モルガナの失敗
夜になると、昼に名前が出たアイリ=オードランも姿を見せた。
「お父様は大丈夫だったのですか?」
私が問うと、彼女は桃色の長い髪をくしゃくしゃとかきまぜ、疲れたように言った。
「ただの食あたりだったわ、本当、困ったお父様よ」
「まぁ……それは、難儀でしたね」
「じゃないわよ、あんた手当て、フィトにやってもらったんですって?」
「他のかたでもよかったのですが、それを言ったらフィトがしてくれるというので」
「あんたってばほんっとうに魔術のこと以外だめっだめなんだから!」
なぜアイリがこんなに怒るのかよく分からず、私は首を傾げるばかり。
「ですが、消毒はしなければなりませんでしたし、アイリを呼ぶわけにもいきません、自分では手が届きませんし、治癒術を使おうにも限界です」
「そーだけど! そーなんだけど、あんたってほんと、にぶいんだから!」
しばらくしてアイリは「もういいわ」と言って、ポケットから何かをひっぱりだした。
「はい、ちょっとおとなしくしててよね」
「?」
私のサイドポニーの髪にアイリが何かしている。
「どう?」
手鏡をさしだされて、驚いた。
綺麗な藤色の花飾りがされていた。
「どうというか、私には似合わないのでは」
「だいじょうぶ似合ってるわ、たまには少しくらいおしゃれしなさいよね」
「ありがとうございます、アイリ」
それから私は、つかまらないかもしれないと思いながらアルヴァーを探した。
(忘れていたのですが、彼は握手もできないほど女性が苦手だったのでは。
それなのに私を背負って戻ってくるなんてどれほどの苦行だったでしょう)
会場に見つけたアルヴァーはやはり、さまざまな人に囲まれていてとても声をかけられる状態ではなかった。
(しかたありません、あとにしましょう。
いまは英気を養いませんと)
私はアルヴァーに時間ができるまで食事を楽しむことにした。
□□□
(しっぱいしました……)
私は自分が下戸であると重々承知しているので、アルコールの類は常々避けてとおるのに。
どうやら知らずのうちに口にしてしまったらしい。
(ふわふわします、とても)
夜風にあたりたいと外にでた。
そのまま、近くにあったベンチに座り込んで私の意識は途切れた。
□□□
「――ルガナ」
なにか聞こえた気もするけれど。
(ねこ、ねこ……)
私は夢の中で猫とたわむれていた。
(あったかい)
ふかふかではないけれど、あたたかい、かわいい。
頬ずりをして、キスをする。
「っ」
(あれ?)
猫……。
(いますごく驚かれたような)
「起きるんだモルガナ、こんなところで寝ていたら風邪をひくよ」
「――え」
重たいまぶたをなんとか開ける。
「……アルヴァー?」
なぜか、私はアルヴァーの手を掴んでいて、
頬をくっつけていて。
「――すっ」
いっきに覚醒していく意識の中、私の声は引きつっていた。
「すみません!」
「大丈夫、だ」
アルヴァーは赤い顔でそうこたえた。
□□□
「あら大穴」
そんなアルヴァーとモルガナを見ていた二人組みの片方、アイリがぱちんと指を鳴らす。
一方、フィトは大変不満そうだ。
「副団長が女の子にさわるなんて珍事もいいところだわ」
「モルガナのやつ、アルコール飲んだんだな、ったくいつもこーだ、いつもよりはよっぽどマシだったけど、よりにもよって」
「嫉妬?」
「なんだよ」
「べつにー、でもあんたじゃ副団長にはかなわないかもねって」
「はあ? あのぐらいなんてことないだろ、おまえのほうが考えすぎ」
「そーかしら?」
うふふと笑うアイリ、フィトは視線を逸らした。




