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第11章 「王の目覚め」

夜明けの光が、王都を淡く照らしていた。

だがその朝は、いつもの穏やかな景色とは違っていた。


――処理場、壊滅。

――データ、全損。

――反逆者、出現。


それは一夜にして王国全体に走った“異変”だった。

四つのスート地区では非常警報が鳴り響き、街路に兵士が並び、誰もが息をひそめている。

まるで“見えない戦争”が始まったかのようだった。


ーーーー


「……王が、お目覚めになった」


城内の大広間――

ジャックたちが一列に膝をつく前で、荘厳な鐘の音が響く。

赤い絨毯の先、金と白で彩られた玉座の上。

ゆっくりと立ち上がったその影が、光を背に大広間を包み込む。


キング。

王国の創始者にして、スート制度を作った存在。

その姿を直接見た者は限られている。

けれど今、その“影”は王国全土に広がっていた。


ーーーー


「……“心臓”を狙っただけでなく、“忘却”を焼いたと?」


キングの声は静かだった。

だがその声は、玉座の間だけでなく、床の石までも震わせるような圧を持っていた。


「はっ……! 奴らは“外側の者”です。ジョーカーと――“シアン・グレイ”という名の少年を中心に……!」


ひざまずいたスペードのジャックが報告する。

背筋が汗で張り付いていた。


玉座の上で、キングの顔がゆっくりと上がる。

白い仮面に覆われたその表情は見えない。

だが、その“目”だけは異様な光を放っていた。


「ジョーカー……」


その名を低く吐き出すと、空気が一気に冷たくなった。


ーーーー


「王よ」


玉座の隣、深紅のドレスをまとったクイーンが静かに口を開いた。


「“外側”がこれほどまでに動いたのは、初めてです。……何らかの“力”が、彼らを押している可能性も」


「力?」


キングは仮面の奥で、笑ったようだった。


「いや……これは、かつて俺が置き忘れた“余白”の報いだ」


「余白……?」


「スートの外。俺たちの“ルール”が届かない場所。

ジョーカーが存在できるのは、その余白があるからだ。……だが――」


キングは立ち上がる。

その瞬間、大広間にいた兵士たち全員が息をのんだ。

まるで大地そのものが震えているような感覚。


「余白は、塗りつぶせばいい」


ーーーー


「総員に命じる」


キングの声が、冷たい鐘の音のように広間に響く。


「四つのスートすべてを動員しろ。

――“外側”を、徹底的に狩れ」


「はっ!!」


ジャックたちが一斉に立ち上がり、剣を掲げた。

それは祝福ではなく、戦争の合図だった。


「ジョーカー……そして、シアン・グレイ。

この国を脅かす“外の存在”を、今ここで根絶やしにする」


クイーンが一歩前に進み、囁くように言った。


「王よ……あなたが自ら動くおつもりですか」


キングは、仮面の奥で目を細めた。


「当然だ。この国は私の手でつくった――なら、私の手で壊れかけたものを“始末”する」


ーーーー


森の奥――


「……始まったな」


ジョーカーが倒木の上に腰かけ、鈴を小さく鳴らした。

彼の視線の先、王城の塔が不気味な光を放っている。それはまるで、獲物を見つけた獣の目だった。


「……あれが“キング”の合図か」


シアンが低く呟く。

森の空気が冷たく、息をするたびに肺が痛む。

でも――心は、もう揺れていなかった。


リアが枝葉の影から街の方向を見張る。


「スペード部隊が、城門を出た。……ハート、ダイヤ、クラブも……全部動いてる」


「総動員……」


ジョーカーはにやりと笑った。


「やっぱり“処理場”は痛かったらしいな」


ーーーー


「なあ、ジョーカー」


シアンは、手にした剣を見つめた。


「俺たち……本当に、勝てるのか?」


「勝つ必要はねぇさ」


「……え?」


「“ひっくり返せば”いいんだよ。この国の“ルール”そのものをな」


ジョーカーの声は軽い。

けれどその奥には、確固たる憎悪と決意が宿っていた。


「俺たちは戦争をしたいんじゃない。

ーー“この国の舞台”をぶっ壊したいんだ」


リアがシアンの隣に立つ。その顔に迷いはなかった。


「……私たちは“消された”側。今さら何を失うっていうの?」


ーーーー


夜明けの空が、金と赤に染まっていく。

森の木々がざわめき、遠くから兵士たちの行進する音が響いてくる。

その音は、かつてシアンが“憧れていた”音だった。

今は――それが、自分を殺しに来る音。


「……来る」


シアンが剣を握りしめた。


「もう逃げない。俺たちの名前を、誰にも消させない」


ジョーカーが立ち上がり、鈴を鳴らした。


「いいねぇ、その目だ。――幕が上がるぞ、シアン・グレイ」


ーーーー


玉座の上。

キングが仮面越しに、東の森を見下ろしていた。


「ジョーカー……。おまえが望む“外の舞台”――俺が、全部踏み潰してやろう」


鈍い鐘の音が再び鳴る。

それは王国全土に響き渡る――開戦の合図だった。


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