アウトゥール殿下?
「いた」
タイゼンさんがそう言ったので、私は彼の視線の先を見た。
そこには海を見ている一人の青年がいた。
よく見ると、彼の黒い髪が光りに反射して金色っぽく光っている。なるほど、これが隠しても消せない王族の色なのかと思った。
「殿下」
タイゼンさんが声をかけると、彼は振り返って「やあ」と言った。
「思ったより早かったね」
彼は笑顔だった。
(……追いつかれるのが分かっていても、普通もっと焦ったりしないのかなあ?)
まるでここで待っていたかのようだ。
「グレイスは?」
「術の形跡を辿ってますよ」
「ふうん。じゃあまだ町に入ってないのかな?」
「そろそろ来る頃だと思いますが」
(……アウトゥール殿下って、城から逃げたんじゃなかったっけ?)
それにしては、追っ手が来たというのにずいぶんのんびりしている。
(もう逃げる気ないのかな?)
これじゃまるで追いかけっこだな、と思った。
(毎回捜しに行くグレイス様は大変だなあ)
これからは、自分もその追いかけっこに加わらなきゃならないのかと、私はため息を吐いた。
「ところで、この子は?」
そう言って、殿下が私に視線を向けた。
赤っぽい瞳に見つめられて、私は一気に緊張した。
「グレイスの弟子のリゼですよ」
タイゼンさんに紹介されたので、私も慌てて挨拶した。
「初めまして、リゼです」
「ふうん。グレイスの弟子かあ……可愛いね」
そう言って、殿下はニッコリ微笑んだ。
その笑顔がなぜだか黒いと思った。




