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25 友敵同盟、うごめく

 リツカと別れ、家路を急ぐ。

 途中スマホが鳴ったのでチャリを止めた。チャリ、道交法違反を大量生産してて草も生えないよな。


 シャベルの着信音だったのマイからだろう。

『全世界の妹を代表してお答えします。妹さんは兄さんのこと信じてますよ。ただ、どうしても落ち込んでしまうんですよ。その他校女子ってすごいハイスベ女子なんですよね? その人と比べて自分が兄さんの役に立ってないなぁ、不甲斐ないなぁ、とか思ってしまうんですよ』


 ああそうか、マイは舞の気持ちに寄せた返事をくれたんだな。今晩は俺の退院祝いで回らない寿司に連れてってくれる予定なので、今返事しておかないとかなり遅れてしまう。

『返事ありがとな。そのハイスベ女子は俺にとって良い取引相手って感じなんだよな。そいつは俺に欠けているものをくれるし、俺はそいつに足りないものを提供できる。俺、妹、ハイスベ女子でテーブルにつくとするだろ? ハイスベ女子は向かい側に座る相手で、隣に座ってほしいのは妹なんだよ。わかる? ナイーブな男心』


 書いてから間髪入れず次の文章を打ち込む。

『スマヌ、急いで帰る。また話そう』

 そんだけ書き送るとスマホをしまい、はやる気持ちを胸に帰路を急いだのだった。


 

玄関ドアを開けると視線を床に向ける。舞の靴があった。今日は俺の退院ってことで部活を早退するって言ってたんだ。帰りを急いだ理由はここにある。イチャコラしたいじゃないですか。

 来島ファミリーと天羽弁護士の録音データを聞かせる? あー、あったね、そういうの。まぁ、うん、あったね、確かに。


 手洗いうがいしを済ませてリビングに入るとジャージ姿の舞がソファに寝転がってスマホを見つめていた。イヤホンで何かを聴いている。

「ただいま」

「おかえり」

 イヤホンつけてても聞こえたらしい。ちゃんと返事が返ってきた。舞がいる家に帰って来たんだと実感する。

 カバンを置いてソファの前に腰を下ろした。

「何聴いてんの?」

「サンホラ」

「ああ、サンホラ聴くんだな。古いやつメッチャ好きだわー」

「聴く?」

 イヤホンを一つこちらに差し出してきた。いい雰囲気やん。もちろん受け取る。


 耳につけたら流れてきたのは「Ark」。妹ちゃんが大好きなお兄様のことをナイフで刺し殺す内容なんですけどその辺大丈夫そ?

「本当にいい曲。何千回でも聴いていられる」

 ふーん、何千回もね、ふーん。いや、歌をdisってるワケじゃないんスよ? くどくなるけど、お兄様ラブな妹ちゃんがお兄様を刺殺する歌ということなんですよ。


 イヤホンで同時拝聴してるとさ、自然と頭を寄せ合い、肩が触れ合い……って感じになる。いいよね、付き合ってる感がして。聴いてるのはサツジン事件の歌なんスけど。


「ねぇ、来島さんとの話、どうだったの?」

 何回目からのリピートプレイの最中に舞が聞いてきた。

「ああ、そうだな」

 今度は俺がスマホとイヤホンを取り出し片側を舞に渡した。早速再生開始。


 音声データ内容はご存知の通りだ(24話参照)


『……精神困憊させて自白を取るためだ。耐えられそうかね?……』

 元特捜検事が赤裸々に語る人質司法の真実、マジ笑える。


 舞は気難しそうに眉根を寄せて聞き入っている。天羽弁護士が示談を勧めたくだりで舞はこっちを見た。

 そう、間男サイドは示談を望んでいる。


『……何としてでも示談を成立させる。いいな、これは厳命だ!……』

 間男パパの力強い宣言で音声は終わった。


「間男サイドは示談する気満々だろ? これは俺たちにとって好都合だ」

「話し合いは大人同士でするんでしょ?」

「最終的にはな。でも途中で俺たちはやれることはあるだろう。間男の海外追放とリツカの進学支援を約束させる。特に俺は、間男サイドにとって『宥めなければならない存在』なわけだ。俺の要求を無下にはできないはずだ」

