OUT OF THIS WORLD
第2話 OUT OF THIS WORLD
光り輝く照明。
客席はいっぱいらしいけど、後ろのほうは暗くて見えない。
大音量の音楽、今日のショーもいよいよクライマックス。
体にピッタリのピンクのライダースーツにピンクのヘルメット。
舞台上で私の乗ったバイクは格子状のゴンドラにのって、上へとワイヤーで引き上げられていく。
突然、空中でバイクが揺れて、組み立てられたゴンドラが底も含めて開いた。
しかし、そこにバイクはなかった。
私は客席の後ろから花道を舞台までバイクを颯爽と走らせる。
舞台中央でサイドスタンドを立てた後、バイクを降りてヘルメットをとり、頭を左右に振って髪を整える。
拍手の鳴りやまない客席に大きなお辞儀をする。
拍手はいつまでも続く。
一緒にショーを作った出演者、スタッフの笑顔があふれた。
ショーが終わった後、興奮がまだ冷めない楽屋にはいつも通り次々といろいろな人たちが訪れた。
子どもを連れてきたグループが何組かいたので、楽屋で少しマジックを見てもらう。
これは私の趣味。
そう、マジックは仕事というよりも私の趣味?というより生活そのもの、私自身なのだ。
まずはトランプをテーブル上にリボンスプレッドで表面を広げて見せ、3回シャフルした。
私は表面を自分のほうに向けて、2枚のカードを抜きだした。
「トランプには赤いカードと黒いカードかあるの。今からこちらが赤、そしてこちらが黒ね。」
と左右に1枚ずつカードを表向きに置いた。
「今から1枚ずつトランプを裏向きに見せるから、赤だと思ったら『赤』、黒だと思ったら『黒』って言ってね。」
と言って、裏向きのカードを一人の女の子に示した。
「あか!!」
ちょっぴりおしゃれをした10歳くらいの女の子が私の目をじっと見つめて大きな声で言った。
そのカードを最初に表向きに置いた赤いカードの上に裏向きに置く。
そして、それを5回くらい繰り返した後、
「まずは10枚配るから赤と黒は半分ずつなんだから5枚ずつにしてね。」
と私は微調整。5枚ずつ配られたところで、残りのトランプの中からまた2枚のカードを出して、
「今度はこちらが黒、そしてこちらが赤ね。」
そうして、5枚ずつの裏向きのカードの上に表向きで先ほどまでとは反対の色のカードをのせた。
そして同じことを繰り返して、5枚ずつの裏向きのカードをのせた。
「さぁ、見てみましょ。」
私は子どもたちとチェックをした。
すべてのカードが一致していた。
赤の上のカードはすべて赤だし、黒の上のカードはすべて黒だった。
そして、残りのカードを表向きに広げると先ほどはバラバラに混ざっていたのにきれいに赤と黒に分かれていた。
子どもたちの唖然とした顔がちょっとかわいらしかった。
あ、大人もみんな驚いてたけどね。
うん、今日も元気に家に帰れそう。
父が突然、失踪して3年。
何とか私をメインにしたショーが出来上がってきた。
父と2人のショーが当たり前だった私は、父がいないという事実を受け入れるのに時間がかかった。
昔からの友人たちが協力してくれなかったら、私は立ち直れていなかっただろう。
いつも通り、自宅の地下室で道具の点検をしつつ、私は父のことを考えて、思わず言葉が出た。
「パパ、どこ行っちゃったんだろう。」
物心ついた頃にはマジックの道具を持って、舞台に立っていた。
赤ん坊の頃にトランプを持たされている写真がいっぱいあるし、手品をしている動画もたくさん。
父はマジックをすることも文献を読んで研究することも…ただただマジックが好きだった。
見た目は怖そうだけど…。
私を本当に大切に大切に育ててくれた。
母が私を産んですぐに亡くなってしまったため、父は母の役割もしようと、料理や裁縫など家事をすべてしていた。
もともとマジックの道具も当たり前のように作っていた父には家事などは楽勝だったのかもしれないが、私は父を心から尊敬していた。
毎日たくさん話していたし、隠しごとなんて何もないと思っていた。そんな父が突然いなくなった。
何の前触れもなく…。
父が建てたこの家もマジックのためのような家だ。
1階と2階はゲストを迎えてゆっくりできる空間。
そして、マジックの空間は地下に作っていた。
コンクリート打ちっぱなしの地下。
「がはは、要塞みたいだろ。」
父は楽しそうに話していた。
ステージの練習はすべてここでしていたし、道具の製作、修理もここでしていた。
父と私の部屋は当然のようにマジックの道具だらけのこの地下2階にあった。
普段はエレベーターで出入りしているが、無駄に深い。
階段で降りると結構疲れる。
エレベーターは道具の搬出搬入もあるので家庭に設置するとは思えない大きなものだ。
地下1階はステージの道具、大道具いわゆるイリュージョンの道具。
それらがすべてここに置いてある。
練習もできるよう一つの壁面は鏡張りだ。
マジックの道具は黒を基調にしたものが多いが、父は私が使うのだからとすべての道具を華やかな色にしてくれていた。
二人でいるときは感じなかったが、一人だとこの空間は広すぎて、少し冷たくて、そしてとてもとてもさみしい。
で、今からは新しい道具の点検。
点検はいつも地下3階でしている。
ここの存在は父と私、そして、建築に携わった父の友人たちしか知らないし、エレベーターも特殊な操作をしないとここまで降りない。
ここは静かで本当に落ち着く空間。
ここで今や日本でトップクラスの科学者であるはずの裕君、いや、40近いオジサンに君づけはどうなんだと思うけど、父の昔からの友人で父がそう呼んでいたから私も「裕君、裕君」と呼んでいた裕君が作った新作を今からチェックするのだ。
まずは仕様書とにらめっこ。
うん、いつもながら本気だ。
これって、裕君にとっては趣味なんだよね。
趣味とは思えないんだけど…。
でも、マジシャンの物作りはみんな本気だからね。
あれ?でも、裕君今は科学者なんだよね。
「マジックは趣味」って、本人も言ってたし…。
でも、趣味のほうが本気になる人もいるし…。
裕君、仕事してるのかなぁ?
仕様書を見てから、箱を開いて中をチェック。
マジックの道具は棺桶みたいな箱が多い。
特にこれはまだ色を塗ってないから黒色。
うーん、どう見ても怪しい棺桶。
さて、棺桶に入って横になって蓋を閉めて…。
ガタン、ウィーン。
何かの音が聞こえて、箱が固定された感じ。
あれっ、大丈夫?蓋開くよね。
私は蓋を押してみた。
でも、まったく動かない。
真っ暗。
どうしよう。初めてでもない、この経験。
いままで、こんなことは何度もあった。
まだ、大丈夫。
焦ることなくあちこちを探ってみた。
何もない。
うん、まだ、大丈夫。
外部の連絡手段は…、えーと、何もない。
そろそろ、ドキドキしてきた。
これは本気でマズい。
誰にも気づかれないでミイラになって発見され…。
イヤー、どうしよう。
17歳の私はマジックに没頭しすぎて、普通の同年代の子たちが楽しむようなことをまだ何もしてないような気がする。
いや、絶対にしてないことがたくさんある。
恋愛もまだ未経験。
ミイラになった私を好きになってくれる人は…。
ダメー、どんどん変なこと考えていきそう。
どうしよう。
どうしよう。
なぜか突然、睡魔が襲ってきた。
こんな状態で…。
なんで…。
そうして、私の意識は深い闇へと沈んでいった。
マジック部分の描写が細かすぎる?
いろいろ試していきましょう。




