第13話 初の討伐依頼。幼女がピクニック気分です。
階下の物音で目を覚ます。
窓に目をやると日はまだ低かった。
この世界の人達は朝が早いな、なんてことを思いながらもう一度目を閉じる。
夢の世界へ再入場しかけたところで、部屋の扉がドンドンと叩かれた。
「なんだ・・・?」
村での初めての夜と同じだ。いぶかしげにドアの方を見る。
「お客さん!起きてますか!?起きてますよね!早く出てきてください!」
なにか切羽詰まったような声がドアの外から聞こえる。
「なんだ?」
俺は急いで身支度をし、ドアを開けた。
「あ!良かった!起きてたんですね!」
「いや、起きてたっていうか、起こされたっていうか。」
ドアを開けるとそこには必死な形相のライラがいた。
「何をのんびりしているんですか!リンリル様が下へ来ていますよ!」
「へ?リンリル?」
慌てているので何事かと思えば、リンリルが下へ来ているということらしかった。
「リンリル様を呼び捨てっ!?お客さん!それはどうかと思いますよ!?」
ライラが驚いたように声をあげる。
「いや、だってリンリルが来てるってだけだろ?何をそんなに慌ててるんだ?」
「何言ってるんですか!?リンリル様は領主様の娘さんですよ!?なんでそんなにのんびり構えてるんですか!」
ん?いや、それは知っているけどさ。冒険者って権力者、それも地方領主の子爵程度には媚びないものじゃないの?さらにはリンリルはその娘な訳だし。あ、ライラは冒険者じゃなかったか。
「いや、まぁ、そうなんだろうけどさ。で、リンリルが来てるって?」
「そうですよ!何をしたのかは知りませんけど、護衛の方と一緒に下に来てて、あなたを呼び出してくれと言ってるんですよ。すぐに下に来て下さい!」
そう言うとライラはバタバタと階下へ降りていった。
「やれやれ。すっかり目が覚めた。しかしあんなに騒いで、他の客の迷惑にはならんのだろうか。」
俺は仕度をすると、食堂へ向かう。
食堂へ入ると、リンリルとリンディが座っていた。
芳ばしい香りが漂っているところを見ると、カフィー茶を飲んでいるのかな。
「おはよう、リンリル、リンディ。」
「おはようございます。ユートさん。朝食はまだですよね?」
「ああ、そうだな。あ、朝食をなにか適当に。」
恐る恐る寄ってきたジェンティに注文を告げると、安心したように早足で奥に引っ込んだ。
「それでこんな朝早くにどうしたんだ?」
二人に聞いてみる。
「そんなに早いですか?」
「いいえ、リンリル様。この時間ですと大抵の者は起きて、仕事をしているか、その準備をしているかと思いますよ。」
「そうですか、よかったです。ユートさんに迷惑をかけてしまったかと。」
「まぁ、迷惑ってわけじゃないぞ。」
そんなやり取りをしていると、黒パンに干し肉のスープ、それと簡単なサラダといった朝食が運ばれてくる。昨日の夜もそうだが、ファンタジー世界ってことで食事は諦めていたが、結構普通で安心した。黒パンも現代日本に生きてきた俺としては、ファンタジー定番ってことで目新しくて喜んで食べている。
「それでですね、実は冒険者の方の活動時間はもう少し遅いんです。けど昨日は出遅れてしまったので、早めにギルドへ行って、今度こそ討伐依頼を受注しようと思うんですよ。」
「討伐依頼?」
「ユート。討伐依頼は冒険者の華だ。リンリル様はまだ受注したことがないので、今回は初級の冒険者向けのものをやってみようということになった。」
「魔物と戦うのか?」
「何を言っているんだ?当然だろう?」
貴族の娘が魔物と戦うの?それを了承してるの?あ、いや、リンリルのお姉さんは暴風とかいう、近づいたらやばそうな二つ名持ちだったな・・・いまさらか。
「それでどうする?できれば回復魔法の使えるユートには一緒に来てほしいんだが。」
リンディが俺にそう聞いてきた。
貴族だから、パーティメンバーだからって強制じゃないのね。ほんとよくできた幼女貴族様だ。あ、干し肉のスープって結構うまいな。
「当然行くに決まってるだろ?俺たちはパーティになったんだ。魔物討伐なんて危険な依頼、俺の知らないところでリンリルにやってほしくはない。」
「ユートさん!ありがとうございます。」
「む、リンリル様だけか。」
「え?そりゃそうだろ。リンリルが行けるような討伐依頼だったら、リンディは余裕だろ?」
「まぁ、そうなんだが。」
貴族の前で、庶民の俺が食べながら話をするという光景にみんな引いている中、食後のカフィー茶を飲み干し。
「んじゃ、ギルドへ行ってみようか。」
「はい。」
俺達はギルドへ向かって出かけるのであった。
早朝のギルドは人が少ない。
リンリルが言っていたように冒険者の朝はもう少し遅いようだ。依頼の取り合いになるので、朝は早いものだと思っていたので聞いてみたが、普段、依頼中は日が登りはじめて起床、暗くなり始めたら夜営の準備をし、夜も見張りを立てて気が抜けない。そんな生活だから街中で過ごすときは、前の夜に酒をしこたま飲んだり、安全な寝床で熟睡しているため活動が少し遅くなるんだそうだ。
今回の俺達にとっては都合がいい。
「これなんてどうでしょうか?」
リンリルが指差す先には一枚の依頼表が貼ってある。
『グレイウルフ10匹討伐』
え?グレイウルフ?しかも10匹?
