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絶体絶命

「は!? んなわけあるか! 足あんだぞ!」

 ダンプがグリムを指差す。足はローブで隠れて見えない。

「……あれ、やっぱ霊なのか?」

「まあ、正しくは霊に近いもの、ですけどね」

 グリムが左手を頭上にあげて、何かを引っ張り出すように振り下ろす。

 腕を振り下ろしたのと同時に怒号のような音と共に、背筋が寒くなるような空気がダンプとカイの体を走り抜ける。二人は体の力が根こそぎ取られたかのような目眩に思わず膝をついた。

「……ん、だ、これ、は……」

 重力に引っ張られているかのように、体を起こすことができない。

「すみません、マーラはイタズラが好きでして。すぐ、人を跪けたがるんです」

 グリムの背後には、人型のような動物のようなあやふやな形をした青黒いモヤが渦巻いていた。ヴァンとは異なり、その霊はグリムから離れない。

「憑いている、ということですか」

「そう思ってもらって問題ないです」

 マーラと呼ばれた背後の霊は、大きくなったり小さくなったりしながら、笑ったような怒ったような表情をしている。ダンプは床に頭を垂れた。目眩は落ち着くどころか激しくなり、身体の平衡感覚がなくなる。膝をついている状態でさえ、まっすぐ顔を向けていられない。頭を強く振っても目を瞑ってもその感覚は引かず、ぐるぐる回る乗り物に永遠に放り込まれたようだ。

「霊と見抜いたあなた方には特別ですよ。いつもはマーラを人に見せることはないですからね」

 カイは霊気への耐性からか、まだかろうじて顔をあげられていた。しかし、背中を伝う冷や汗を止めることはできない。あれだけの強さの霊を憑けながら、自身に何も影響がないわけがない。それなのに、グリムは平然と立ち、鎌を振るっている。

「可愛いでしょう。マーラは私の言うことはよく聞いてくれるんですよ」

 そう言って、グリムが鎌で自身の背中を引き裂く。

「なっ!」

 ぽたりぽたりとグリムの背中から血が落ちる。その血に歓喜したようにマーラが膨張し始めた。

「マーラ」

 その声に大きく口を開け、何かを吐き出す。と、同時に凄まじい衝撃がカイとダンプの頭上を駆け抜けていった。音が一拍遅れて来る。凄まじい轟音がカイとダンプの頭上を先ほどとは逆に駆けていく。衝撃が家を揺らした。

「ふふ。お二人とも顔色が悪いですよ」

 振り返らずともわかる。ダンプは息をのんだ。盾やシールドに用いられる鉱石でも強度の高いものを仕込んでいた壁を一瞬にして貫通した。背中を風が撫でる。息を飲んだ。威力もさることながら、一部のみを貫通させるような高度な攻撃に背筋が凍る。普通、あれほどの威力ならば家ごと吹き飛んでいる。

「契約、ですか?」

 マーラに血を与えたせいか、周りの霊気がさらに濃くなり、カイがとうとう頭をたれる。

 悪魔や死神と契約して使役することは古来から黒魔術として伝えられ、今でも儀式の方法が受け継がれている地方もあると聞く。

「そんなつまらないものではありませんよ」

 グリムが顔を歪めて笑う。確かに契約ならば霊を憑かせる必要はない。

「少し喋りすぎてしまいましたね。それでは、そろそろ終わりにしましょう。うちのペットを渡すなら今ですよ」

「願い下げです」

 そうですか。グリムがため息をつく。大鎌を前に向ける。

「他人のために命を落とすことほど愚かなことはありません。それでは、あの世で会いましょう」

 マーラが再度口を大きく開ける。口の中は空洞だが、その中に青黒い丸い気が練り上がっていく。カイとダンプはすでに抵抗できるほどの気力が残っていない。それでも、ダンプは槍に手を伸ばし、カイが右手をかかげる。息も絶え絶えのその仕草を嗤いながら、グリムが大鎌を振り上げる。

 その瞬間――。

 あたりを強い緑の光が覆った。

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