霊魂のスノウ
エアの膝に寝かせたアリアに剣がふよふよと近づいてくる。
「アリア……」
「大丈夫か? そのー、スノウ」
エアが翡翠の石にそっと手を伸ばす。少し、ヒビが入っている。
スノウは今度は拒否せずに、宝石から放つ光を明滅させた。
「私は大丈夫。でも、ごめん、これあんたのなんでしょ? 傷ついちゃった」
ぺこりとお辞儀をするように、剣の切っ先を軽く下げる。
小さい女の子が一生懸命に謝っている姿が見えたような気がして、エアは軽く笑った。
「いいんだ。剣は壊れていないし。もともと、そんなに使ってないんだ」
「とはいえ、この傷は直した方がいいかもしれないですね」
「うわ!」
横からカイが気配も感じさせずに顔を出す。エアは思わずアリアの頭を膝から落とすところだった。
「どうして?」
スノウが剣を斜め横に傾けた。どうやら首を傾げているらしい。
「あなたがその宝石を住まいとしているなら、それが壊れるとあなたもそこから出て行かざるを得なくなりますからね。下手をすると、魂ごと霧散します」
「そうなんだあ」
スノウが可愛らしい声を出すが、なんとも呑気だ。
「いやいや、結構今、やばい状態なんじゃないの?」
「傷なら、親父が直せると思うぜ」
ダンプが階段からよいしょ、と立ち上がった。大きく伸びをする。
「直せるのか!?」
隣まで来て剣を確かめるダンプにエアがすがりつく。スノウは大人しく、ダンプの手に横たわったままだ。
「普通じゃない武器なんてわんさか見て来たからな。これくらいなら直せるだろうよ」
「ほんと!? よかったー」
スノウがダンプの手からぴょんと跳ね上がった。剣の切っ先がダンプの喉元に突きつけられる。
「っぶねーな! 突然、起き上がるんじゃねえ!」
「ご、ごめんなさい……」
スノウは恐る恐る体を横たえる。
「まったく。なあ、あんたこれどうにか何ねえの?」
ダンプがカイを振り返る。カイはというと、エアの膝から頭をおろして、アリアの体の状態を確かめていた。目だけちらりとよこす。
「どうにかとは?」
「なんか、さっきの大男みたいに具現化っつうの? こいつをこの宝石から取り出して外に置いとくっつうか。こいつの反応が武器に連動してると親父が刺されるわ」
先ほど、その親父さんをむりやり寝かしつけた人間の言うこととは思えない。
「霊と魂というのは違いますからね。切り離しはできないですよ。そんなことできたら、生身の人間から魂を取り放題です」
「それもそうか」
でもさ、とエアが意を唱える。
「さっき、俺、スノウの具現化っぽい姿が見えた気がしたんだけど」
「見えた?」
エアが頷く。
「白い髪に緑色の眼してた」
「はあ? ずっと剣でしかなかっただろ」
ダンプが「なあ?」とカイに聞く。カイは頷きはしたものの、腕を組んだまま黙り込んでしまった。
「ねえ、もう離れてもいい?」
スノウがダンプに問いかける。
「あ? ああ、すまん。いいぜ、ありがとよ」
手から床に横たえると、すくっとその場で立ち上がるように宙に浮いた。
「できるかもしれませんね」
「え?」
「魂だと思っていましたが、これが霊魂なのだとしたら、具現化、できるかもしれないです」




