27 俺氏、リツカと話し合いを振り返る
二人家に帰るとオカンが晩飯作っていた。
「ただいま」
「ああ、おかえり。二人一緒だったのね」
「駅前の喫茶店で来島ファミリーと会ってきた」
「え?」と驚いて振り返るお母様。
「そうだったの。夜お父さんとゆっくり話聞かせてもらうわね」
「わかった」「ウーッス」
口々に答えて二人で階段を上がってゆく。
舞の部屋の前で抱きしめたくなったが、ぐっとこらえて礼を言うにとどめた。
「今日はありがとな。居てくれて心強かったし、弁護士の反撃を封じてくれて助かった」
舞は振り向いた。表情はやわらかい。
「私、役に立った?」
「ああ、借り二つだな」
「兄貴」
「ん?」
次の言葉を待っていたが、「……何でもない」とだけ言って部屋に入っていった。
くっそー、キスしたかった。一つ屋根の下やのに、なかなかできないもんやね。
自室、スマホ開始。
リツカ、マユ、マイの順で行こう。
ライムとスマホゲーム「タリタ・クミ」を開く。
リツカはライムでのやり取りをオヤジ殿に検閲されてるから本音で話せない。そこで「タリタ・クミ(少女よ、立て)」のメール機能を秘密通信に使うことにしたわけだね。
タリタ・クミのメールボックスに着信があった。
『こちらは祝杯ムード。天羽弁護士へのお礼もそこそこに、例の警察署長や民自党関係者に電話をかけまくってるわ。私もありがたいお言葉をいただいたわ「わかってるな、どんなことしてでも現役合格しろ」だって』
『www勉強以外の方法で合格したらダメじゃないですかwww』
『国会議員になって裏口入学の口利きしてくれたらいいのに。政治家子弟枠あるのか知らないけど』
『リツカさん、さすが。受かる自信満々やね』
『そうでなかったらこんな軽口叩けないわ』
『それにしてもオヤジ殿、陽キャやなぁ。自分はどこからきてどこへ行くのか? とか哲学的に悩んだことなんて無いんやろうなぁ』
『そんなの私だってないわよ。健人くんはあるの?』
『そんなもんあるわけないwww』
『私もwww使ってみようかな』
『使ったことないの? 友達とライムやってるんだろ?』
『ライムはやってるけど、wwwは使ったことない』
『俺思うんだけどね、wwwを使えない人間に検事は務まらないと思うんだ』
『わかったわ。あなたを逮捕しますw』
『罪を認めますww』
『無期懲役を求刑しますwww』
『罪認めたのに量刑重すぎwwww』
『罪認めたから軽くしたのよwwwww』
『否認してたら死刑だったのかよw』
『うん、マスターした。他の人にも使ってみよう』
『姐さん、真面目キャラで通ってるなら、www使う旨を告げてからの方がいいかもな』
『そうね、いきなり使ったらアカウント乗っ取られたんじゃないかと心配されそう』
『そんなに真面目キャラなのかw まぁ、そうか。初めて会った時、良く言えば近寄りがたい高嶺の花、悪く言えば融通利かない系真面目キャラに見えたからな。花でたとえると勿忘草』
『ワスレナグサ、悲恋物語の花だっけ』
『そうそう、流れの激しい川辺に生えていて、恋人のために摘み取ろうとした騎士が流されて死んだって悲劇の花なんですよ』
『花言葉が不吉なものだったら死刑求刑』
『高嶺の花、憧れの人。いいでしょ? ぴったりやないですか』
『じゃあ今は?』
『なんやろ? 仲良くなった後はクリスマスローズって感じ?』
『クリスマスローズ?』
『いろんな色の花びらがあってキレイなんやけど、実は花びらではなく全部「がく」っていう不思議な花。「がく」って花びらと違って散らないだろ? 学が落ちないってことで受験生に人気があるんですよ』
『それは知らなかったわ』
『そりゃ中高一貫超名門校の優等生には縁のない話ですよ。去年高校受験の時ウチのオカンが買ってきましてね、その時に花のうんちくいっぱい聞かされたんです。で、あろうことか夏に枯らしよって縁起悪すぎて草も生えなかった思い出』
『www なるほど、学が落ちる前に枯れちゃったのねwww』
