第12話 宿に泊まろう!この世界の幼女ってマジどうなってんの?
明けましておめでとうございます。
どうぞ今年もよろしくお願いします。
俺は報酬にホクホクしながら宿に向かう。
そういえばリンリルが、門に近いところだと格安の宿もあるって言っていたな。最初に入った宿は挙動不審なまま出ちゃったから、ちょっとそっちを見に行ってみるか。
俺は広場を抜けて、門がある方へ歩きだした。
歩きだしてすぐ、俺に声をかけてくるやつがいた。
「お、おい。お前リンリル様達とパーティを組んだんだって?」
ギルドの掲示板の前で、俺をパーティに誘ってきた男だ。
「うん?そうだな。だからそっちのパーティには入れなくなった。悪いな。」
悪いとは思っていないけどね。でもこれで、正式に男だらけのパーティはお断りできたのでいいだろう。
「いや、まぁ、残念だがしょうがない。しかし物好きだな。」
「何が?」
「何がってお前・・・。リンリル様まだ8つになったばかりだぞ?多少剣を習っているとはいえ、そんなパーティに入るなんて。それに貴族とずっと一緒、おまけにお付きの騎士までいやがる。そんな環境に入るってのがスゲーなって思ったんだよ。」
なるほど、言われてみればそういうものなのかもしれない。直前でこいつから男だらけのパーティに誘われたもんだから、差しのべられた女の子パーティの手を喜んで取ってしまったじゃないか。
いやしかし、今日一緒に薬草の採取に出掛けてみて思ったが、リンリルは貴族であることを盾に威張ったりしないし、リンディも口調があれだけど優しくて可愛い女の子だ。何も考えなかった俺、ぐっじょぶだな!
それにしてもリンリルって8歳なんだな。いやにしっかりしてるから年齢がいまいち分かんなかったよ。あ、この世界の幼女はしっかりしてるものなんだっけ?
「まぁ、取り敢えずお前が決めたことだからな。引き留めて悪かった。それはそうと、宿を探しに行くのか?なら門から入った通りにある『小さな天使亭』がいいぜ。」
俺が黙って考え事をしていると、剣士の男がオススメの宿を教えてくれた。
「そうなのか?助かる。パーティの件、悪かったな。」
「気にすんな。」
そう言って男は去っていった。
うむ、ギルド関連ではゴロツキのような冒険者に絡まれるのが鉄板と思っていたが、いいやつが親身になってくれるパターンだったか。
男の背中を見送った後、俺は教えられた宿を探して門の方へ向かった。
「小さな天使亭・・・ここかな?」
門からすぐのところにある、大きくはないがみすぼらしくもない、外観はとてもきれいにされている建物の前に来ていた。入り口の扉の上には、子供に羽根が生えたようなレリーフがかかっている。あれが天使かな?
俺はドアを開けて中に入った。
「いらっしゃいませー!」
受付のカウンターで元気よく声をかけてきたのは、まさしく小さな天使・・・幼女だった。見たところ、リンリルよりも年下であろう幼女がニコニコとこちらを見ている。
「あぁ、えっと。店番か何かかな?取り敢えず一部屋空いているか知りたいんだけど、お父さんかお母さんはいるかな?」
俺は幼女に聞いてみる。
「む。失礼なお客さんですね。お父さんは食堂で調理を、お母さんは同じく食堂で給仕をしてます。宿屋業は私の受け持ちなんですよっ。」
「えっ?お手伝いじゃなかったのか?」
「そうです。この宿屋は私の宿屋です。お手伝いはお父さんとお母さんです。開業の手続きから宿屋の命名まで、私がやったのです!開業に伴うお金はお父さんのですけどねっ。」
ふんす!と平らな胸をはる。
両親の方がお手伝い?でも宿を開業できるほどには、お父さんの稼ぎはあったんだろ?どうなってるんだ、この世界の幼女は。
まてよ?宿の命名も自分でやった?小さな天使・・・自分で付けたのか・・・。
「それで、一人部屋が一つでいいんですか?」
俺がちょっとジトっとした目を向けると、宿屋モードに戻った幼女がきいてきた。
「あ、ああ。それでいい。空いてるのか?」
「ふっふっふ。お客さんは運がいいですねぇ。うちは人気の宿なんですけど、ちょうど今、空きが出たんですよ。」
「空きが出た?」
「冒険者さんが泊まってたんですけどね、まぁよくあることです。ちょうどさっき片付けたところなんで。それで一泊ですか?」
冒険者が泊まってて空きが出た?さっき片付けた・・・。うん、今日からその部屋に泊まるんだから、精神衛生上深く考えないようにしよう。
「あー、数日は泊まりたいんだけど、取り敢えず3日ほどかな?その後は延長するときは言うってことでもいいかな?」