「大人同士の交渉に子供の要求を通すチャンスだと兄貴は思ってるわけだね?」

「大人同士でやらせたら俺たちの思いは置き去りにされるからな」

 

俺の言葉になぜか舞は笑った。

「なんだかもっともらしいこと言ってるけど、本当はこの状況が楽しくてしょうがないだけでしょ?」

 

 この言葉にはドキッとした。そうか、そうだな。今まで気づかなかった。俺はこの問題への対処を楽しんでいるのか……

「言われて気づいたわー。そうか、俺は楽しんでるんだな」

 さすが俺の妹は兄の心を分析させても世界一。


「わかってなかったの? ここ最近、この問題を話してる時の顔って、ゲームを楽しんでる時の顔だったよ?」

「マジか。顔に出るってのは良くないな」

「どうだろ? 兄貴は感情殺して話すより、楽しそうに喋る方がお似合いなんじゃない?」

「クールキャラにはなれないか?」

「うーん、厳しいかな」

「流川路線でいこうかと思ってるんやけど」

「うーん、厳しいかな」

「流川がダメなら兵長路線でいこうかな」

「うーん、厳しいかな」

「そうか、厳しいか…」

 そこで視線をあわせて二人して笑い合う。

「もし間男親父と話し合いの場が持てたら一緒に来てくれないか?」

 舞は引退時期が迫っているので部活が忙しい。それはわかってるんだけどこれは俺のわがままだ」

「うん、わかった」

 口元に微笑みを浮かべて舞は頷いた。




 夜、回らない回転寿司(怒)で退院祝いをしてもらって、今は自宅の自分の部屋だ。舞とイチャコラしたいけど、親がいるから無理だ。オヤジは出張多めだし、オカンは夜勤のある仕事に就いているからイチャイチャするチャンスはたくさんある。


チャンスはいくらでもあるんだけど……舞は受験勉強すると言ってさっさと自室に引きこもってしまった。もっと別れを惜しんでほしいのも俺のわがままだ。


寂寥感に浸りつつライムを立ち上げる。リツカからDMが来ていた。シャベルも立ち上げるとマイから返信が来ているようだ。

緊急度が高いのはリツカだな。スマホゲーム「タリタ・クミ」を並行して起動させる。


 リリカとのSNSについて整理すると、


 ライム:間男パパに読まれる前提の内容をやり取りする。

 タリタ・クミ:ゲームのメール機能を利用してウラの本音トークをやり取りする。


 というわけでライムからつけてみる。

『リツカさん、そちらは示談に興味あるんですか?』みたいなことを書いたんだったな。


 そしてリツカのリプ。

『ご退院おめでとうございます。そして示談のお問合せありがとうございます。ぜひとも示談をご検討いただきたいです。どのような条件をご希望されているかお聞かせください。でいる限り速やかに対応いたします。これは私だけでなく父の意思でもあります。お父様、お母様にお伝えください』

 

 さりげなくパパを差し込んできたな。釣り針はしっかり間男パパにかかってるんだろう。


 スマホゲー「タリタ・クミ」を開いてメールボックスを確認する。

『ライムの内容は父の検閲を受けてるの。重要事項についてはこちらの返事、対応が遅れがちになると思ってほしい』

 返事一つ書くにも間男パパの全面監修が入るわけだから時間はかかるやろうね。

『了解。さっき親と示談の話をした。一刻も早く元の平穏な生活に戻りたい。警察沙汰とか裁判沙汰とかにならないようにしてほしいと頼んどいた』


 すぐに返事が来た。

『ありがとう。こちらから追加情報。父が天羽と電話で話してるのを立ち聞きした。警察署長と父が仲良いらしくて今回のことを相談したらしい。署長は助力はできないと断ってきたんだけど、独り言を言ったんだって。『被害届さえなければ警察も暇になるのにな』』