『今年舞が受験やけど絶対に買わさへん怒怒怒』
『クリスマスローズの花言葉は? 不吉なものだったら死刑求刑』
『ググったら「私の不安を取り除いて」「私を忘れないで」「慰め」だって』
『ふーん、結構いいじゃない』
『「中傷」ってのもあってちょっと笑える』
『まぁ、それくらいはいいでしょう』
『父の話に戻るけど、ちょっと浮かれすぎなのか気がかりね。正式に示談がまとまったわけじゃないのに。健人君がしっかりしてるから鷹城さん方面は解決したと思い込んでるのね』
『しっかりしてるなんて生まれて初めて言われたわー。今度直接声に出して言ってください』
『wwwそれも示談条件?』
『はい、男子たるものいつだってキレーなオネーサンに褒められたいんです』
『妹さんは褒めてくれないの? すごく信頼されてると感じたけど?』
!? す、鋭い! ボロを出さないよう気をつけないとな。
『最近褒めてくれるようになった気がする』
『たとえば今日も?』
『今日は俺じゃなく舞を褒めてやりたい。天羽センセを封じてくれたMVPだ』
『妹さんが私のために父を説得してくれるとは思わなかったわ。ありがとうって感謝を伝えておいてください』
『桶』
リツカとはこんな感じかな。
『これからマユ、里見麻由美と話をするわ。俺たち鷹城だけと示談しても片手落ちになるからな』
『お願いします。ライムの私のお礼メッセージにも何か返事をお願い。父が読むだろうから』
『わかった。そちらもマユ方面で進展あれば教えてくれ』
『桶』
リツカとの交信を終え、同じくライムでマユにメッセージを送る。
『こんにちは、話できるか?』
『こんちゃーす。桶ですよ』
『今日示談の話し合いをした。こっちは俺と舞、あっては間男パパと間男妹、弁護士』
『間男パパというパワーワード。舞も参加したんだね』
卑劣な性犯罪の被害者なんやけど、のほほんとしてるよなぁ。
『実際に示談するのは親だけど、俺たちの要求を直接相手に伝えたかった』
『私も参加できたら良かったんだけど』
下着姿にされてたからな。そんな目に遭ったヤツを連れて行けるわけないやろ。
『要求は三つだ。1、間男国外追放。お前や舞が成人するまで5、6年日本に帰って来ないこと。②間男妹への経済DVをやめさせる。③加害者として俺の治療費を払ってもらう』
『②の経済DVって何?』
『間男にも妹がいて高2なんだ。東大に行きたがってるけど父親から愛されてない感じなんだよな』
『なるほど、よその家の妹ちゃんにも手を出しちゃうワケですな。舞泣かせたらコロシますよ!』
『ちがうwww 間男パパのことを嫌ってそうだったから相互援助同盟を結んだんだ。お前との変愛同盟と一緒だ』
『字! 「変な愛」になってる! マジコロス~ww』
『よく気づいたな。マユとは恋愛同盟、そいつとは友敵同盟という名前だ』
『いろいろやってんだねぇ』
『あくまで軍事同盟だからな。くれぐれも舞に変なこと言うなよ?』
『変なこと? ひょっとして間男の妹さん、かわいい子なの?』
『女の子はみんなかわいいんだよ』
『もうその返事が答えじゃないですかwww 写メあるの?』
『ない。嘘じゃなくマジで』
『ふーん、わかった。どういう人なのか舞に聞いてみる』
『くれぐれも変なこと言うなよ? 今あいつとはとてもイイ感じなんですよ』
『どうかな~、変愛同盟だしな~』
『わかった、すみません。俺達は恋愛同盟の同志です』
『わかればよろしい』
『ちなみにマユさん、おじさんいつ帰国すんの?』
『1週間後。さびしいから二人でお泊りに来てよ。
『そうだな、おじさんにも示談の聞いてもらいたいしな。泊まりの件、舞にも言っとくわー』
『私からも頼んどこ』
『じゃあ』
『おつ~』
ライムを切ってシャベルを立ち上げる。マイにも報告しないとな。
とその時電話の着信音。ディスプレイには「来島律花」。何じゃらほい?
電話に出ると『健人くん!』とリツカの切迫した声。
『兄が病院から逃げ出したの!』
俺は絶句した。




