グリムの正体
宙から人型のようなモヤが出てきて、だんだんとその姿を鮮明にしていく。
「ほお」
グリムが笑みを浮かべた。
「人型も出せるんですね」
カイの目の前に浮かび上がるのは、ローブのような裾に足が隠れた人型の霊。長い髪からゆらゆらとモヤが飛び上がっては翻る。ヴァンは大男だが、こちらは小娘ほどにしか身長がない。
「ヴァンも人型ですけどね」
モヤを出し終えて娘型の霊の横に立つヴァンを見やる。
「なにを言います。彼はあなたの守護霊でしょう?」
カイは眉を上げた。スノウが霊魂だったことを鑑みるに、グリムも霊に詳しいことは予想がついていたが、詳しいというレベルの話ではない。
「そうです。守護霊を具現化したのがヴァンです。よくわかりましたね」
そして、ヴァンがもし敵が召喚した霊だったとしたなら、それはネクロマンサーであるカイをもってしてもわかることではない。霊気を感じて、その区別ができるというのは、それこそこの世のすべての霊が見えるほどの桁外れな霊視能力がないとできることではない。
「これくらいのことで驚かないでください。もっとわかりますよ。守護霊が作り出すモヤは霊気を高め、こちらの生気を弱めるもの。特に……魔物の気ですか? これに効くみたいですね。そして、そこの霊は……、ああ、ソフィア様ですか。これはお初にお目にかかります」
グリムが優雅に腰を折る。カイは大きく目を見開いたままだ。
「ありえない……」
「おい、カイ、どういうことだ?」
どんな技術をもってしても、霊の能力を当てるような力は存在しない。それができると言うことはつまり。
「では、お手並み拝見と行かせてください」
グリムが大鎌を構え直すと、瞬間、距離を一気に詰め、大きく振り下ろした。
「ソフィア様、防壁を!」
小娘の形をした霊が床から幾重にも束ねられた大きな幹を目の前に出現させる。
その幹にグリムの大鎌が防がれる。幹があたかも命を宿したかのように枝をグリムに伸ばして襲いかかる。グリムは、反動を利用して弾かれた大鎌を横に振るとその幹を殲滅した。粉々になった幹がフッと姿を消す。
「そういえば、ソフィア様は植物系に命を吹き込んで戦士のようにするのが得意でしたね」
「ヴァン、もっとモヤを! ソフィア様、鎖をお作りください」
その言葉には答えず、カイはヴァンとソフィアに新たな指示をだす。
ヴァンは太い鞭を大きくふるい、周りのモヤをさらに濃いものにしていく。あたりを白いモヤが完全に囲い尽くす。ソフィアは床から細い蔓のような茎を出して編み上げた。
ソフィアが蔓の鎖をグリムめがけて放つ。横に飛び退いたグリムを蔓の編み上げから抜け出た1本の蔓が追う。グリムの大鎌の柄を捉えると、
「ヴァン、鞭を!」
間髪入れずにヴァンに攻撃させる。大きくしなった鞭がグリムの体をしたたかに打つ。そのままグリムを吹き飛ばし、壁に叩きつけた。
「ぐ、ふう」
「やったか!?」
ダンプが身を乗り出す。壁の塗装が剥がれ、こちらでもシールド材が顔を出す。これのおかげで、普通の壁よりも叩きつけられた時の衝撃が大きくなっているはずだ。カイは大きく首を振った。
「やはり……。けれど、信じられない」
「だから、どうしたんだよ!」
先ほど声をあげたグリムがゆっくりと立ち上がる。受けた攻撃などまるでなかったかのような優雅な立ち方だった。
「生きている人間に、ヴァンの攻撃が当たるはずないんです」
「は?」
グリムが大鎌を構え直す。
「うーん、我らがネクロマンサーの女神やあなたの守護神と戦うのはなかなか面白いんですけどね。そろそろ飽きてきました」
グリムは大鎌を頭上に掲げるとゆっくりと振り下ろす。
斬撃が床を走り、ヴァンとソフィアを貫いた。二人のモヤに亀裂が入り、フッと消える。
「終わりにしましょうかね」
霊の能力を透視したかのように当てたり、霊たちとあたかも人間同士のように戦ったり。それができるということは――。
「彼もまた、霊だということです」




