第19話
やってきた場所は、中級寵臣達が住まう場所。
上級寵臣が住まう建物よりも小さいが、住居がいくつか密集している。
3番目に挨拶に来た人が出迎えてくれた。
俺はその姿を見て目を丸くした。
「趙源です。改めてよろしくお願いします」
「趙源さん……いえ、趙源さま。まさかあなたも寵臣でいらっしゃったとは」
「今まで通りの呼び方で構いませんよ」
「では……そうします」
趙源、彼は帝の護衛だ。
主に部屋の前に立っていることが多い。
時々俺の話し相手になってくれる人で、気さくで優しい。
「趙源さまは、今まで第二寵臣でした」
「志明さんが来てからは第三に」
肖然の言葉に追加で教えてくれて、俺はなんとも言えない気持ちに襲われる。
「なんか……ごめんなさい」
「いや、いいんですよ。俺よりも……沐陽のほうが大変だと思う」
「なぜ?」
「外後宮に帝が来るということは、それは沐陽の場所に行くということだから、沐陽はいつも新しい寵臣が来るとピリピリするんです。でも、いつも新しく来ても大体は下級のものが多いし、中級のものはここ何年も新しく来ていなかった。それが今回上級に来たとなれば……もう分かりますよね」
「……はい」
「沐陽には気を付けてください。くれぐれも隙を見せないように。後ろから刺されても文句は言えませんよ」
「俺、武官ですよ」
「ええ。同じ言葉を言って、実際に刺された武官がいますよ」
俺はそれに顔を引きつらせた。
「……沐陽さま、処罰されなかったのですか?」
「謹慎にはなりました。ですがその程度ですよ。帝の本命、なんて言われてますから。帝が本当に愛しているのは皇后でもなく、沐陽さまです」
沐陽が本命なのであれば、俺に構う理由が分からなくなる。
少なくとも俺と沐陽は、仲良くはできない。
「他の方へ挨拶に行くんですよね。劉立輝には気をつけて。中級寵臣です」
「なぜですか?」
「この男は外後宮の中で一番、貪欲に帝からの寵愛を求めてます。帝にはうざがられてますけどね。沐陽も危ないですが、一番危ないのは劉立輝です」
「……ご忠告感謝します」
「はい」
にこりと笑った趙源に、俺は笑顔で返した。
そして、次に向かう先は、その劉立輝だった。
彼の宮に訪れると、使用人の一人が出てきて「大変申し訳ありません」と謝る。
「立輝さまは今体調を崩しておられまして……」
俺は肖然と顔を見合わせた。
そして、俺はその使用人に「構いません」と言った。
「では、謝志明が挨拶に来た、とだけお伝えください」
「かしこまりました」
扉が閉まり、外に出る。
ふと、背後から視線を感じて振り返った。
目線の先には窓の向こうで優雅に盃を揺らす劉立輝の姿があった。
そして、盃を俺の方に向けて掲げ、にこりと笑い、こちらに向けて飲んだ酒を噴いてきた。
距離があるのでかかることはなかったが、あまりにも幼稚で下品な行為に唖然とする。
「ハハハハッ! お前なんて寵愛なんて無理だ! すぐ中級に落とされる!」
そう言って、楽しそうに笑いながら建物の中に入っていった。
「……たしかに……これは……良くないな」
「全く……立輝さまは帝が絡むとこうなってしまうのです。普段は仕事のできる方なんですけどね」
肖然が眉間のシワをもみながらため息をついた。
(俺は本当にここに来てよかったのだろうか?)
そんな不安が、漠然と襲ってきた。




