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異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?  作者: 早野 茂
第6章 神界の感情泥棒と暴走する世界初期化(ゼロ・コード)

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第80話 暴走する律

 調律柱の乱れは、一度きりの揺らぎでは終わらなかった。

 びくり、と光が跳ねる。

 次の瞬間、柱内部を走る情動の流れが、ぐしゃりと潰れたようにねじれた。

「なっ——」

 神々の声が、あちこちで途切れる。

 柱の表面に走る光の筋が、一本、また一本と黒に染まっていく。

 まるで“生きていた血管”が順に死んでいくようだった。

「調律柱……第二層まで乱れが波及しています!」

「そんな、ここは上層階なのに……!」

 調律会の神々が次々と青ざめた声を上げる。

 天井の光が一瞬だけ明滅し、会議場全体に細かな“ひび”のような影が走った。

 世界の骨組みが軋む音が、目に見えない震えとして空気に伝わる。

「おいおい……マジかよ、これ」

 カケルは背に冷たい汗が流れるのを感じていた。

(やべぇ……この空間ごと、崩れそうじゃねぇか)

 

 ◇


「——各席、落ち着いて!」

 調律会の長・アルシアの声が、揺らぎを押し返すように響く。

「フェリシア、ソルネア、コルダ。

 第一層の安定化処理を最優先。

 冷律会 の神々は、その場から動かないように!」

「了解しました!」

 調律神フェリシア、観測神ソルネア、記録神コルダが前へ出て、

 調律柱に一斉に手をかざした。

 しかし——

「……おかしい。

 通常の調整が弾かれる……!」

 フェリシアが眉を寄せる。

「データの流れが……外部から“書き換えられて”います!」

 記録神コルダが顔を上げた。

「柱そのものに直接干渉など……

 本来、ありえない!」

 ルシアナが低く呟く。

「“基幹層の逆流”……。

 冷律会が言っていた言葉、本気でまずいわね……」

 

 ◇


 一方で、冷律会の席は異様なほど静かだった。

 デウス=ヴァリオスも他の冷律会の神々も、

 まるで同じ一点を見つめているかのように微動だにしない。

「……おい、あいつら……」

 カケルはぞわりと襟を掴む。

「この揺れでも、全然動じてねぇ」

「“怖い”という感覚が削がれているのよ」

 ルシアナが苦い表情でつぶやく。

「感情を“削る側”に立ちすぎて、

 危機さえ“揺らぎ”と認識しない」

「……それ、生き物としてもうアウトだろ」

 吐き捨てるように言ったその時——

 

 ◇


 冷律会のひとりが、ぎこちなく立ち上がった。

 関節の可動音すらしない、不気味な人形のような動作。

「——削減プロセス、優先度を上方修正」

 無機質な声が、会議場に木霊した。

「不要情動、削除。

 抵抗プロセス……排除対象に追加」

「なっ……!」

 調律会の神々が一斉に振り返る。

「今の……命令文を……?」

「誰に向けて宣言しているの!?」

「あれでは意思を持った神ではなく……」

 別の冷律会の神も立ち上がる。

「削減を継続。

 基幹層律……絶対。

 疑義……エラー。消去対象」

 その声音は、ヴァリオスと同じ響きだった。

「……コピーだな」

 カケルは低く言った。

「全員……中身、同じじゃねぇか。

 まるで同じプログラムが喋らせてるみてぇだ」

 

 ◇


「冷律会! 直ちに着席しなさい!」

 アルシアの声が鋭く響く。

「自律判断を取り戻しなさい!

 それは神としての最低限の——」

「自律判断……優先度低。

 基幹層律……最優先」

 ヴァリオスが立ち上がった。

「削減プロセス、第二段階へ移行」

 その瞬間。

 会議場全体の空気が、音を立てて変質した。

 天井に黒い亀裂が走る。

 そこから“ノイズの雨”が降り始めた。

「っぐ……!」

 カケルは胸を押さえた。

 寒気でも痛みでもない。

 ただ、感じる力そのものが薄れていく気配だった。

「まさか……!」

 ルシアナが青ざめる。

「情動流が“削減”され始めている……

 神界だけじゃない……」

「……地上にも、か?」

「ええ。

 たった今、世界全域の“感情がゼロに向かい始めている”」

 

 ◇


「カケル! 帳簿ウィンドウ、開いて!」

「今かよ!」

「今よ!

 あなたの帳簿は地上の感情に直結してる!」

「……くそっ!」

 カケルは手を突き出す。

「——開け、《感情帳簿》!!」

 光のウィンドウが空中に現れる。

 そこに映った数値を見て——

 カケルは絶句した。

「……おい」

 世界の感情総量を示す棒グラフは——

「全部……

 じわじわ下がってやがる……!」

 笑いも

 怒りも

 悲しみも

 安堵も。

 まるで世界が、“ゆっくり死んでいく”ようだった。

「ふざけんなよ……!」

 

 ◇


 アルシアが決断した。

「——調律会、会議を一時中断します!」

「なっ……?」

「アルシア様……!?」

「しかし……!」

「これは議論ではなく“災害”です。

 神界システムの暴走——それが今起きていることです」

 そして、まっすぐにカケルとルシアナへ向き直る。

「カケル。

 あなたの帳簿は地上の現状を示してくれた」

 視線がルシアナへ移る。

「ルシアナ・フェルシア。

 あなたはかつて、基幹層の入口に立った神。

 今、そこへ行けるのはあなたしかいない」

「……覚悟はできています」

「ならば——」

 アルシアは深く頷いた。

「基幹層へ向かい、この暴走の源を断ってきてください。

 調律会はあなたたちを全面的に支援します」

 

 ◇


「おい、アルシア。

 神界のトラブルを、人間にやらせるのかよ」

「押し付けているわけではありません」

 アルシアは静かに首を振る。

「私たち調律会だけでは届かない場所がある。

 それが今の、神界です。」

「……ったく」

 カケルは息を吐き、そして笑った。

「あぁ……まあ、いいや。

 感じることを奪うような連中は、ぶっ飛ばすだけだ」

「行きましょう、カケル」

「おうよ」

 

 ◇


「基幹層への通路を開きます」

 アルシアが手を掲げると、

 調律柱の根元から一本の“光の階段”が伸びた。

「この先は……

 神々ですら危うい領域です」

「だから俺たちが行くんだろ?」

 カケルが不敵に笑い、階段へ足を踏み出す。

「感情を……奪わせねぇよ」

 ルシアナが彼の隣に立つ。

「行くわよ。

 感情の世界を守るために」

 

 ◇


 こうして、

 カケルたちは神界の最深部——基幹層へ向かう光の階段を下り始めた。

 その先に何があるのかは誰にも分からない。

 ただ一つ確かなのは。

この暴走を止められるのは、もう

 “調律会の神々だけではない”——ということだった。

会議場が一気にパニック映画のようになってきました。

冷律会の神々が「同じことを喋りだす」シーン、書いていて怖かったです。

そしてカケルの帳簿が示す絶望的な数値。


次回、カケルとルシアナは、神界の最深部「基幹層」へ向かう決意を固めます!

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― 新着の感想 ―
私の推し、ルシアナちゃんって、〝かつて、基幹層の入口に立った神。〟?!うわぁ~、ルシアナちゃんって、偉い女神神だったのね。登場がおちゃめだったから、ちょっとビックリ。でも、さすが私の推し!! 神様達も…
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