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第19章 「心臓の間」

塔の最上階への階段は、異様なほど静かだった。

先ほどまで響いていた戦闘の音も、兵士の気配も、もうない。

ただ、上へ上へと昇るたびに胸の奥を締めつけるような圧力だけが強くなる。


「……空気が、重い」


リアが息を詰めて呟く。

肩の傷はまだ完全には癒えていない。それでも、彼女は剣を抜き、歩みを止めなかった。


「心臓の“鼓動”だ」


ジョーカーがぼそりと呟いた。


「この塔は王国そのもの。上に行くほど、奴の支配に近づく」


階段の最上段を踏みしめた瞬間――

シアンは無意識に息を止めた。


「……ここが……」


目の前に広がるのは、巨大な“白い空間”だった。

壁も天井も見えないほど広い空間の中央に、

巨大な水晶の塊が浮かんでいる。

それは塔全体の鼓動源――“心臓”そのものだった。


水晶は青白く脈打ち、まるで生き物のように震えている。

その周囲には、円形に刻まれた紋章。

スートの4つのマークと、その中心に王冠の紋。


「……きれい……」


リアの声は震えていた。

感動ではなく、恐怖の震えだった。

そこにあるのはただの建物の一部ではなく、この世界の全てだったからだ。


「ここが、“盤面”の核」


ジョーカーが低く呟く。


「この塔が壊れりゃ、世界の“ルール”は全部消える」



その時だった。


ーーカツン。


床を踏む音が、空間に響いた。それはひとつだけ。だけど、全員の心臓を冷たく掴むような音だった。


「……やっぱり来やがったか」


ジョーカーが低く笑う。


「お迎えご苦労さんだな、“王様”」


青白い水晶の前に、黒いマントの男が姿を現した。白い仮面。金色の瞳。

ーーキングだった。


森で見た時よりも、圧倒的な“重さ”をまとっていた。

塔の力が、その存在をさらに膨れ上がらせている。


「虫ケラがここまで来るとは」


キングの声が響く。

その声は冷たく、しかし塔そのものが話しているようでもあった。


「ジョーカー。おまえの“遊び”も、ここまでだ」


「遊び? 違うね」


ジョーカーが軽く笑い、カードを一枚くるりと回す。


「こっからが本番なんだよ」


「“外側”が、盤面を壊すつもりか?」


キングはシアンへと視線を向ける。

その金色の瞳が、シアンをまっすぐ貫いた瞬間―ー

冷たい刃が突き刺さるような感覚が走った。


「(……まただ……あの時と同じ……)」


「シアン・グレイ」


名前を呼ばれただけで、足元の空気が震える。

リアが思わず剣を握る手に力をこめた。


「おまえは、“選ばれなかった者”ではない」


「……は?」


「おまえは、削除された王位継承者だ」


その言葉が、塔の空間を切り裂いた。


「な……何、言って……」


リアが目を見開き、息を呑む。

ジョーカーもわずかに眉を上げた。


「この国の最初の王家は、双子だった」


キングの声は淡々としていた。


「一人は“盤面を守る王”。もう一人は、“盤面を壊す王”――つまり“余白”だ。

おまえは、後者の末裔。王に最も近い、“外側”の血筋」


「……嘘だ」


シアンの喉が震える。


「俺は……ニエンテだ。選別にも選ばれなかった……何もない存在だったはずた!」


「そのようにしたのだ」


キングの声が重く響く。


「この国が崩壊しないように、“余白”を消した。

おまえの名前も、記録も、生まれた痕跡さえーーすべて削除したはずだ」


「(俺が……? 最初から……?)」


足元がぐらりと揺れるような感覚。

今まで信じていた“自分”という輪郭が、音を立てて崩れ落ちていく。

森の夜も、仲間との日々も、この世界も――全部、誰かの“手”の上だった。


「おまえの血は、盤面を壊す力を持つ。だからこそ、おまえは“存在してはならなかった”」


キングが剣を抜く。

金色の光が、水晶と共鳴するように輝き始めた。


「おまえをこの場で殺す。そうすれば、“余白”は永遠に消える」


「……」


シアンは剣を握ったまま、うつむいていた。

息が荒く、胸の奥で心臓が暴れている。

血の気が引くほど、恐ろしく、悔しく、どうしようもなかった。



「……なぁ、王様」


その時、ジョーカーの声が静かに割り込んだ。


「“余白”ってのはな、そう簡単に消えねぇんだよ」


「戯言だ」


「いいや、戯言じゃないね」


ジョーカーがカードをひらりと舞わせる。


「おまえが消したはずの王家の血が、こうして目の前に立ってんだ。

“余白”は消されても、必ず戻ってくる」


「黙れ、道化」


キングの瞳が鋭く光った。

リアが矢を構える。


「シアン! 今はあなたが……“あなた自身”を信じるしかない!」


「……俺自身を……」


シアンはゆっくりと顔を上げた。

金色の瞳と、真っ向から視線がぶつかる。


「(俺が……この世界の“外側”の血……? でも、そんなのーー関係ない)」


「俺は、誰かの“継承者”としてここに来たんじゃない」


声が震えていない。


「俺は、“俺”として……この世界をぶっ壊すために来た!」


赤と黒の光が、シアンの剣に燃え上がる。

その輝きは、水晶の青い光とぶつかり合い、空間を震わせた。

キングが剣を構える。


「ならば壊してみろ、小僧」


水晶の脈動が激しくなる。

床の紋章が光を放ち、塔全体が共鳴し始めた。

空気が震え、風が渦を巻く。


リアと仲間たちが背後で身構える。

ジョーカーが帽子の鈴を鳴らす。


「いいか、シアン。あいつは“盤面”そのものだ。

おまえの一撃が、世界を変える合図になる」


「わかってる……」


シアンは剣を握りしめた。

過去の自分も、消された記憶も、すべてを力に変える。


ーーーーこれが、俺の戦いだ。



キングとシアンが、同時に踏み込んだ。

金色と赤黒の光が激突し、塔の心臓が大きく揺れた。水晶が悲鳴を上げるように軋む。


この戦いは、ただの戦いじゃない。

“この世界”そのものとの衝突だった。


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