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第20章 「王の心臓」

青白い水晶が、まるで鼓動する心臓のように脈打っていた。

塔の最上階――心臓の間。

床に刻まれたスートと王冠の紋章がまばゆい光を放ち、空間そのものが震える。


金色の瞳が、シアンを真っ直ぐに見据えていた。

白い仮面の下、表情ひとつ動かさずに立つキング。その存在は、まるでこの世界そのものだった。


「余白が、盤面に牙を剥くか」


キングの声は低く、静かで、だからこそ恐ろしく響いた。


「愚かなことだ。すべての混沌は、再び秩序によって押し潰される」


「それを決めるのは……おまえじゃない!」


シアンの声が、静寂を切り裂いた。


「“外側”は、いつまでもおまえに踏み潰されるためにあるんじゃない!!」


剣を構えた瞬間――塔の光が一気に脈打ち、二人の影が床に伸びた。


「……よかろう」


キングが剣を抜く。

金色の剣が、水晶と共鳴するように輝いた。


「この盤面の頂点として――“余白”を切り捨てる」


「やってみろよ。俺はもう、逃げない!」


シアンが踏み込み、赤と黒の光が剣を包む。

金色と赤黒――二つの光が激突した瞬間、空間が爆ぜた。


轟音が響き、衝撃波が部屋の壁を砕く。

床の紋章にヒビが走り、水晶の鼓動が乱れる。

塔そのものが悲鳴を上げるようだった。


「遅い」


キングが剣を振るい、シアンの一撃を軽々と弾く。金色の光が弧を描き、シアンの頬をかすめて血が飛ぶ。


「おまえは力を“持っている”だけ。だが俺は、この世界そのものだ」


「っ……!」


剣と剣が再びぶつかる。

キングの一撃は重い。ただの剣技ではない。

この塔、この世界の重力、風、空気、すべてが彼の味方をしているようだった。


シアンの身体が吹き飛び、床に叩きつけられる。

肺の奥から息が漏れ、視界が滲んだ。


「シアンッ!」


リアの叫び声が響く。

彼女と仲間たちは下層から心臓の間の入口を守っていた。

塔の兵士たちが押し寄せるのを、必死で防いでいる。

ジョーカーがシアンにカードを放り投げた。


「立て、坊や。おまえの剣は“余白”の剣だ」


鈴が、戦場に不協和音のような音を響かせる。

シアンはぐっと歯を食いしばり、剣を握り直した。

指の感覚がなくなるほど強く、手のひらが血で濡れる。


「(……俺は……ここで終わるために……来たんじゃない)」


「まだだ……!!」


立ち上がる。

その姿を見て、仲間たちの視線が一斉にシアンに集まった。まるで、その背中に未来を託すように。


「おまえの血は……世界を壊す力だ」


キングが剣を構えたまま、低く告げる。


「だが壊したあとに待つのは、混沌と絶望。スートも、秩序も、すべてが崩れる。それでもーーおまえは壊すというのか?」


「壊すさ」


シアンの声は、震えていなかった。


「壊して、俺たちの“手”で作り直す。誰か一人が支配する世界じゃなく、みんなが立てる世界に!」


その言葉に、リアの瞳が揺れた。

ジョーカーが口の端をわずかに上げる。


「いいねぇ、王様のセリフに真っ向から噛みつくのは、主役の特権だ」




「ならばーー証明してみろ」


キングが踏み込む。

金色の光が爆ぜ、視界が真っ白になる。

その瞬間、シアンも走った。

赤黒い光が塔の心臓を照らし、二つの剣が中央でぶつかる。

衝撃で床が吹き飛び、塔全体が悲鳴を上げるように揺れた。


「はぁああああああああッ!!」

「消えろ、“余白”ッ!!」


金と赤黒。支配と反逆。

二つの力がぶつかり合い、塔の心臓に亀裂が走る。


「くっ……!」


シアンの腕が震える。キングの力は圧倒的だった。押し込まれ、剣がきしむ。


「(このままじゃ……負ける……!)」


その時、背後からリアの叫びが響いた。


「シアン!! あなたは……“何者でもなかった”からこそ……!

何にでもなれるんだよ!!」


その声が、胸の奥に突き刺さった。


ーー俺は、何者でもなかった。

ーーだから、俺は“俺”になるんだ。



「うおおおおおおッ!!!」


シアンの身体から赤黒い光が溢れ出す。

塔の心臓が反応するように震え、水晶の光が一瞬揺らいだ。キングの瞳が見開かれる。


「なに……?」


「俺は……“外側”として、生まれた!!

でも今はこの世界を壊すために、生きてる!!」


剣が唸りを上げ、押し返す。

キングの剣がわずかに揺れ、空気が爆ぜる。


「余白は……」


シアンが叫ぶ。


「おまえが消すものじゃない!!」


衝撃が走る。

キングの金色の剣に、大きなヒビが入った。

その亀裂は剣だけでなく、塔全体に広がっていく。

壁が震え、床が砕け、水晶が悲鳴のような音を立てた。


「おまえは……何をした……!」


キングが叫ぶ。

初めて、その声にわずかな動揺があった。


「俺は、“俺”を取り戻しただけだ」


シアンが踏み込み、剣を振り抜く。

赤黒い光が、金色の光を飲み込み、塔の心臓にーー深い亀裂が刻まれた。


爆風。

光。

そして、静寂。


キングの仮面に細かいヒビが入る。金色の瞳が細く揺らいだ。


「……外側の力が……これほどとは……」


「俺は、おまえに消される“何か”じゃない。俺は俺の世界を、取り戻す!」


塔全体が大きく傾いた。

水晶が崩れ始め、光が四方八方に散っていく。

下層で戦っていた反逆者たちも、兵士たちも、その異変に気づいた。


「塔が……!」


「崩れていく……!」


ジョーカーがシアンの肩を叩いた。


「よくやったな、坊や」


「……まだ、終わってない」


そうーーキングはまだ、立っている。


キングが剣を握り直した。


「……余白を許してはならない」


その声は震えていたが、まだ力を失ってはいなかった。シアンは息を吐き、剣を構える。


「これが……最後だ」


リアが背後で矢を構え、仲間たちの息が重なる。

塔の崩壊が始まる中――二人の影が、再び交錯した。


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