第48話 ユリエラ、つつかれてサイレンを鳴らす
ことり――
わたしとイレーネの前に、ホットココアの入った素焼きのマグカップが置かれた。
ココアを差し出してくれたのは、自動人形のキュイ。
彼は人形だけれど、料理のスキルを習得していた。
手品師のように調理器具を「魔法のハンカチ」の裏から取り出して、色々とクッキングしてくれる。
「我が君。そしてフレンズイレーネ。
ココアは少し、甘みを強くしてあります。
討伐後の疲労したボディに、優しく吸収されるでしょう」
「ありがとう、キュイ」
「ありがとうございます、キュイさん」
ホットココアを一口啜ると、口の中いっぱいに甘味が広がって、甘くてビターな香りが鼻からふわんと抜けていく。
「おいし~」
「ああ……いきかえります~」
じわじわと沁みる甘みと温かさに、体が蕩けて、わたしとイレーネは通路の壁に寄りかかった。
ここはまだ、地下10階の出入口のある通路。
わたしたちは中ボスを撃破しまくった後、通路に座って一休みしていた。
わたしがウマウマ言ってココアを飲んでいると、イレーネが背筋を伸ばして、マグカップを膝に置く。
「ユリエラさん、そしてオートマタの皆さん。
今日は私のために、本当にありがとうございました。
お陰で中ボスを倒せるまで、成長できました。
まだまだ未熟な私ですが、これからもご協力よろしくお願いします」
深々と頭を下げるイレーネに、わたしは頬を赤らめてわちゃわちゃする。
「何ですか、急に畏まって今さら!?
わたしが協力したくて、やってるんですからっ」
「ユリエラさん、こう言う事は区切り区切りにしっかり感謝しないと、バチが当たります。
だって、本当に有難いんですもん」ぺこり
「んもう」
わたしはマジ感謝されて、何だか恥ずかしくなる。
恥ずかしいからマグカップで顔を隠していると、
アグリ、シャサール、ペシャール、キュイの4人が、下げられたイレーネの頭に一言ずつ声をかけていった。
「フレンズイレーネ。
悪魔魔法を使う我が君は、こんなものじゃないぞ」
「そうだフレンズイレーネ。
我が君の足を引っ張らぬよう、しっかり励め」
「フレンズイレーネ。
だがまあ、フレンズの頑張りを、私たちは称賛しないこともない」
「フレンズイレーネ。
小腹は空いていないか? 何か調理してやるぞ、イヤだけど」
何でそんな上から目線!?
わたしの事を持ち上げながら、イレーネを擦る乱暴な言い様に、わたしが慌てた。
「ちょっと!」
そんな慌てるわたしの横で、イレーネがニコニコして顔を上げる。
何だかとっても嬉しそうだった。なんで?
「ふふふ……じゃあ倉庫で作ってくれた、ポークビーンズをお願いします」
「しばし待て。我が君もいかがですか?」
「え? あ、お願い」
「畏まりました」
キュイが手品師のように、魔法のハンカチから調理器具と食材を取り出す。
ポークビーンズが出来上がるまでの間、ココアを啜っていると、イレーネがふと思い出したように言った。
「倉庫と言えばユリエラさん。
私を港で助けてくれるために、大きなタコを出してくれたじゃないですか。
私は樽の中で見れなかったんですけど」
「あれはタコじゃなくて、イカね。
深遠なる闇って言うんだけど」
「そうそうそれです、そのイカ。
それをですね、何だか街の偉い人たちが、あれは〈魔族〉の襲撃だと考えているそうです」
「え?」
「これはアルヴィン様たちから、聞いた話なんですけど……
偉い人たちは、あれは魔族が様子見でつついて、人間側がどう反応するか、試したんだと考えているらしいです」
「そうなの?」
魔族の襲撃。確かに間違ってない。
わたしは魔族と繋がっているし、悪魔魔法で召喚したクラーケニアは魔物だし。
だけど――
「人間側がどう反応するか試したって、どういうこと?」
「えっとアルヴィン様たち、何て言っていたかなあ。
例えばですね。
私がユリエラさんを、ちょっとつついたとするでしょう?
ここでユリエラさんが何の反応もしなかったら、またちょっとつつくんです。
そうやって反応するまでつついて、その間のユリエラさんの出方とか、防御の仕方を観察するんですよ」
「観察してどうするの?」
「じっくり出方を見て、相手の防御のクセとか見抜くんです。
すると本気の戦争を仕掛けたときに、有利になるからです」
「本気の戦争!?」
「これの利点はもう一つあって……
私がユリエラさんを、またつつくでしょ?
そうしたらユリエラさんは、またかーって感じて、あんまり反応しなくなっちゃうんですよ。
その心のスキを利用して、また軽くつつくと見せかけて、顔面に思い切りパンチをするんですよ。
ユリエラさんは、このパンチを絶対避けられません。
直前まで〈またかー〉って思って、気を抜いてますから。
これを、国VS国のレベルでやるんです」
「何それっ!?」
「だから、アルヴィン様たち言ってました。
つつかれた時は最初が肝心だって。
もう2度とつつく気を起こさせないために、ガツンとした態度を見せるんだって」
「ガツンとした態度って……」
「こっちの力を見せつけたりとか、つつき返したりとかするって言ってました」
「つつき返す……
ちょっと待って、あれは魔族と関係ないのっ。
あれは、わたしの召喚獣なの。
ただ港の人を驚かして、イレーネさんの入っている樽を、探すためにやっただけだから!」
「そうなんですよね……そうなんですけど……」
「うっく」
何かすっごい嫌な感じがする。
何がどうってまだ分からないけれど、わたしの感が警報を鳴らしてる。
キュイが「ポークビーンズ」を作ってくれたのに、わたしは自分のサイレンに気をとられて、食べててちっとも味がしなかった。
せっかく作ってくれたのに、ごめんねキュイ.




