日常
(とんでもないことをやらかしてしまいました)
翌朝、私の頭の中は後悔ばかりがうずまいていた。
(背負って帰らせてしまったことを謝ろうと思っていましたのに、それ以上にとんでもないことをやってしまうなんて、うう……)
今度こそきちんと謝罪をと、アルヴァーの執務室前に立ってノックをする。
「モルガナです」
「どうぞ」
朝から書類仕事を片付けていたアルヴァーが顔をあげる。
「あの、すみませんでした、あなたは女性が苦手ですのに、先日の討伐といい、昨夜といい無理をさせてしまって」
「気にしなくていいよ、どうやら君は平気になったようなんだ」
怒られることを覚悟していたのに、反応は想定外。
「どういうことです?」
「どういうことか説明は俺にもできないんだが、君と一緒に戦った日から嫌悪感を感じなくなった、必死だったからかもしれないね」
「迷惑をかけた記憶しかありませんが」
「迷惑だとは思っていない、そういえば……君は昨日なんの夢を見ていたんだ?」
「っ」
寝惚けていたときのことを指摘されて、また顔が熱くなる。
「あれはですね、あれは……」
「……」
「あれは……」
アルヴァーは何も言わずに続きを待っている、青い目がじっとこちらを見ていてより恥ずかしい。
「猫の夢を、みていました」
「……猫か」
(なぜ安心するんです?)
ほっとしたような顔を見て少し不思議に思う。
「君は酔うといつもああなのか?」
「はい、下戸なのでいつも家族やフィトに迷惑をかけてしまって……ですから普段から飲まないようにしているのですが」
「……」
アルヴァーは少し眉を寄せた。
「フィトと君は同期だったね」
「幼馴染なんです、子供の頃からずっと一緒で」
「そうか」
「どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもないよ」
(そうはおっしゃいますが、眉間の皺がひどく……何か気にさわることをしてしまったでしょうか)
しばらく考えても答えは出ず、私は日常の業務に戻った。
□□□
それからしばらくして、アルヴァーは届いた手紙の一通を見て頭を抱えてしまった。
「どうなさったんですか?」
「……あぁ、すまないね、たいしたことでは……あるんだが」
「話せないことであれば無理には聞きませんよ」
「助かるよ」
途方にくれたような顔をしていたアルヴァーがふと私を見る。
「?」
「……いや、だめだ、だが……」
(なぜ私を見て悩まれるのでしょう)
少しして、アルヴァーが口を開いた。
「モルガナ、君は生涯魔術の世界で生きていくのかい?」
「? はい、そのつもりでいますよ」
「もし君の望みが脅かされたらどうする?」
「何か抗えない理由で魔術の道からはずれるということでしょうか」
「ああ」
「……そうですねえ」
私は考える。
「それが人為的なものなら相手にまじないをかけてでもなんとかしますし、それが物理的なことであるなら障害がある上でできることをします」
「……そうか」
なぜかアルヴァーはがっくりと肩を落としてしまった。
(な、なにかまずいことを言ってしまったのでしょうか)




