第35話 【side ルッツ】 密かな思い(1)
いつも読んでくださってありがとうございます。
拙作ですが、よろしくお願いします(#^.^#)
さて、何処から調べようか。
私はルッツ・グレイド。グレイド伯爵家の次男に生を受けた。今年で15歳。兄がいる為、私には伯爵家を継げない。いづれ家を出なければならないのは、幼少期から分かっていた。そう言われて育ってきたから。だから私は剣術を習い、暇さえあれば読書をし文武両道で頑張ってきた。学園に入る直前に国王の目に留まり、メイナード殿下と同年という事で側近に選ばれ、護衛を兼ねて一緒に学園に通った。
初めてメイナード殿下に出会ったのは、学園入学2カ月前の事だった。第一印象は、まあ王族だな、という在り来たりな印象だった。兄を尊敬し、慎ましいとまでは言わないが出しゃばらない。自分の主張は後回し。絵に描いたような次男坊だった。まあ、私も似たり寄ったりだったけど。
その頃には気になる令嬢が居たらしく、どんな令嬢なのか私も興味があった。
ある日、私はメイナード殿下に会いに行くと彼にしては珍しく機嫌の悪い日だった。机を蹴飛ばす、椅子を蹴飛ばす……。これは、かなりの事があったようだった。
「メイナード殿下、どうされたのですか?」
幼かった私は、気の利く言葉も出ず、ごく普通の会話で話を聞くことしか出来なかった。それでもメイナード殿下も訊いてほしかったのか、不貞腐れながらも話をしてくれた。
「兄が……リアと婚約したいと言ったんだ。だから俺もリアと婚約したいと言った」
「おお!!」
私は感嘆した。
メイナード殿下の性格からしたら、兄を尊重するだろうと思っていた。しかし、彼は兄にも『リア』と呼ぶ令嬢を渡したくなかったと思ったのだ。
自分の主張を後回しにする殿下にとって、これはかなりの進歩なのでは、と私は期待を膨らませた。
しかし……。
「それなのに、父上は伯爵令嬢はダメだ、と言い出したんだ。将来は公爵家か侯爵家の令嬢を婚約者にすると言って……ダメだと言うんだ!」
ああ、これは政略結婚と言うものか。将来を共にする人を自分達で選べない。しかも、メイナード殿下が自分の気持ちを主張したにも関わらず、国王はそれを却下したのだ。現実はそう甘くなかった。王族なら、尚の事かもしれない。
これでは、メイナード殿下も机や椅子を蹴飛ばしたくなるのも理解できた。私は、ますます『リア』という令嬢がどんな令嬢なのか興味を持った。
学園入学後は、学園の中でも私は常にメイナード殿下の側で仕えた。あれから、メイナード殿下は『リア』と言う令嬢の事は言わなくなった。諦めたのだろうか、と少し心配もした。第二王子とはいえ結局は王族。同じ次男でも貴族の私と比べると、少々可哀そうな気もした。近いうちにい他の令嬢と婚約するんだろうな、とそんな風に考えていた。けれど、実際はメイナード殿下の視線は、ある令嬢の方だけ向けられていた。それがエミーリア・レグルス伯爵令嬢。
ああ、彼女か? 『リア』は愛称だったんだな。
綺麗な黒髪を靡かせ肌は白く、瞳は宝石のアメジストに似ている。
とても綺麗な子だな、と思った。しかし、ある男子生徒と一緒にいることが多かったが、数歩、後ろに仕方がなくついて歩くと言った感じだった。彼は面識はないが、知っている。クリフ・ルピナス侯爵令息。聞いた話によるとエミーリア嬢と婚約をしたらしい。
あれで、本当に婚約者なのか?