「いいですよ。それじゃあ一人部屋で一泊銀貨3枚なので、3日で銀貨9枚ですね。」
「じゃ、大銀貨で。」
大銀貨1枚を渡すと、幼女はすぐに銀貨を1枚返してきた。
冒険者試験に出たような計算を瞬時にするとは。ていうか、その前のは掛け算じゃないか。つくづく算術試験で諦める受験者ってどんな奴なんだ。
「そうだ。さっき両親は食堂にいるって言ったよな。食堂って今からでも使えるのか?」
「食堂は宿泊客以外でも利用できるようになってますよ。普通に街の食堂のようなものです。なので食事は別料金ですよ。」
なるほど。食事は別だから宿代がこんなに安いのか。
俺は言われた部屋に荷物を置いて(と言っても村で貰った背負い袋一つだけど)食堂へ向かった。
食堂はそれなりの時間ということもあり賑わっていた。どうも冒険者のような風体の人間が多いようだ。門が近いからかな。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
意外と席が埋まっていたのでうろうろしていると、綺麗な女の人が話しかけてきた。受付の子の母親かな?給仕をしていると言っていたし。
「ああ、一人だけど。席はあるかな?」
「相席でもいいですか?」
「え?相席?まぁ、大丈夫だけど。」
「ではこちらへどうぞ。」
案内されるままに席へ行く。
「相席でお願いしますね。」
「ん?ああ、かまわない・・・あれ?」
「あれ?」
テーブルで飲んでいた、相席を頼まれた男が振り向いて驚いた顔をする。
俺も驚いた。
「あれ?二人は知り合いなんですか?」
「え?ああ。さっき話してただろ。今日、盗賊に襲われたとき大活躍だった旅人だよ。どうだ?冒険者試験には受かったのか?」
そう聞いてきたのは領都騎士団のサリオスだった。他の面子にも見覚えがある。リンディはいなかった。当然か。さっき別れたばかりだもんな。
「なんとか受かったよ。貰った手紙が役に立った。」
「そうなのか?あんなの無くても受かると思ってたんだが、役に立ったのなら渡したかいがある。」
「それでみんなはなんでここに?こんな門に近い場所の安宿に、領都騎士が集まってるなんてどうしたんだ?」
「護衛任務が一段落ついたからな。後は他の隊に引き継いで俺達は飲みに来たって訳だ。それに安宿なんて言うなよ?ここの旦那は俺達の先輩なんだからな?」
「え?そうなのか?」
サリオスの言葉にばつが悪そうに給仕の女性を見る。
「安宿なのは間違いありませんけどね。でも、これでも宿と食事には自信を持っているんですよ?」
にっこりと微笑んだその目の奥から、すごい威圧感が漂ってくる。
「えーと?もしかして?」
俺は女性とサリオスを交互に見る。
「そうだぞ。その人は必中のジェンティ。俺達の冒険者時代の先輩である、現ギルドマスターのパーティだった人だ。もちろんここの旦那もな。」
マジかよ。あのギルマスのパーティメンバー?
そんな人達が宿の経営?宿を開けるほどの財力には納得したけど・・・。
「ところでご注文は?」
「え?えーと、何があるんだろ?」
メニュー表みたいなものは置いていない。何を頼めばいいのか迷っていると、サリオスが切り出した。
「俺達と一緒に飲もう。飯もまだまだこれから来るしな。もちろんおごらせてもらうぞ。」
「え?いいのか?じゃあ、お言葉に甘えようかな?」
ジェンティと呼ばれた女性が離れると、俺はさっきの疑問をサリオスにぶつけてみた。
「なぜ凄腕なのに宿をやっているかって?そりゃ、あれだ。ここの旦那、シーザスさんとリンディさんが結婚して引退したからだ。まぁ、引退したって言っても前線から退いただけなんだけどな。危険の無い、それでいてみんなやりたがらないような依頼をこなしながら生活していた訳なんだが・・・。」
「訳なんだが?」
「ライラちゃん・・・ああ、受付に座ってる子な。ライラちゃんがある日突然言い出したんだ。」
「言い出した?」
「「宿屋がやりたい」と。」
「は・・・?」
なんじゃそりゃああぁぁぁ。ただの親バカかよ!
親バカでまだ小さいライラちゃんが言い出した事を叶えてやっただけかよ!
衝撃の理由を聞いてフリーズしたところへ、いくつも料理が運ばれてきた。
「よし、まず飲め飲め。」
「あー、じゃいただこうかな。」
慣れない酒をちびちびやりながら、手をつけた料理はどれも薄味ながらうまかった。見た目から、材料が全く分からないが。
酒が回ってきた頭で、いい宿に当たったのかもしれない・・・幼女の趣味(?)のようだけど・・・そう思うのだった。




