マジシャンはマジシャンを演じる俳優よ
空には少し小さめのワイバーンが舞い、前方にはゴブリンが群れをなしている。
その後ろには上位種も散見される。対峙する冒険者たちの後方でマジシャン(魔法使い)たちは詠唱を始める。
浮き上がる魔法陣。
「打てーい!!」
そう、ここは剣と魔法の異世界。
今日も冒険者たちの戦いが始まる。
少し固めのマットが敷きつめられたテーブル上で横向きに置いたトランプの半分を右側に置く。
当然、26枚ずつ。
キレイにそろっていることを指先で感じつつ26枚ずつのカードの手前を少し持ち上げ、左右から押しつける。
見ているのは一番下のカードだ。左右の一番下のカードをぴったり合わせるのではなくカードの厚み半分だけずらす。
右手側を半枚分ほど上にずらすのは私の癖だ。
1枚目が入れば後は流れるように1枚ずつカードが入っていく。
そしてトランプをそろえる。
これを8回繰り返す。
テーブル上にトランプをリボンスプレッドつまりキレイに広げて確認する。
火の1から10、そしてナイト・クイーン・キング、水の1から10、そしてナイト・クイーン・キング、風の1から10、そしてナイト・クイーン・キング、土の1から10,そしてナイト・クイーン・キング。
脇にのけていたマジシャンのカード2枚を加えて54枚。
私はこの魔法にあふれた異世界に転生してしまったマジシャン(手品師)。
もう、どれほど時間が過ぎただろう。今日も私の練習は続く。
「ミィ様、少しよろしいですか。今日もお美しい。そのしなやかな指先で踊っているカードたちが羨ましいですわ。」
私の世話役のメーサ。
スーツを着ているが、そのスタイルの良さは明らか。
美しい金色の髪を後ろにまとめ、その整った顔には誰もが見とれてしまう。
印象的な深い青い目、大きな耳。
彼女はアード族。
美しい一族の族長の娘。
私にはエルフにしか見えないんだけど…。
「お世辞はいいわ、メーサ。何かトラブル?」
「はい、17番テーブルのお客さまが…」
「はぁー、また負けが続いて怒っているお客さまがいるの? 毎回そんなお客さまを私に…」
「いえ、逆でして…」
「え?」
「勝ち続けているんです。不自然なほど。」
「…」
「あの…、ミィ様…」
「で? 私に見に行け、と?」
「い、いえ、け、決してそのようなこと…。あ!!」
私がさっさとドアに向かっていくと、メーサは慌てて私のためにドアを開けて、17番テーブルに向かう私の後ろについてくる。フロアの中央の螺旋階段から2階に降りて、私は1階が見渡せる廊下の手すりから1階を見下ろし、問題の17番テーブルに目を向ける。勝ち続けるものがいるという噂が広がったのか、周りには人だかりができている。その中央で目つきの悪いローブをまとった男が3つのカップの動きを見つめている。ディーラーがカップの動きを止めたところで男はためらわずに一つのカップにチップを積み上げた。カップがオープンされると男が選んだカップにボールがあった。
「ふふっ。」
私は思わず吹き出す。
「ミィ様?? まさか! もう何かわかったのですか?」
私はメーサのほうに向かってちょっぴり不機嫌そうに頬を膨らませた。
「メーサ。私、前からずっと言ってるわよね。不自然な動き、余分な動きには注意をしてって。」
「え、えぇ。ですが、あのお客さまに不自然な動きなど…。」
「ダメね、メーサ。あのお客さまのテーブルの上の左手に注目!」
話しているうちにまた、勝負が始まっていた。カップの動きが止まったところで、男の左手の薬指が不自然に引っ張られるようにピクリと動いた。
「えっ?? ミィ様?」
「彼、真ん中のカップに賭けるわよ。」
男が真ん中のカップにチップを積み上げる。カップがオープンされ、彼はまた大量のチップを得た。
「メーサ、下に降りるわよ。」
「は、はい。」
階段を降りて、私はまっすぐ17番テーブルに向かった。
次の勝負が始まろうとしていたが、私はディーラーに少し待つように合図を送った。
「お客さま、ディーラーを交代しますわね。」
「いいだろう。」
男は値踏みをするかのように私の体をいやらしい目で見たあと了承した。
17歳の私がどのように見えているのか。
今日の服装は露出度高めのドレスではあるけど…。
それとも、黒髪、黒目の私の見た目が珍しいのか。
私は3つのカップを取り上げて、その場で優雅に1回転。
ドレスがふわりと舞う。
元通り正面に向いたところで、改めて3つのカップのうちの1つにボールを入れて、数回だけ位置を入れ替えた。
「さて、お客さま、どのカップに賭けられますか?
わたくしのような若いディーラーではあまりにも簡単な賭けとなりましょうが…。」
男は少し震える手で少額のチップを10枚だけ1つのカップの前に置いた。
私は、
「あら、わたくしのような若い娘に慎重になるなんて…。
ふ、ふ、思った以上に小心者ですのね。」
と言って、クスリと笑った。
「お客さま、ミリオンアイ・スパイダーが袖口からこぼれ落ちましたわよ。
その糸に無数の目を持つそうですわね。
なぜ、その糸がこのカップに?」
微笑みながら尋ねると、一瞬袖口を見た後、素早く立ち上がって私につかみかかろうとした。
しかし、男の手が私に届くことはなかった。
横にひかえていたメーサが男の手をつかみ、関節技をきめていた。
メーサが男を床に押さえ込むとスタッフ達が手際よく男を連れていった。
男は私に怒りの目を向け、激しく罵った。
いつもの光景。
スタッフ達は本当に優秀だ。
周りにいた人たちも自分たちの遊びに戻っていく。
さて、そのあと、3階の自室のベッドの上。
「ゔっ、ぐっ、ごわかったよー、メーサ。
あの男の目、見た? 殺されるかと思ったよー。
ゔぅ、なんで、自分が悪いことしてるのに私に襲いかかってくるの?
ひっ、え、私、漏らしてないよね。
大丈夫?
もう、やだー。
なんなのよー。」
メーサは私を抱いていつも通り時々ハンカチで私の目をぬぐってくれた。
彼女は強くて、そして優しい。
「ミィ様、大丈夫ですわ。
いつも私がついていますから。
何も恐れることはありませんわ。」
砂漠の真ん中にある大きな建造物アスカニオン。
この中にはカジノ、劇場、レストラン、バー など等、冒険者たちが楽しめる施設が集まって、まるで一つの都市のようになっている。
そして、なぜか私はその頂点。
夜はこれから。
今日も素敵なショーが始まる。
なんとなく
ついに
投稿してみました。
どうなることやら。
長く続けばいいのですが…




