おねだりと惚れた弱味と男の意地
時は遡り。
「ねぇ、カルロ? 聞いてるの?」
「あ、あぁ。もちろんさ。愛しい妻の声を聞き逃すわけないだろう?」
確かに聞いてはいたが、ききたくない。
最近、シャルロットの寝顔しか見ずに逃げ回っていた理由も、その一言に尽きる。
─男にだって譲れない意地があるんだ! わかってくれシャロ。そのおねだりだけはききたくないんだ、俺は!
妻に「馬鹿馬鹿しい」と言われたくないから、心の中で叫ぶしかない。当時、あれだけ怒り狂っていた義父は、シャロにねだられ、あっさり陥落して東へ帰っていった。
「ところでシャロ、帰って来た夫にハグだけかい?」
必死に話題を変える。
「あら? お帰りのキスも沢山したわ?」
「違うな。したのは俺で、君は受けただけだろ? 君からはまだだ」
「わ、わたくしから?」
動揺するとたまに出る、昔の口調。あの野郎がまだシャロにまとわりついてるみたいで腹が立つ。が、にっこり笑って両腕を広げて妻を誘った。
「あ、エリーゼの様子を見てこなくちゃ」
案の定、目を泳がせて逃げていった妻。
─子どもまで生まれたというのに、相も変わらず可愛らしいな。
例の話が中断されてホッとはしたが、夜にまた持ち出されそうだ。話題だけとはいえ、夫婦の寝室にあいつの国が割り込むのは赦せない。
─仕方がない。抱き潰すか。
一体、いつまで粘る気なのか。シャロはいっこうに諦める気配がない。取引先の奥方に招かれ、そこで留学生に会ってからずっとこの調子なのだ。
ダイヤもルビーも、サファイアも贈り尽くした。欲しい物を聞いたら、『薬が欲しい』『手術器具が欲しい』としか言わない始末。
─シャロにあんな酷い仕打ちをした奴らなんか、くたばればいい。絶対に助けてやりはしない。
翌日、呼んでいた絵師が到着した。彫刻師は来月だったか。
「シャロ、さ、出ておいで。描いてもらおう?」
ベッドでシーツを被ったまま、妻が出てこない。
「嫌です。貴方が描いて戴けばいいじゃない」
「馬鹿な。俺なんて描かせてどうする。今年はまだ一枚しか描いてもらってないだろう?」
「……こんな姿を描かせるとおっしゃるのっ?」
バッと起き上がったシャロの唇が少しだけ腫れている。視線を下げると、首筋、鎖骨、胸の谷間、至るところに咲く紅い花。
─心当たりしかないな。やり過ぎた。
ワナワナと震えるシャロは真っ赤だ。自分から見せてきたくせに両手で俺の目を覆いにくる。
「すまない、シャロ。あんまり君が可愛いものだから」
「お馬鹿さんっ これじゃ部屋から出られないじゃないの!」
「部屋からと言わずにベッドからも出なくていいよ。ほら、おいで?」
ぱっしーん と手を叩かれた。
「カルロは、わたくしに触ってはいけません。絵師にはエリーゼを描いて戴いてください!」
「そんなっ! シャロ、嘘だろう?!」
「ふんっ」
愛しい妻が、またシーツに潜ってしまう。
三日後、留学生が大量の医療品と共に船に乗った。
ヴィックス商会会頭を操る裏会頭。
結婚後、シャルロットのお陰でマイヨール商会を越えました。
これで後日談も最終話です。
お読みいただきありがとうございました。
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神様、仏様、読者様。エロ寄りじゃないイチャイチャが書けない立縞に、どうかお星さまを降らせてくださいませ。
きっと、たぶん、書けるようになりますからっ
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