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蛇の霊

 ダンプが階段まで歩いていくのを横目に見ながら、カイも短剣を納めた。

「一時休戦ですかね」

 その言葉にエアが身を翻す。剣のそばまで行って、下から横から剣の様子を伺う。

「アリア、あいつらの言いなりになっちゃダメ。戻ってきて!」

「う、あ、ス、ノウ……」

「そうだよ、スノウだよ。アリア、がんばって!」

 翡翠の石が点滅している。声の抑揚に合わせて、光り方が変わる。

 どうやら本当にこの翡翠の石が喋っているらしい。

 声は直接剣から聞こえるのだが、エアは剣の上に女の子が立っているような錯覚にとらわれた。

 ウェーブのかかった白にも銀にも見える髪が空に向かって漂い、エメラルドの色をした瞳が心配そうに歪む。思わず、エアは手を伸ばそうとして――。

「あんた、ジャマ!」

 弾き飛ばされた。

「いてて」

 再び頭を抑えるエアの横を通り抜けて、アリアがスノウに近づく。

「あ、あ、あああ」

「アリア、大丈夫、大丈夫だからね」

 アリアが助けを求めるように手を伸ばす。スノウはそれに答えるように、励ましの声をあげた。そして、翡翠の石にアリアの指が触れた瞬間。

「ああああああ!」

 アリアがその石めがけて電撃を放った。

 アリアのものかスノウのものかわからない悲鳴が響き渡る。

「アリア!」

 エアがアリアの体に飛びつく。全力で体を押すが、ビクともしない。アリアはその間も翡翠の石に電撃を浴びせ続ける。

「ア、アリ、ア」

 スノウが苦痛の声をあげる。

「アリア、やめろ! スノウが痛がってる!!」

 ピクリとアリアの動きが止まる。アリアはしがみついているエアに顔を向けると電撃をほとばしらせていた右手をエアの方へゆっくりと向ける。

「そこまでです」

 と、カイがその手を左手で掴んだ。

「バク、アリアに降りたモノを食べてください」

 右手では、小さな像のような形をしたモヤが鼻をくねらせていた。カイの左手を伝って、アリアへと近づく。鼻を向けると口らしき部分を少し開けて、すうっと何かを吸い上げていった。黒い煙がアリアから抜け落ちていく。アリアの足から次第に力が抜けて、がっくりと倒れこんだ。アリアの手首に巻いてあった腕輪がシャランと鳴る。エアはその体を支えるとゆっくりと床に座らせた。

「さあ、どういう奴が出てくるでしょうかね」

 全ての黒い煙を吸い込んだバクが体を膨らましていく。だんだんと大きくなったバクは鼻を一つ揺らすとポンっと姿を消した。

 消えた跡から黒い巨大なものがむくりと顔をあげる。

「蛇ですか」

 ちろり、と舌のようなものを出しながら、とぐろを上に上に巻いていく。

「ヴァン」

 その一言で、ヴァンが鞭をしならせて蛇へと攻撃した。蛇も尻尾でヴァンを威嚇しながら、食らいつこうと頭を繰り出してくる。

 その攻撃を避け、ヴァンが左手で蛇の胴体を殴りつけた。蛇が頭から床に倒れ、霧散していく。

「結構、あっけなかったな」

 階段に座り込んでいたダンプが一つあくびをした。

「そんなことができるなら早くやってくれよ」

 エアがその場に座り込む。

 あっけない、というのは見た目だけだ。

 霊を他人に降ろす技など、ネクロマンサーであるカイでさえ見たことはない。今回は浄霊と同等の手順で挑んだ。それが功を奏しただけだ。

 自分に霊を降ろす降霊と似たものならば一度だけ見たことがあるが、誰もが気づくような技でもなければ、今回の技は降霊と本質的なところがかなり異なる。

 それなのに。

 アリアはエアの膝の上に頭を載せて、まだ気を失っているようだ。

 霊を他人に降ろす。

 その力を使える人間がすでにいるとすれば。

 「少し厄介なことになってきましたね」

 カイのつぶやきは誰にも届いていなかった。

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