グリム
「アリア、ちょっと悪いな」
ダンプがベッドを槍の先でひっくり返す。
「まっ!」
マットレスごとアリアがずり落ち、その前にベッドが盾のように置かれる。
「ないよりマシってくらいのバーケードですね」
右手で先ほどよりも小さい犬の形をした霊をベッドの前に召喚する。
「そいつも気休めかもな」
顎で前をしゃくる。全身に響くピリピリとした空気が、相手の強さを物語っている。
霧が薄れ、ダンプの部屋の中央には、一人の男が立っていた。
長いローブで体と顔が隠れている。カイはヴァンにモヤを作り出させ、ダンプは腰を落として槍を低めに構えた。
「あまり歓迎されていないようですねえ」
「客なら、入り口から入って来るんだけどな」
「これは、これは。失礼いたしました。私は、グリムと申します」
男が一礼する。流れるような仕草の中、攻撃できるような隙は全くない。
「私の可愛いペットたちが迷子になってしまっていたようでして。探しに参りました」
「あいにく、動物の類はうちには迷い込んで来てねえな」
「そうですか。そちらから、うちの子の匂いがするもんでしてね。少し、確かめさせていただいてもよろしいですか?」
「フードで顔も見えないような奴に、うちの中を案内する義理はねえな」
「そうですか。また、失礼を重ねてしまいました。何分、こんな顔でして」
そう言うと、グリムと名乗った男がフードを払う。かなり短く刈り込まれた髪に、顔の左側に火傷を負ったのか皮膚が焼けただれ、左目はほぼ開いていない。
「この姿を見せると、みなさん怖がるものでして」
「大丈夫、かなりイケメンだぜ」
ダンプが口笛を吹く。槍がカタカタと細かく震えている。
背筋が凍るほどのオーラだ。左目から視線を外すことができない。
カイはグリムの気配に目を凝らす。ヴァンが作り出したモヤの力が効いていない。
「それで、うちの子がいるのか、確かめても良いですかね?」
「それは、願い下げだ!」
「ダンプ!」
カイが静止する間も無く、ダンプが突っ込んでいく。グリムはいつのまにか肩に大鎌を担ぎ、フードを間深く被っていた。
大きな槍をものともしないほどのスピードを出したダンプが、槍の先をナタのような刃に変化させた。
「お帰り願おうか!」
叫び声と共に、ナタを突き出す。大鎌でそれを軽々と受けたグリムに、ダンプは槍を操作して銃槍から近距離で弾を打ち込むと、その反動で宙返りをし、さらに変化させた槍の先を振り上げた。
「あばよ!」
爆風と共に、ダンプも後ろに飛ぶ。
「ダンプ!」
パラパラと攻撃の反動で天井から木屑が落ちてくる。爆風で床の塗装が剥がれ、防御用のシールドに使われる鉱石でできた板が現れた。
「うちの強度は完璧よ。ベッドもな」
「それはいい知らせですが、悪い知らせの方が大きいですね」
爆風で起きた煙の中から男の足元が見えてくる。
ローブで顔を防いでいた男は、大鎌をゆっくりと担ぎ直す。
「なかなか面白い武器ですね」
まるで何事もなかったかのような男の姿にダンプが舌打ちする。
「まじかよ。けろっとしてやがる」
「ダンプ、勝手に突っ込まないでください」
「そちらの御仁は霊使いでしたね。どうやって私を楽しませてくれるんですか?」
グリムはヴァンにも周りを囲むモヤにもちらりとも気を向けない。
「いえ、私は霊を使えるんじゃなくて、召喚して指示できるだけなので」
「悠長に会話してる場合かよ」
「同じ丁寧語だと調子狂うんですよね」
言いながら、カイが霊気を練り上げる。
「私はなんでもいいんですが、戦うかうちの子を引き渡すかどっちかにしていただけないですか?」
「それはもちろん、戦う一択なんですが」
右手を左手で持ちながら宙から大きなものを引っ張り出す仕草をする。
ダンプ、とカイが声をかけた。
「ちょっとしゃがんでいてください!」




