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クライシスアクター

「全部、演技らしいよ」

大学の友人が、スマホを見ながら笑っていた。

ニュース映像。

大きな事故現場。

泣き叫ぶ人。

血まみれの担架。

それを見ながら、友人は言う。

「この人、別の事件にもいた」

画面を拡大する。

確かに、見覚えのある顔だった。

以前の火災事故のインタビューにいた女。

別人に見えたが、同じだ。

髪型も服も違う。

だが、笑い方が同じ。

友人は得意げに言う。

「クライシスアクターってやつ」

災害や事件を“演じる人間”。

陰謀論界隈では有名らしい。

俺は苦笑した。

「そんなわけないだろ」

だが、友人は真顔だった。

「いや、いるよ」

「全部、演出なんだって」

その日から、少しだけ気になり始めた。

ニュースを見る。

事故現場。

通行人。

泣いている家族。

その中に、

同じ顔がいる。

毎回。

微妙に立場を変えて。

被害者。

目撃者。

通行人。

全部にいる。

最初は偶然だと思った。

だが、増えていく。

同じ顔。

同じ泣き方。

同じ絶望した顔。

まるで、

テンプレートみたいに。

俺はネットで調べる。

すると、妙な掲示板に辿り着く。

《ACT管理スレ》

意味不明な書き込みばかりだった。

『最近の渋谷案件、演技雑じゃない?』

『新宿駅崩落の女優また使ってる』

『背景役が一人足りなかった』

頭がおかしい連中だと思った。

だが、一つだけ妙に気になる書き込みがある。

『見る側まで気づき始めると消される』

俺は、ブラウザを閉じた。

その瞬間。

スマホに通知が来る。

知らない番号。

メッセージが一通。

『気づいた?』

俺は背筋が冷える。

誰だ。

返信はしない。

だが、次の瞬間、

また届く。

『なら、次は君の番』

その夜。

夢を見る。

真っ暗なスタジオ。

大量のライト。

その中央に、自分が立っている。

周囲には人影。

全員、同じ顔。

ニュースで見た“あの人たち”だ。

一人が台本を読む。

「次の役は、一般人男性」

別のやつが言う。

「恐怖リアクション強めで」

その瞬間、

全員がこちらを見る。

同じタイミングで。

同じ笑顔で。

目だけが冷たい。

俺は飛び起きる。

汗だくだった。

スマホが鳴っている。

朝のニュース通知。

『マンション火災発生』

何気なく開く。

ライブ映像。

燃える建物。

避難する人々。

その中に、

俺がいる。

俺は凍りつく。

画面の中の俺は、

泣きながら誰かを探している。

知らない服。

知らない場所。

だが、

完全に俺だ。

レポーターが叫ぶ。

「逃げ遅れた方がまだ中に!」

その瞬間、

画面の中の俺が、

カメラを見る。

そして、

にやりと笑う。

映像が止まる。

俺はスマホを落とす。

その日から、

周囲がおかしくなる。

街を歩くと、

知らない人がこちらを見る。

全員、

“演技している”。

笑顔。

会話。

リアクション。

全部、

少しだけ不自然だ。

遅れている。

まるで、

演技経験の浅い役者みたいに。

コンビニの店員が言う。

「袋は必要ですか?」

完璧なタイミング。

完璧な笑顔。

だが、

目だけが動いていない。

俺は逃げるように店を出る。

その瞬間、

後ろで小さく声がする。

「カット」

静寂。

振り返る。

誰もいない。

だが、

街の人間が、

一瞬だけ全員止まる。

次の瞬間、

また動き出す。

何事もなかったみたいに。

その夜。

家に帰る。

テレビをつける。

ニュース番組。

キャスターが真顔で喋っている。

『本日未明――』

その途中で、

キャスターが止まる。

数秒。

完全に静止。

そして、

ゆっくりこちらを見る。

画面越しに。

「気づいた人がいます」

俺は息を止める。

キャスターが笑う。

「なので、配役変更を行います」

その瞬間、

テレビの奥で、

大量の人影が立ち上がる。

全員、

ニュースで見た顔。

事故現場にいた人間たち。

同じ顔。

同じ泣き方。

同じ笑顔。

そいつらが、

一斉にこちらを見る。

「次の被害者役」

「決定」

テレビが消える。

部屋が暗くなる。

静寂。

そのとき、

背後で拍手が起きる。

ぱち。

ぱちぱち。

ゆっくり。

振り返る。

部屋の隅に、

知らない人間たちが立っている。

全員、

見覚えのある顔。

事故現場にいた連中。

火災。

地震。

通り魔事件。

全部にいた。

そいつらが、

嬉しそうに拍手している。

一人が近づく。

笑顔で、台本を差し出す。

「これ、次のセリフです」

俺は震える。

ページを見る。

そこには、

俺の死に際の言葉が書かれていた。

『なんで俺なんだよ』

その下に、小さく書かれている。

『※感情を込めてお願いします』

俺は後ずさる。

だが、

部屋の全員が、

同時に笑う。

「大丈夫」

「みんな最初はそうだから」

その瞬間、

部屋のライトが、一斉に点灯する。

眩しい。

視界が真っ白になる。

そして、

どこかで声が響く。

「本番入りまーす」

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