そんな風に見えなかった。彼と一緒に居る時のエミーリア嬢は、全く笑顔を見せていない。本当に彼と婚約しているのかと思う程だった。この調子だと婚約は続かないだろうと予想は出来た。
ある休日、エミーリア嬢が街の中を歩いているのを見かけた。一緒にいるのは、ルシア・ブロッサム伯爵令嬢だった。
多分、買い物か何かしに来たのだろう。
二人は話をしたり笑ったりと休日を楽しんでいた。その時のエミーリアの笑顔が、とても淑やかで、美しく眩しかった。その笑顔を見た瞬間、私の心臓がドクンとなった。その後も胸に手を当てるとドクドクと心臓の鼓動が激しく打つ。私は自然と彼女のあとを追っていた。
エミーリア嬢とルシア嬢は小さなアクセサリー店に入った。私は窓際に立ち店内の様子をチラリと見ていた。その時は、エミーリア嬢は小さな花の髪飾りを選んでいた。髪に当てて鏡で確認している。ルシア嬢も一緒に選んでいて、どうも彼女は大きな花よりも小さいちんまりとした物が好みらしい。暫く選んで、瞳と同じ紫のアジサイの花のような形の小さい髪飾りを買っていく。とても似合っていた。何故か私も一緒に買い物をした気になり、得をした気分だった。
店から出てどこかに行ってしまうエミーリア嬢たちの後姿を見ながら、今日の事をメイナード殿下に報告すべきか迷った。けれど、彼女の微笑みは私の心の中に留めておきたい、そんな気持ちにが大きくなる。この感情は、小説で読んだ青年の一目ぼれの恋と似たようなものだと思った。
しかし、彼女はメイナード殿下が密かに想っている女性だ。部下の自分が想いを寄せて良い女性ではない。
私は目を閉じる。
大丈夫、まだ大丈夫。
まだこの感情に蓋をすることが出来る。
今日の出来事はちゃんとメイナード殿下に報告しよう。そうすれば、まだこの感情を自制出来るはず。
翌日、私は街で見かけたエミーリア嬢の様子を報告した。メイナード殿下は嬉しそうに話を聞いていた。
「なあ、ルッツ。これからもリアがどんな事をして、何に興味があるのか、調べてくれないか?」
はあ?
メイナードは何を言っているのだ?
まさか、私にストーカーまがいな事をさせる気でいるのか?
私の気持ちはどうなる?
結局、メイナードに「頼む!」と頭を下げられ頼みを聞くことになってしまった。それでも、まあ、いいか、と思い引き受けた。だけど、それはエミーリア嬢を見つめる権利を得られたようで喜んでいる自分がいた。
それから私は毎日ではないにしても、学園の外ではエミーリア嬢のあとをつけるストーカーとなってしまった。
それからというと、私は人のあとを付けることや何かの探りをしたりすることに慣れてしまった。
さて、何処から調べようか。
ラルス・レグルス伯爵令息が言っていたという嫌悪感を持った卒業生は誰なのか?
キーラ・バルト子爵令嬢の件もあるし、やはりクリフ・ルピナスだな。あちらから調べてみよう。
しかし、ここ数日クリフを見かけない。
ルピナス侯爵は家にいるようだったが、クリフのいる気配が全くといってなかった。
不審に思った俺は、友人の振りをし訪ねるとメイドの一人が、驚く事を言った。
「クリフ様なら卒業された2日後ぐらいに、急ぐようにしてハンシェミント国に行かれて戻って来ておりません」
「ハンシェミント? 何をしに行かれたのですか?」
「さあ? 私たちは何も知らされていません。暫くは戻ってこられないという事だけ聞いております」
「ありがとう」
私は帰り道を歩きながら考えた。クリフが何故ハンシェミント国に行ったのか、しかも急ぐようにして……。
ラルスの嫌悪感を抱かせていたのはクリフではなかったのか?
考え事をして歩いていたら、いつの間にかレグルス伯爵家の前にいた。
習慣という物は怖いな。
自然と足がここに来る。
私は苦笑いをするしかなかった。
メイナード殿下と出会わなければ、私はこの秘めた想いをエミーリア嬢に伝えることが出来ただろうか。
ダメだ。そんな事を考えてはいけない。
この想いの蓋を開けてはいけない。
そう自分に言い聞かせ、この場から離れようとした。けれど、もう一度だけエミーリア嬢の過ごす部屋に視線を向けた。
「…………?」
なんだ、この違和感は。いつもと違う雰囲気だった。エミーリアの部屋がいつもと違う気がした。この明るい昼間だというのにカーテンが閉まっている。
いつもなら、カーテンを全開に開け、陽の光を部屋に入れていたはず。
なぜ、カーテンが閉まっている?
体調を崩して寝ているのか?
私は、翌日も翌々日も来たが、やっぱりカーテンは閉まっていた。
「もしかして……いないのか? どこかへ行った?」
同じ時期にクリフもいない。まさか二人してハンシェミント国に行ったとか。いや、そんなはずはない。メイナード殿下が見た馬車がクリフなら、一緒に行ったと考えるのは難しい。
どちらかが後を追っていった?
エミーリア嬢がクリフの後を追いかけた?
そんなことは無いと思いたい。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
もし面白いと感じていただけたなら、応援やブックマーク、評価などいただけましたら励みになります。
次回更新は6月22日0時10分頃の更新予定をしております。
また読んでいただけると嬉しいです。




