お分かりいただけただろうか? 3
「まずい。閉まってるわ」
電車を降りた圭祐たちは、スーパーを探した。
電車の中で予想外に死体を消費してしまったため、在庫を補充したかったのだ。
しかし、ようやく見つけたスーパーらしき店は、すでにシャッターを下ろしていた。
「コンビニじゃ駄目なんですか?」
「加工品はちょっとね…。こうなったら、窓を割って侵入するしかないわね」
乙希がぎょっとするようなことを言った。
冗談かと思ったが、乙希の顔は真剣そのものだった。
「この量じゃ、今夜一晩ももたないですよね」
圭祐は諦めたように呟いた。
ペース的に明らかに足りない。
「え? 一晩?」
何故か乙希が驚いた顔になる。何か変なことでも言ったのだろうか?
そのときだ。また例の恐怖を張り付けた感覚が周囲を覆った。
もう何度目かの経験だが、どうしても慣れることはできない。
不安が心臓を押しつぶしてくる。
「おかえりなさ、いませ~」
「逃げるわよ!」
圭祐と乙希は、閑静な住宅街を走った。
あまり栄えていない場所なのか、人通りはおろか、車の一台も走っていない。
いや…
圭祐は違和感を覚えた。
こんなに走り回っているというのに、誰一人会わないのは異常ではないのか?
入り込んだらヤバい場所に、迷い込んでしまっているのでは?
だとしたら自分はもう…。
「気をしっかり持って! 目黒くん!! 認識したら持っていかれる!!」
乙希の言葉に、圭祐ははっとなる。
ぐっと奥歯を噛み締めた。
弱気になってどうする?
乙希の手のぬくもりが伝わってくる。
彼女は不安になる自分の手をずっと握っていてくれた。
負けてたまるか!
ぞくり、となった。
思わず圭祐は足を止めてしまう。
「え? なに?」
疑問符を口にした乙希も、すぐにそれに気づいた。
住宅街を抜けた先、大きな河川敷の上に、橋がかかっていた。
その向こう側、そこに奴がいた。
「おかえりなさ、いませ~」
「くっ!」
圭祐たちは慌てて引き返そうとする。
「うそ…!?」
そこで更なる絶望を覚えた。
「おかえりなさ、いませ~」
後ろにも奴がいた。
どうして勘違いしてしまったのだろう?
奴はひとりではなかった。
いや、それだけじゃない。
「「おか、おか」」
「「おかえり~」」
川の中や道路の向こうから、十数匹の怪異が現れて、気味の悪い合唱をはじめる。
「逃げるわよ!」
乙希は橋の向こうにいた怪異の前に肉を投げつけ、その脇を通り抜けていった。
だがすぐ目の前に、新たな怪異が現れる。
さらにビニール袋から死体を取りだそうとした乙希は、
「うそ…」
絶望の声をあげた。
「もしかして、それが最後?」
乙希は、答えない。
けれども、空になって萎んだビニール袋を見れば、訊かなくともわかった。
乙希の手に握られた魚で最後なのだ。
乙希は決意をした表情で、こちらを見る。
「私があいつらを引き付けるから、目黒くんは逃げて」
「はぁ? そんなこと──」
「あいつらの狙いは君なの! 私は大丈夫だから! あと少しのはずだから!! お願い!!」
圭祐の返事も待たず、乙希は怪異の群れに飛びこんでいった。
咄嗟のことで圭祐は反応できなかった。
「はやく逃げて!!」
乙希の剣幕に押されたように圭祐は駆け出した。
「ほら、こっちよ!」
乙希が魚をアピールしながら、怪異の群れに飛びこんでいった。
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