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敗者の末路

 なんとか全シーンを撮り終え、腹の出た男は意気揚々と帰っていった。途中で再びエアが吹っ飛んだり、槍の男が突然いきり立ったり、カイが腹の男の要望に笑いながら静かに怒っていたりしたが、概ね順調だったのはオランたちオオトカゲが協力的だったからに他ならない。明るさと人間臭さが減り、オランは安堵に息を吐く。疲れ果てている部下たちも一様に安堵した表情だ。大きく息を吸っているものもいる。

「オラン様、ありがとうございました」

「約束は、守ってもらうぞ」

 カイは「ええ」と頷くと、まずはモヤから女子供を解き放つ。泣いて出てくるかと思った子どもたちは。

「あれー、もう終わり!?」

「楽しかったのにー」

「あいあー」

「遊んでもらってよかったねー」

 まだ物心が吐いていないハナならわかる。けれど、サバンやナイル、しかも母親側の女たちまで楽しそうなのだ。

「お前たち! 大丈夫か!?」

 オオトカゲの部下たちが駆け寄っていく。よほど、男たちの方が顔色が悪い。

「オラン様! 大きいフヨフヨたちとおいかけっこしたの!」

「踊りも楽しかったよねえ」

 オランに駆け寄ってくる子どもたちを抱きとめながら、カイの様子を見る。このモヤは人質にするための檻だったのではないのか。

「あれ、あのモヤってなんか生気奪うんじゃなかったっけか?」

 槍の男がカイに尋ねる。

「あのモヤは戦闘用と保護用があってですね。保護用のモヤはその空間を清浄に保って外部から干渉しにくくするんですよね」

「その保護用のモヤであいつらは大いに遊んだと」

「お気に召してもらえて光栄です」

 大きなお世話だが、楽しげにモヤの中での出来事を話すナイルたちを見ると言うに言えない。

「オラン様。それでは、ここ一帯を保護用のモヤで覆いますから。少し皆さんを集めておいていただけますか」

「ついでになんか罠も作っておくか?」

「あまり人間が関わっているとは思わせたくないんですが」

「罠だと丸分かりだから、迷路みたいにするとかは?」

「そんなんできるか?」

「錯覚を使ってーー」

 カイと槍の男と勇者とで話がどんどんと進んでいく。3人は話がまとまったと王座から出て行ってしまった。オランは目を白黒させるばかりだ。

「オラン様……」

 部下たちが心配げにこちらを見やる。まだ十分に事情を説明できていない者も多い。

 オランは皆を王座の前に集めると、少し長い話を始める。カイとの戦いに敗れたこと。カイとの約束。これからのこと。

「我らは負けた。魔王様には申し開きもない」

「そんな! それではオラン様が!」

 部下たちの剣幕に子どもたちがオロオロとする。女たちは皆すすり泣きを始めた。

「いいのだ。お前たちはここで当分の間はゆるりと暮らせるだろう。オオトカゲの種族のためならば、安いものだ」

 ヴァラヌス、と右腕の部下を呼ぶ。首に下げていたオオトカゲの長の証である首飾りを渡す。

「お主が今後オオトカゲの長だ。人間に加担したと思われぬよう、気をつけてくれ」

「は! ありがたく拝命し、オオトカゲ一族を繁栄させることをここに誓います」

 オランが大きく頷く。できればもう一度カイと話したいが、叶わないだろう。

「馴れ合いはするな。人間たちは魔王様を襲う。それは止めねばならん。けれど、あの男たちには、このオランからだとお礼を言っておいてくれるか。オオトカゲ一族の長ではない、このオランから」

 これで、皆を守れる。

 王座に座ると目を閉じる。

 魔王へ繋がる扉を抜けさせた者は、一族の王としての器がない。魔王様への顔が立たない。失態には身をもって償う。

「皆、ここから場所を移してくれ。子どもたちには見せたくない。あとはいつも通りの手筈で頼む」

 衣擦れの音とすすり泣きの声が聞こえる。子どもたちはそんな大人たちの様子に気圧されてか、いつもは達者なサバンも口を閉ざしたままだ。

 オオトカゲの子たちは聡い。いつしか、立派にここを守る戦士になってくれるだろう。

 誰もいなくなった王座でオランは一人笑みを浮かべる。

「ここで皆の長をできたことを誇りに思う」

 どこにいたのかオランの手からゆるゆると蛇が起き上がる。オランの手首ほどの太さの蛇は、少しずつ膨れ上がると――。

 オランの頭を飲み込んだ。

 ブツリ、と音がすると蛇は何度か喉を上下させ、またゆるゆると手首に戻っていく。

 オランの顔があった場所にはただ王座の背もたれが見えるばかりだった。

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