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32 午後から

 お母様とロスタが屋敷にやってきた日の午後。


「お姉さま今から何をなさるのですか」

「剣の鍛錬よ」

「僕もお姉さまと一緒に参加してもいいですか」

「え!?」


 ロスタは、私が剣術を嗜んいることは知っている。だけれども、今まで参加してこなかった。

 私がそれを止めていたのだ。

 しかし、ポルトなどが剣術の鍛錬を行うことになったので、ロスタがしてはいけないという理由が薄くなったのだ。


「本当にするの? イリスは手加減なんてしてくれないからね。それでもいいの」

「はい」


 という訳で、ロスタも今日の剣術の鍛錬への参加が決定した。


「それでは――」

「――ユリシア!!!」


 イリスがいざ始めようとすると、足音が聞こえ、私のよく知る声が私の名前を呼んだ。


「カレン」


 私が彼女の名前を呼ぶと彼女はそのままの勢いで私に抱き着いてきた。


「心配したのよ、ユリシア。あなたがいなくなったと聞いて」


 私が屋敷に帰っていなかったというのはカレンのもとにも届いていたらしく泣きながらそう言ってきた。


「心配をかけてしまってごめんなさい。でも私はこの通り元気よ。心配しないで」

「ユリシア」


 カレンは私の顔を見上げた後、私に抱き着きながら泣き出した。

 余程カレンにも心配をかけてしまったのだろう。


 結局カレンが泣き止むまで私はカレンの傍にいて、その間に、剣術の鍛錬は始まってしまった。


「ところで、ユリシア。今は何をしようとしていたの」


 カレンは泣き止んでから、そう切り出した。


「剣術の鍛錬をしようと思っていたの。そしたらカレンが来てね」

「ごめんなさい。私、ユリシアに迷惑をかけてしまったわ」


 カレンは私に迷惑をかけてしまったと感じてしまったらしい。


「大丈夫よ。迷惑なんかじゃなかったし。久しぶりに友人の顔も見れたしね」


 私がそう言って微笑むと、カレンの落ち込んだような顔も直っていった。


「というかユリシアって本当に剣術を習っていあたのね。手紙に書いていたから知っていたけど、実際しているところを見たことがなかったから、本当はしていないんじゃないかと思ってたの」

「カレンは友達のことを信じていなかったのね」

「信じていなかったとかじゃないわよ。だって、ユリシアほとんど体型とかも変わっていないし、腕も細いし、剣術してるなんて信じられるわけないじゃない」

「ふーん、どうだか」


 私はわざとらしく、顔をしかめてカレンの方を向いた。


「本当よ。本当なんだからね」

「……ふ、ハハハハハ」


 私は、カレンのその一生懸命に言おうとしているのがおかしくて、面白くて吹き出してしまった。

 カレンは、少し顔を赤くして俯いてしまった。


「笑ったのは悪かったはわ。

 ねえ、ところでカレン、カレンも剣術をやってみない」

「え!?」


 カレンはいきなりの私の誘いに驚いた。しかし、すぐに……


「無理よ。私、剣なんて今まで持ったこともないし」

「初めはみんなそんなものだし、大丈夫よ。私も実際、始めるまで剣なんて練習用の物も含めて持ったことなかったし」


 まあ、私の場合はこの体がというだけで、記憶的には前に持ったことがあるのだけどね。


「何事もやってみないと、出来るものもできないわよ」

「で、でも」

「それに、剣術って意外と面白いわよ。体も動かせるから、心もスッキリとするしね。

 それに、お母様を超えるためには、お母様と同じことをしていては駄目よ。お母様以上のことをしないと、上にはいけないわ」

「やる。やるわ。ユリシア、私に剣術を教えて」


 お母様のことを出したら、今まで、おどおどしていた感じがさっぱりと消え、カレンのやる気がみなぎっているのが分かった。

 カレンの目標はお母様を超えることだから、それを引き合いに出したら絶対喰いついてくると思ったのわ。


「じゃあ、カレン。剣術の鍛錬を始めましょうか」


この話で幼少期編は終了です。

この後のお話については他の作品として投稿しますので、そちらもお読みいただけると嬉しいです。

次作のタイトルは、


《銀龍の娘》


です。

また、こちらには番外編を何話か投稿するかもしれません。


お読みいただきありがとうございました。

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