─救国の聖女─
東西両大陸間のちょうど中間に位置する国。
前国王夫妻は先の、商船事業の失敗の責任をとって退位した。彼等と共に、国の上層部が総入れ替えとなってから久しい。
そして今日、王城の大広間では新大臣の就任を祝う宴が開かれている。
主催は勿論、国を立て直し、賢王と呼ばれているジョシュア国王と、アデル王妃だ。
主役は目元の笑い皺が取れなくなった聖女。
かつて『慈愛の聖女』と呼ばれていた彼女の、今の二つ名は『医療の母』。王家、貴族、国民、すべてに推されての医療大臣への就任だった。
「あんたたち、余計なことしてくれたわね」
「そう言ってくれるな。君以外を据えたら、また国が荒れる」
「やっとのんびり出来ると思ったのに」
「サリーさん、そう仰らずに。私達を含め皆が貴女に感謝しているのですわ。貴女の功績は、どちらの二つ名にも相応しい素晴らしいものですもの」
「違うわ、私じゃない」
苦し気な顔で聖女、サリーが俯く。
「私は国を守ることがどういうことか知らなかった。それでも私が歯を食い縛りここまでやってきたのは、嘘つきになりたくなかったからなの。ただそれだけ───彼女に『私がいるから大丈夫』って、約束したのだもの」
「君もか……」
「それに、病院へのあの寄付はきっと……」
「そうだな」
聖女が病院の設置を始めても、器具や薬は満足に揃わなかった。
商船取引に失敗した時期で、財政難だった国も援助らしい援助が出来なかったからだ。
聖女の癒しの力も弱まり助けられないことが増え、この国にとって最も苦しい時期だったと言えるだろう。
そんな時、両大陸から、沢山の薬や医療器具と共に留学生達が帰国してきた。彼等は誰一人として医療品の出所を明かさなかった。国王である自分が何度訊ねても、けして。
─お陰でどれだけの国民が救われたことか。いや、救われたのは民だけではない。彼等を助けられずに苦しむ聖女や私達王家をも救ってもらった。
国の財政が安定するまで途切れることなく続けられた、無名の寄付。
両大陸でそれが出来る者は非常に限られる。そして、その者達を動かすことが出来る者はたったひとり。
「……本当にこの国を救ったのは、彼女ですわね」
賢王と医療の母が、王妃の言葉に頷く。
広間の窓から見えるのは、紅く染まった海。
三人は誰が言うでもなく頭を垂れた。
大勢の若き貴族達と共に。




