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天元健三郎

「全員動くなっ! 死にたくなかった動くんじゃねぇ!!」

 天元健三郎(髭)は大声で叫んだ。

 声の大きさには自信がある。

 逃げ出す足がなく、途方に暮れていた参加者たちの多くが、こちらを見た。

「あんた何言ってんだよ! 逃げなきゃ死んじゃうでしょうが!!」

 如何にもギャルといった感じの、阿久津未来が吠えてきた。

「逆だ! 逃げたら死ぬんだよ!」

 健三郎の言葉に、未来は目をパチクリとさせる。

「向井と岡森! だったな! ちょっと話がある!」

 

 やがて、向井慎太郎オカメン岡森麗奈オカメンが恐る恐るといった感じで姿を現した。

 よかったぜ。二人とも生きていたか。

 健三郎はほっと息を吐いた。

「さっき、雛原乙希のテントの前で、呪いとか条件とか、そんな話をしていたな! 俺には何が起こってるか分からねえ! だけど、これが異常な現象ってことは理解できる! 何か知ってることがあるのなら教えてくれ!!」

 向井と麗奈は顔を見合わせた、やがて口を開こうとし──。


「わ、わざとらしいんだよ!!」

 切り裂くような女の声が割って入った。

 血走った目に神経質そうな女。忽那来夏という名前だったと記憶している。


「何がだ?」

「本当は知ってんでしょ!? だって普通逃げるじゃん!! 逃げなかった時点で、これがこういうものだって知ってた!! あんただけじゃない!」

 来夏はほかの参加者も指で指して叫んだ。

「逃げようとしなかった、あんたら全員怪しいんだよ!!」

「だから、何がだよ!!」

「うっせぇえええ! 誤魔化そうとすんじゃねえ!!」

 来夏が髪を振り乱して叫んだ。

 駄目だ、コイツ、と健三郎は匙を投げた。


「忽那さんの言うとおりだと思います」

 静かな声が投げかけられた。

 夜闇の中から現れたのは、真壁浩人イケメンだった。

「忽那さん。あなたは何も間違っていない。全部正しいと思います」

「え? あの…」

 突然のイケメンの登場と、全肯定の言葉に、来夏が動揺の色を見せた。

「おい」

 健三郎が咎めるように声をかけるも、真壁はウインクで答える。

 任せてくれ、という意味だ。


「忽那さん、あちらの子供を見てください」

 真壁の示す方向には、4人の子供がいた。

「彼らはバスで参加したため、逃げられなかった人たちです。あんな子供がすべてを知っていると思いますか?」

「え? いや…それは…」

「僕も忽那さんと同じ考えで、正直信用できない人ばかりです。ですが、ほんの一部ですが、巻き込まれて事情を知らない人たちがいます。敵と味方を知るためにも、あの人たちにまずは話をさせてはどうでしょうか?」

