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野木智美

 朝が来た。

 野木智美オカメンは、ずっと生きた心地がしなかった。

 昨日、という表現を使って良いかは分からないが、向井が言うには、呪いの1日は鬼門である午前1時を基準に、「数え」でカウントするらしい。

 つまりは、今はヒガン髑髏の試練の2日目で、「昨日はたくさんの人が亡くなった」と表現できる。

 この場に生きた状態で残っている人は、全部で54名だった。

 死体の数は9人。

 そのほとんどが、呪いによって殺された。

 ほとんど、というのは、そうじゃない死体があるからだ。

 けれど、まだ、その話題は出ていない。

 幸いにも優先順位が低いのだろう。


 今、集団は大きく三つに分かれていた。

 向井慎太郎オカメンを中心としたオカルトコミュニティ。智美もこの中に入っている。

 次に真壁浩人イケメンと天元健三郎(髭)を中心としたリーダー集団。

 朝まで待つことを決めたのも、朝になって出口を調査しようと決めたのも、彼らだ。

 元運営であるシュンケル(Youtuber)、蜜蜂花子(運営スタッフ)、そして霊能者の如月葉月も、この集団に入っていた。

 そして最後が、それ以外の集団。いや、その時点で集団とは呼べないかもしれない。

 修学旅行の班決めで、余った者同士で班を組んだような感じ。

 本来であれば、自分はこっちの人間だろうな、と智美は思った。


 廃校舎の洗面所で顔を洗う。

 水は出ないので、運営が準備していたペットボトルの水を使った。

 飲み水をどうするのか? 生活水はどうするのか? トイレの水は?

 それらの問題は、真壁たちリーダー集団が話し合っていた。

 近くにダムがあるので、飲み水以外は比較的どうにかなるだろう、との見解で、顔を洗うことを許可された。

 初日から規制を強くして、不安や不満を増やすより、心に余裕を持たせることが重要だと判断したのだろう。頭の良い人たちだと思う。

 

 鏡に映る自分の顔を見る。

 見慣れない別人の顔。

 どうして整形なんてしたの! と親は泣いたけど、智美に言わせれば、どうしてイジメに遭うようなブスに産んだの! と文句を言ってやりたかった。

 人の価値が顔で決まるのは、公然の事実だ。

 ルッキズムを否定する女性ですら、イケメンは大好きとダブルスタンダードを口にする。

 ブスもブサイクも、生きているだけで損をする。

 親は頑張って、醜い者同士で結婚したかもしれないが、その子供はどうなる?

 自己満足の負債を子供に押し付けないで欲しい。

 ただでさえ、自分のブスな顔に嫌気がさしているのに、ブサイクとしか恋愛できないなんて地獄でしかない。


 ずっとずっと、人生の暗い部分を歩いてきた。

 だから性格までブサイクになっていった。

 ニーチェ曰く、精神は肉体の玩具でしかないのだ。性格の良い美人はいても、性格の良いブスはいない。

だから、ヒガン髑髏の啓示を受けたとき、最初に思いついたのは復讐だった。

一瞬だけ、美人になる才能も想像した。

けれど、才能を得たからといって、どうしても自分の顔が変わるとは思えなかった。

仮に性格が良くなって、愛嬌が出て、モテたとしても、自分の子供はどうだろう?

負の連鎖を生み出す毒親にはなりたくない。

そもそも今の時代、顔は金で買える。


 だから復讐する才能が欲しいと思った。

 自分をイジメた奴らを全員不幸にして、私の人生を取り戻すのだ。

 そこで智美はふと思った。

 もしも途中で警察に捕まって、全員に復讐できなかったら?

それは私の負けではないかと。

 復讐の才能に、そこまで含まれているのだろうか?

 なので、智美は思った。

 私の欲する才能。それは──。


 どんな悪い事をしても、絶対に捕まらない才能、だ。


 ぞわりと鳥肌が立つのを覚えた。

「え?」

 智美は慌てて周囲を見回す。

 どうして気づかなかったのか?

 智美はひとりっきりになっていた。


 気配がする。

 何者かがいる気配が…。

 いや、呪蓋が降りてからずっと、不気味な気配を感じているのだが、今はその気配が色濃くなっていた。

(逃げなきゃ)


 智美は走りだした。

 そのときだ。

 何かずっしりと重いものが、智美の背中にのしかかってきた。

「ひぃいいいいい!!」

 口から悲鳴が漏れる。

 けれども、誰の耳にも届かない。誰も助けに来ない。

 

 こんなところで死ぬのか?

 私の人生ってなんだったんだろう?

 嫌だ!嫌だ!嫌だ!!

 誰か助けてよう!!

 どんなにブスで惨めで性格がクズでも、心はあるのだ。痛みは感じるのだ。

 同じ人として生きているのだ!

 なのに、なぜ!?


「お願い! 殺さないで! 死にたくない!!」

「俺は何もしない!」

 はっきりと声が聞こえた。

 え?

 周囲に人はいない。

 この声は明らかに背後、それもすぐ真後ろから聞こえたものだった。

 

 智美には霊感があった。

 幼いころから、この世非ざるモノの存在が見えていた。

 小さな自慢だったが、それもイジメの原因となってしまった。

「ブスの癖に霊感アピールとかキモ!」

「っていうか、絶対ウソじゃん!!」

 そのせいでクラスのリーダー格の女子に目を付けられ、お尻に異物を突っ込まれた写真を男子たちに共有され、智美は学校に行けなくなった。


 そんな智美だったが、霊の声をこんなにはっきりと聞いたのは、初めてだった。

「俺は目黒圭祐。絶対に危害は加えません。だから、話を聞いてください!」


*****


 圭祐から聞いた話は、智美の想像を超えるものだった。

 雛原乙希の背後にわずかに感じていた霊の気配。それが彼なのだという。

 あのときは、乙希の気配に紛れていたこともあり、いるなぁ程度だったが、今では、はっきりと姿が見えるくらいに存在していた。

 呪蓋の影響もあるのだろう。彼の姿は、これから更に他人に見えるようになる。


「みんなに見つかる前に、やりたいことがあるんです」

 圭祐には、ふたつの目的があるらしい。

 ひとつは自分を殺した殺人鬼の正体を突き止める事。

もうひとつは、乙希の死の真相を突き止める事。


智美は生きた心地がしなかった。

どうして、多くの参加者の中から、ピンポイントで自分を指定してきたのか?

もしかして彼は、超常的な能力で、真実を知ってしまったのではないか?

だとしたら、私は──。

「あの、どうして私に…?」

 

「生魂憑依では相性が重要なんです。向井さんは無理だったし。雛原さんに憑りついた状態でも見えていた野木さんとは、相性がいいと思ったんです」

 嘘をついているようには見えない。

 智美は、ひとまず安堵した。

 だが──。


「その…、憑依されたら頭の中を覗かれたりしますか?」

「ああ、その点は大丈夫ですよ。考えを覗くこともできないし、精神に影響を与えることもできない。もちろん、着替えやトイレの際は、ちゃんと離れて遠くにいますから」

 なら大丈夫かもしれない。バレることはないだろう。

「あと、もうひとつ…」

 智美はぎゅっと自分の手を握りしめながら問うた。

「それって、私に何のメリットがあるんですか?」


カクヨムの角川ホラーデスゲームコンテストに参加しています。少しでも良いと思えたのなら評価をお願いします。

ちなみに、カクヨムのほうで評価しないと、カウントされません。

何卒、よろしくお願いいたします。

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