武器屋の息子、ダンプ
確かに20分。体感にすると倍には感じる道のりを経て、エアたちは立ち止まった。草原が突然そこで焼き払われたかのようにすっぱりと途切れた場所に、武器屋はあった。
どうしてそこが武器屋だとわかったかというと、1軒の家がその先の道を塞ぐようにして建っていたからだ。
「どうして、こうも家の中を通らせようとするんだよ」
エアが呆れたように声を出す。家の左右は高い塀に囲われていた。途中でカーブしているところを見ると、大きな円を描くように塀が作られているらしい。
「武器屋兼検問ってところですかね」
カイがアリアを背中から下ろす。
「村の稼ぎ頭で、村の守護者だよ」
アリアが、武器屋の扉を開けた。カイがその背後に立つ。入口の左右、扉の形のアーチ状の部分から、槍のようなものが正面に飛び出し、エアの頬をかすめた。
「っぶね!」
「気を抜いた奴は死ぬから」
「言えよ!」というエアの悲痛な叫びはアリアにすっかり無視される。
堂々と正面から入ってこない輩は、客じゃないということか。
「それにしても、かなり作りの良い槍ですね。こんな罠に使うのは惜しいくらいです」
カイが飛び出している槍を横からじっくり観察する。槍の棒部分は手で握りやすいようにくぼみや取っ手がついている。
槍の先端部分は光を吸収するように発光を抑えたツヤを出しており、かなり上質な鉄鉱石を使っているか、かなり腕の良い鍛治職人が作ったかのどちらかだ。
少なくとも罠に使う代物ではない。
「すげー。これ、てこの原理を意識して作られてるよ。折れにくくなってる」
エアが棒の取っ手やくぼみに手を添わせる。
「あ」
アリアが声を出すのと、上から矢が飛んでくるのは同時だった。
目の前ギリギリを通ってドアに突き刺さる。カイがエアの襟首を引っ張らなかったら、脳天に突き刺さっていたはずだ。
「これは、早く話をつけたいですね」
エアは口をパクパクさせたままだ。深呼吸をして、ようやく声をだす。
「客、絶対死んでるだろ!」
「そういう店なんだよ。買いに来るなら命をかけろってね。それでも、親父さんの武器を買いに来る命知らずがわんさかいるよ」
「ついてきな」とアリアが顎をしゃくって、進んでいく。エアはぴたっと張り付くようにアリアの服を掴みながら歩いていく。
「親父さん、アリアだよ。ちょっと話があるんだけど」
「あー?」という野太い声が響きわたる。通路を歩いてきた先は、倉庫のように大きな空間になっていて、左右の棚には所狭しと様々な武器が無造作に置かれていた。
中央には大きなカウンターらしき机がある。声はさらに奥から聞こえてきたようだ。
「んー。タイミングが悪かったかも。しゃがんで」
アリアは言うや否や頭を伏せ、ついでにエアの頭を強く押して下げさせる。エアが頭を下げた瞬間、ヒュンッと上空を何かが飛んで行った。
ガシャーン、と後ろで大きな音が聞こえる。
「誰だ、邪魔しやがって! またイチからやり直しじゃねえか!」
奥から、赤々と燃え上がった大きな金槌を持った大男が出て来る。赤ら顔でヒゲが顔中を覆っており、まるで赤鬼のような様相をしていた。
「親父さん、アリア。扉開いたの聞いただろう?」
アリアが顔をあげて、親父を見上げる。赤鬼の持っている金槌でぺしゃんこにされてしまうんじゃないかと心配になるくらいに、大男はアリアを睨みつけていたが、次第に顔を緩めた。
「なんだ、アリアか。そう言え」
「なんども言ったよ」
「悪い、悪い。集中してたところを俺の客じゃないやつに邪魔されたのかと思ってな」
食われそうな形相はなりを潜め、目尻が下がると途端に全体が柔和になる。その顔はまるでサンタクロースのように周りに安心をもたらすものだった。
「客だよ。親父さん、私が売った剣、まだあるかい?」
アリアが大きなため息を吐きながら立ち上がる。
「ああ、あれはちょっとどんな代物か確認中だ。まだ手元にある。と言うか、今まさに手入れするところだった」
「よかっ――」
アリアがエアたちを振り返ろうとしたところを、カイが突然押さえつけた。
「カイ!?」
エアが驚きのあまり叫び声をあげ、大男は眉を大きくあげ、また赤鬼のような形相を作り上げていた。カイはその表情を一つも崩さずにアリアの首筋に短剣を突きつけた。
「エア。私が猫を召喚したとき、なにを指示したか覚えていますか?」
「え? えっと、お守りの魂と同じものが関係している剣を探してくれって」
そうです、とカイが頷く。
「霊が指示を間違うことはありません。ですが、たどり着いたのは剣ではなく、彼女、アリアのところでした」
「あ……」
「これが示すことは、あの魂が関係していた剣を最後に持っていたのはアリアと言うことです」
グッと、エアがアリアを押さえつけている手に力を込める。
「で、でも、アリアはここまで案内してくれたし!」
「そうです。ここに剣があるかはまだわかりませんが、剣が前と異なる状態であることは確かです。それなら考えられることは2つ。1つめは、この2人はグルで剣をどうにかした。もう1つは、アリアが剣に何かをしてこの人に売った。案内した理由もあるはずです。さあ、何をしました? どうして私たちを案内したんですか?」
ウッ、とアリアが声をあげる。締め上げているカイの腕で喉が苦しくなってきたらしい。
「早くしないと、意識飛びますよ」
「おい、お前、いい加減にしろよ」
大男が金槌を振り上げる。
「や、め――」
アリアが声をあげるようとすると、
「おいおい、親父、それ振り回すなよ」
いつからそこにいたのか、カウンターに座った1人の青年が先端が4つに割れた大きな槍で大男の金槌をひょいと止めた。持ち手には引き金もあって、銃のようにも見える。
「ダンプ!」
アリアが青年の名を呼ぶ、
「ここ壊れたら、俺、引きこもりできねーじゃん」
青年が引き金を引く。「パン!」と音がして、大男がボフウと大きな音と埃を立てて、前に倒れた。
「あんたも、アリアからその物騒なやつ、外してくんね?」
槍の先端がすっとカイの先まで来て、一分のブレもなく止まった。
4つに割れた切っ先の真ん中には銃口が見える。
「あ、あんた、親父、ころして……」
エアが銃の音に驚いて腰を抜かしていた。
「バーカ、死んじゃいねえよ。眠らせただけだ。俺がその剣を見せてやるから、あんたも、それしまえって」
カイがようやく短剣を外し、アリアの喉から腕を引き抜いた。ゲホゲホッとアリアが咳き込む。
「魂とかなんとか、俺にはよくわからねえけど、十中八九、これが原因だと思うぜ」
ダンプが槍の手元を操作すると切っ先が取っ手のように変わった。
その槍で、棚の上の方にある剣を掴み上げる。
「ダンプ!」
「俺はね、俺の安眠を邪魔するものは全部排除することにしてるの」
そう言って、剣を掲げる。それは、確かにエアの剣で――。
「あれ?」
ツタに巻かれたような鞘の装飾に、柄に描かれた花柄にも見える幾何学の文様。
そして、中央で光を放つ翡翠の宝石。
「石が光ってる?」