 真壁が、向井と麗奈の話を聞くよう来夏を説得する。

 なるほど、否定から入るのではなく肯定から入り、理性で物事を判断させ、結果的に自分の誘導したいほうへ誘導する。

 なかなか面白い奴だな、と健三郎は感心した。


「ヒガン髑髏の試練だと!?」

 向井たちの口から語られた衝撃に事実に、健三郎は眩暈を覚えた。

 健三郎がこの企画に参加した理由は、単純に金が欲しかったからだ。

 若い頃から人生はギャンブルだと考えていた健三郎は、稼いだお金はすべて新たな金儲けの種へ投資していた。

浮き沈みはあったものの、結果、50歳になって貯金はゼロ、日々糊口を凌いでいるような状況だ。

十年前に妻には逃げられ、今年大学に入るという娘にも会わせてもらえない状態だった。

そんな折り、「娘の大学の費用を出してほしい」と妻からお願いがあった。

中途半端な時期となったのは、向こうにとって最後の手段だったからで、それは健三郎にとって汚名返上のラストチャンスでもあった。

 任せておけと答えたものの、健三郎に財力はなく、お金を貸してくれるところもなかった。

 あるとすれば、闇金。そのリスクを、健三郎は当然理解していた。


 そんなときだ。

 道を歩いているときに偶然、このデスゲーム企画のことを知ったのは。

 いろんな金儲けの話に飛びついてきたから分かる。7日過ごすだけで100万円。ボロい商売だ。

 しかも応募数は、さほど多くないらしい。

 おそらく、こういった企画に飛びつきそうな、金がなくて時間だけはあるオッサンは、そもそもYouTubeなんて見ないからだろう。

 向こうもそれを知っているためか、夏休みにタイミングを合わせたようだが、「7日間スマホ使用不可」という条件は、若者には不人気だった。

 健三郎に言わせれば、「7日間スマホを我慢するだけで100万円だぞ」なのだが、未来のある若者と未来のない自分とでは、同じ100万でも価値が違うらしい。

 結果、健三郎は当選し、この訳の分からない状況に巻き込まれていた。


「お前ら! なんてヤバいもんを企画しやがったんだ!!」

 健三郎は、まるで他人事のように向井たちの話を聞いていたシュンケル(YouTuber)と、蜜蜂花子(運営スタッフ)を怒鳴りつけた。

「知らねえよ! 俺たちだって今初めて知ったんだ!」

「嘘だ!! じゃあなんで7日に変更したの!? ヒガン髑髏のこと知らなくて、そんな偶然ある!?」

 来夏がヒステリックに叫ぶ。

 その鬼気迫る表情は理性を消失しているように見えて、健三郎としては擁護する気が失せるのだが、言っていることはまともだった。

 けれどもシュンケルたちは、H乳牛(YouTuber)やハイジン(YouTuber)のせいにして、知らぬ存ぜぬを押し通した。このままでは埒が明かない。


「なあ? この中に、そのヒガン髑髏の啓示を受けた人がいるってことか!?」

 大学生の荒木望が、周囲を見回しながら、非難するように言った。

 シュンケルたちに向けられていた視線が、ばらける。

「啓示を受けてきた奴は誰だよ!! 正直に手を挙げろよ!!」

 咎めるような空気に、誰もが戸惑っていた様子だったが、最初に手を挙げたのは、小学生の清明だった。隣にいた母親の愛が、驚いたように目を見開いている。知らなかったのだろう。

 清明が手を挙げたのを皮切りに、至るところで手があがりはじめた。


 そのほとんどが、オカルトコミュニティのメンバーだった。

「じゃあ、おまえらは人が死ぬって知ってて参加したのかよ!!」

「人が死ぬとか思っていない! そりゃ、危険かもっては思ったけど!」

 望の言葉に、畑中由詩ポニテが反論する。

「危険と思っていたのなら止めろよ!!」

「あんただって参加してんじゃん!!」

「嘘だ!!」

 叫んだのは、来夏だった。

「ヒガン髑髏から才能を受け取れるのは7名のみ。最初から人を殺すつもりだったんだ!!」

 ざわざわとした動揺が周囲に走る。

 向井たちの説明では、そんなことを言っていなかった。

 それが本当なら、7名に残りたい者は、ほかの93名をどうするのだろうか?


