#2 出逢いそして出発
▼出逢いそして出発
手許の時計は十時半をさしていた。そしてここ『金卵の池』の前で薫は後の二人を待っていた。
この『金卵の池』は黄金色の卵の形をしている噴水である。卵の先端から吹き出している水の音が辺りに光を放ちながら飛び散っていた。
端から見ると不思議な光景である。その上、ネーミングセンスもどうかと思われた。
その前に薫は、兄である孝の制服を借りて、今この地で一人待っているのであった。
「全くあの二人ったら……時問にルーズなんだから。いつもの事に慣れつつも、さすがの薫もこの状態に少し怒りを感じ始めていた。
そんな折、後の裕美と久美子が、ゆっくりとした足取りで現れのである。
「おーい、遅いぞ!」
なるべく、男の子風に装う薫。それに気付いた二人はやっと早足でこの地に辿り着いた。
「ごめん!服選ぶのに苦労したんだ!!」
久美子はあっけらかんとした態度で答える。青いジーパンに、上は質素なトレーナー姿。まあ、小綺麗な少年と言えばそう見えなくもない。
「本当〜いつもごめんね?」
こちらは、裕美。Tシャツに、ジーンズの半ズボン。長い髪の毛は、一つに束ねられ、それを帽子で覆い隠している。ちょっと見、小学生の男の子のようだ。
「まあ、何とかばれないで済みそうだわ?」
はにかみながら薫は二人にそう言った。
「それじゃあ、参りますか?」
先を指し示すように久美子は校内を散策した。その校内は、何処を見ても男の子ばかり。中には、小さな子供を引き連れたお母さん方が行き来していた。
「何処から行く?」
校門で配布されていた案内の紙を見ながら、三人は取りあえず近くの校舎の壁に寄り掛かりながら考えていた。
「ねえねえ、この『占いの館』ってのはどうかな?」
裕美が自分の好みを見つけ出し、その教室を指差した。
「裕美!あんたね……」
薫は呆れるかのように言う。
「でも楽しそうじゃない?行ってみようよ!」
久美子までもが賛成の声をあげる。
「でしょう?男の子が占いなんて普通しないよね?」
久美子はその上に言葉を重ねた。
「そうよ!どんな占いするのか、見に行こうよ!」
その裕美の一押しに薫は負けた。
「わかったわよ〜で、見取り図からすると……」
自分の手許に有るその案内用紙を見ながら、薫は独り言のように咳いた。
「二年三組。この校舎の一階だよ!」
裕美が答える。その言葉にこの校舎に入る昇降口を見つけるために足を運んだ。
「このクラスみたいだよ?」
向かった教室の前。廊下にはり紙が出ている、『占いの館』と言う文字に注目する三人。中はいたって静かそうだ。シーンと静まり返っている。
「どうする?中に入る?」
今更ながら何だか得体のしれないこの教室の雰囲気に圧倒されるかのように、三人は足を止めていた。
「来たんだから入ろうよ!」
その雰囲気を脱するかのように勢い良く足を進め始める久美子。
「ガラリッ」
その勢いのまま前方に有る『入り口はこちら』という張り紙に従って入る三人。中は暗く、いくつかの個室を作ったかのような暗幕で仕切られていた。
「いらっしゃいませ」
と、一人の青年が声を掛けて来た。
「こちらは、水晶占い。カード占い。手相占い等いろいろと御用意させて頂いております。お三人様はどちらに入られますか?」
社交事例のように問いかけられて、
「それじゃ……わ、ボクはこちらの水晶占いに入らせて頂きます」
薫はその水晶占いと書かれた立て看板にライティングされている暗幕を指差した。
「それじゃ、オレはカード占い」
久美子も同じく指をさした。
「それじゃあー…ボクは、手相占いヘ!」
胸を踊らせながら、裕美は言う。
「それではお入り下さい」
三人はそれぞれ導かれるかのようにその暗幕内へと足を運んだのであった。
暗幕の布を手で掴み薫は中に入った。すると怪し気な白いベールを頭から被った一人の青年が声を掛けて来た。
「いらっしゃいませ。今日初めてのお客さんですね……」
天井からぶら下がっている豆電球には、赤いセロファンがかぶせられて、中はほんのり怪し気な雰囲気づくりをしているので、何だか不思議な感覚に襲われた。
その真下に透明な丸い水晶球がぼんやりと照らし出されている。その奥には一人の青年が立っていた。
「何を占って欲しいですか?」
と、白いベールの青年に静かに問いかけられた。そう訊かれても、元々興味の無かった為どう答えれば良いか少し悩んだ薫は、
「これからの運勢を占って下さい」
漠然とした事しか言えなかった。
「それは、身近に起こる事……と言う事でしょうか?」
青年は問い返して来る。
「ええ、それで結構です」
「分かりました」
白いベールの奥の瞳で水晶を覗く青年。
「こんな占いで……何が分かるって言うのかしら……」
薫はこんな占いを信じない気持ちを隠しつつ、その水晶を眺めていた。するとその水晶が揺らめいた。
「えっ?何?」
突然の事に薫は身を引いた。
「静かに……今、見えて来ます……」
青年は気をその水晶に注ぎ込むように手の平を翳す。どんどんと、その水晶の中に一つの像が浮かび上がった。
「何よ、これ?」
薫が立ち上がった瞬間、碧白い光が辺りを包み込んだ。
その像はハッキリと自分の姿を映し出していた。
「何で私がこんな格好してるのよ!?」
と叫んだ瞬間、
「朗兄貴!念をとめろ!!」
後ろの青年が近付き声を掛けた。しかし、それはすでに遅かった。
碧白い光はこの暗幕をも覆い尽くす程光り輝いていたのである。
丸い水晶球は、何時の間にか正四面体の形に変わり、大きく膨張を始める。そして……この暗幕内を飲み込もうとするかの勢いで大きくなっていった。
薫とこの暗幕に入っている二人は、その水晶の中に身をゆだねるかのように吸い込まれ、それから眩い光の中に身を投じたのである。
「一体、なんなのよぉ!!」
その叫び声は虚しく。三人はこの場からを姿を消していたのであった。




