根こそぎ吸われている……」

 ルシアナの声は凍りついていた。

「この先に、

 異常の“中心”があるわ」

 

 ◇


「行くのか?」

「行くしかない」

 ルシアナが小さく息を吸う。

「調律会の神々は、ここから先に踏み込むと“律に縛られる”の。

 干渉しようとすれば、律が反応して弾かれる」

「つまり、神じゃどうにもならねぇ場所ってことだな」

「ええ。

 だから、あなたが必要なの」

 ルシアナがカケルを見つめた。

「あなたは……

 “神界の律から外れた存在”」

「……なるほどな。

 邪魔されねぇってことか」

 カケルはゆっくりと拳を握った。

(よし……

 世界がどうとか神界がどうとか、難しい話は分かんねぇけど)

(“感情を奪おうとするヤツ”がいるなら、殴ればいい)

「行くぞ、ルシアナ」

「ええ」

 二人は暗い階層へと向かった。

 奥へ進むほど、音は低く、重く、深くなっていく。

 ——ボウ……ウ……

 ——ボウ……ウ……

 情動が吸い込まれる音。

 世界の心臓が、止まりかけている音。

 

 ◇


 そして——

 二人が闇の入口を越えた瞬間。

 空間全体に、ひび割れるような低い声が響いた。

《——情動、不要。

 ゼロへ収束せよ》

「っ……!」

「来た……!」

 ルシアナが目を見開いた。

「これ……“誰か”の声じゃない。

 “律の声”よ!」

《——削減。削減。削減……》

 世界を凍らせるような響き。

 カケルは拳を握り、闇の中心へ向けて言い放つ。

「……上等だ。

 出てこいよ、ラグナの残りカス」

 闇が、揺れた。

静寂のエリア、基幹層への入り口です。

感情の残渣が勝手に動く……ホラーですね。

ルシアナの解説で、敵の正体がおぼろげに見えてきました。


次回、ラグナの「残りカス」とご対面。

……の前に、神界の防衛システムが牙を剥きます!


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― 新着の感想 ―
さぁ、激突か?!と思ったら、静寂のエリア、基幹層への入り口なので、静かに始まる。基幹層の細かい説明で、徐々にこの異常さが見えてきた。ラグナが死ぬ前に残した、“影の層”。ラグナ残滓”。さすがラスボス、簡…
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