「いや、それはデマだ! ヒガン髑髏は7日生き残った全員に才能をくれる!」

 反論したのは向井だった。

「デマ!? いい加減なことを言わないで! 私は調べたんだから!!」

「僕もその情報は知っている! SNSで流れていたから! でも、根拠はない!!」

「証拠はあるのかよ!?」

 別の誰かも入って来て、侃侃諤諤の激しい議論が交わされていく。


「ちょっと待ってくれよ!!!」

 切り裂くような叫び声に、一瞬、みんなの言葉が止まった。

 須賀義昭フリーターだった。

 後で知ったのだが、車で逃げようとした彼は、小山大吾(大学生)の名を語っていた鳴瀬大吉(大学生)に車を奪われ、恋人も一緒に連れ去られてしまったらしい。

「だったら逃げた連中はどうなったんだ?」

 最初、誰もその意味が理解できなかった。

「才能がもらえるのが7人でも全員でもいい!! 途中で逃げ出した人間はどうなるんだ?」

 おいおい、まさか…。

 健三郎はぞっとなった。


 向井の説明では、条件を踏まない限り、すぐに殺されることはないとのことだった。

 だから、こうして話し合う時間があるのだが、試練から逃げた者については言及されていない。

 外部と接触を持とうとスマホを使用した連中は、みんな呪い殺されてしまった。

 だとしたら──。


「うわあああああああああ!!」

 義昭がパニックになり走りだす。

 外に出ようとした恋人の安否が気になるのだろう。

「待て!!」

 そんな彼を、近くにいた白川哲也マッチョが取り押さえた。何人かが同じように、義昭を取り押さえる。

「離せ! 離せよ!!」

「頼むから落ち着いてくれ!」


 場が混乱してきた。どうすれば良いのか?

「おい、イケメン。どうしたら、いい?」

 健三郎は真壁に訊ねた。

 この中で頼れるのは、この男しかいない。

「まずは、朝まで待ちましょう」

「朝まで!?」

「まあ、それが良いだろうな」

 同意してきたのは、金髪の篠田武光だ。

 健三郎と真壁の周囲には、数人の男女が集まっている。

 この状況の中でも、パニックに陥らず、冷静に会話することを求めている連中だ。


「少なくとも条件を踏まない限り、僕たちは無事です。それに外に逃げた人たちが無事ならば、朝になれば警察が来ると思います。僕たちがリスクを冒す必要がない」

「なるほどな」

「それと勝手なイメージですが、朝になれば、呪いの力って弱まりそうなので…」

「呪蓋の中なんだろ? 実際、どうなんだ?」

 篠田が疑問を口にする。

 答えてくれそうなのは向井たちだったが、オカルトコミュニティの面子は、来夏たちと激しく議論している最中だった。


「先生なら知ってるかも!?」

 叫んだのは、蜜蜂花子だった。

「先生?」

「如月葉月先生です。もしものときのために雇った本物の霊能力者です」

 全員の息を飲む音が聞こえた。

 本物の霊能力者。この状況で、こんなに頼りになる存在はいない。

「どこにいる?」

「ええと…。先生! 如月先生!!」


「うっさいわね。聞こえてるわよ」

 暗闇から現れたのは、露出の多い、如何にもロックバンドのコンサートから帰って来ました的な若い女だった。霊能者というイメージからは程遠い。

「ああ、あんたが…」

 姿は何度か見たことがあった。

 運営側にいたので、スタッフのひとりだと思っていたが、霊能者だったとは…。


「で? なに?」

「朝になったら、この呪蓋って弱まるんですか?」

「そりゃそうよ。だけど、条件を踏めば即アウト。まあ、大人しく朝まで待つほうが得策ね」

「それで? どうやったら俺たちは助かる?」

「知らないわ」

 葉月は他人ごとのように言った。

「はぁ? おまえは専門家じゃなのかよ!!」

「専門だから知らないって言ってんの!」

 訳が分からなかった。


「あのね。映画監督よりも、映画オタクのほうがたくさん映画を観てたりするんだよ。漫画家よりも漫画オタクのほうがたくさん漫画を読んでんだ。わかる!? 私は除霊の専門家だ。仕事で忙しいし、空いた時間は自分を高めるための修行をしている。単純な情報だったら、暇な時間をすべてネットに使えるオタクのほうが強いんだよ!」

「つまり?」

 真壁が辛抱強く尋ねる。

「ヒガン髑髏のことなんて、今日初めて知った」


カクヨムの角川ホラーデスゲームコンテストに参加しています。少しでも良いと思えたのなら評価をお願いします。

ちなみに、カクヨムのほうで評価しないと、カウントされません。

何卒、よろしくお願いいたします。

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