「リンリル様。グレイウルフは一般級の魔物ですが、その素早さは侮れません。初めての討伐としては少し難しいかもしれません。不足の事態も起こりやすいですし。」
「そうなんですか。ではこちらはどうですか?」
良かった。またグレイウルフとやりあうなんて嫌だ。今回はパンツもないし。そしてリンリルが指した別の依頼表を見る。
『ゴブリン討伐』
数不問。北の森に出没するゴブリンの討伐。
1匹につき銀貨2枚。討伐証明の右耳を持ってくること。
討伐証明の耳!?切り取るの?うええ。
「ゴブリンですか。なるほど、油断はできませんが動きは遅く、知性も低い。ちょうどいいかもしれませんね。」
ちょうどいいのかぁ。いや、なんか聞いた感じ弱そうだからいいんだけど、耳、切り取るんだよね?だれが?
「それではこれを受注してきます!」
嬉しそうに依頼表を剥がし、軽くスキップしながら受付へ向かうリンリルはかわいかった。
よし、かわいいからなんとか我慢しよう。
俺も掲示板に貼られている依頼に目を通してみる。
青級の依頼から黄級まで満遍なく依頼がある。決して街の外が魔物だらけで討伐依頼が出されている訳でなく、ほとんどが素材の為の討伐依頼だ。強力な魔物なんかは遠方へ数日がかりで向かうらしい。
その中に気になる依頼があった。
「あれ?これ。」
『西の森の調査』
西の森から時折、魔物が街道に出てくるようになった原因の調査。赤級推奨。最低受注条件緑級。成功報酬大金貨2枚。
それしか書いていなかった。昨日見た依頼だ。
「リンディ、この依頼って昨日もあったけど誰も受けないのか?調査だけみたいだけど緑級ともなると大金貨って割に合わなかったりするのか?」
「ん?ああ、それか。3日ほど前からあるな。そんなことはないぞ。赤級になると普通だが、緑からすれば大金貨は大金だ。」
「じゃあなんで誰も受けないんだ?」
「それはだな。まず、成功報酬という点だな。理由がはっきりしていないから何が成功なのかがわからん。誰もが納得できる結果が出せないと報酬が出ないという点が、敬遠される理由だな。それと・・・。」
「それと?」
「どうも西の森には何かがいるらしいんだ。十中八九、それが原因だとは思うんだがな。今、この街に現役の赤級は滞在していない。緑級はそんな不確定な情報で自分の命は賭けられない。そういうわけで未だ残っているということだろうな。」
「へぇ。」
リンディと話していると、受付の終わったリンリルがトットコ走ってくる。
「リンディ、ユートさん、受注してもらいました!早速北の森に行きましょう。」
まるでピクニックに行く子供のように楽しそうだ。
西の森の件は気になるが、俺たちが行くのは別の森だ。リンリルが楽しみにしているようなので早く行こう。
「この時、俺達は知る由もなかった。まさか向かった北の森であんなことが起こるとは・・・。」
「何をぶつぶつ言ってるんだユートは。」
「いや、なんでもない。」
お約束のフラグ立てを思わず口に出してしまったところを、リンディに突っ込まれたりしながら、俺達は初めての討伐依頼に向かうのだった。