『友に持つなら警察署長って感じだな。将来俺がご厄介になった際はリツカ検事、いろいろ頼みますよ』

『いいわよ、死刑を求刑してあげる』

『冗談キツイっすわ、リツカ姐さん!』

 ちょっと笑ってしもうたよ。


『俺が親に頼んだ示談条件は三つ。間男の国外追放とリツカの進学をちゃんと援助すること。それとなにがしかのカネだな。カネを払う方が加害者、受け取る方が被害者、この関係をはっきり文書に残すこと』

『私のことまで考えてくれてありがとう』

『本当にマジ心配してるんよ。俺に娘がいたとして、東大行くって言ったら一家総出で応援するけどなぁ』

『フツーはね。私もそう思う』

『間男の海外追放、できそうか?』

『大丈夫じゃないかな。問題起こした芸能人がほとぼりが冷めるまで国を離れるってよく聞く話だものね』

『ウチの妹とマユ、里見真由美が成人を迎えるまで5、6年は外国にいてほしいんやが』

『ライムに書いてくれる?』

『桶』

『桶?』

『O.K.→オーケー→桶』

『桶』

『今からライムにリプ送る』

『桶』


 というわけでライム。

『俺たちは一刻も早く平穏な生活に戻りたいだけなんです。そのために来島さんたちに考えてtほしいことがあります』

『おっしゃってください』

『来島爽さんが近くにいるかぎり平穏な日常は戻ってきません。俺も妹も里見さんも怯えながら暮らすしかありません』

『兄に遠くへ引っ越せとおっしゃりたいのですか?』

『はい。本音をいうと5、6年は国外に出て行ってほしい。ウチの妹や里見さんが成人するまでは帰ってきてほしくありません』

『ご希望はうかがいました。責任を持って父に伝えます。他になにかありますか?』

『これは律花さんへのお願いになるのですが、いいですか?』

『なんでもおっしゃってください。ご希望に添えるようできる限り努めます』

『東大模試A判定って本当ですか?』

『東大模試ではなくて俊秀台予備校の高1全国模試の東大文一がA判定だったということです』

『東大に受かったら俺と妹の受験指導をお願いしたいのですが』


 これってかなり無理があるやり取りだろ? でも間男パパに言うこと聞かせるにはこれしかないと思うんですよ。


『それが示談の条件ですか?』 

『はい。入院中、俺の世話を言いつけられて勉強できなかったでしょう?』

『父は健人さんのことを心の底から心配していたのです。私も同じ気持ちでした。だからお気になさらないでください。勉強する習慣がついているので何の問題もありませんでした』


 経済DV父ちゃんをヨイショするリツカ姐さんカッコイイ。

 ちょっと間男パパのことを突ついておくよ。

『そうですか。なんとなく来島さんが律花さんのことを軽く見ているというか、思いやりに欠けているような印象を受けたものですから』

 こんなこと書くとリツカが父親に八つ当たりされるかもしれないが、必要な攻撃だと思う。


『そんなことありません。公人としての父は厳しい人ですが、家庭人としては不器用ながらも家族を大切に思ってくれる優しい人なんです』


 ぶはははは! 思わず噴き出してしもうたよ。

 

タリタ・クミを開く。

『リツカ姐さん冗談キツイっすわー! 親父みたいな悪徳政治家をブタ箱にぶち込むのが夢って言ってたやないですか』

『自分で書いて鳥肌が立ったわ。変なこと書かせないでよ』

『ああ言われたらオヤジ擁護するしかないもんね。おもろかった。ライムに戻るわー』

『桶』

 リツカさん、桶お気に入りやね。



 再びライム。

『最後に俺の治療費を払ってほしいです。この三つを約束してくれたら被害届は取り下げます。被害届取り下げの話は既に親とも話し合ってます』

『ご両親はどうおっしゃっているのですか?』

『俺の意向を尊重してくれています』

『わかりました。とにかく父にそう伝えます』

『よろしくお願いします』

 通話終了。いい感じじゃね?




次にシャベルを起動する。マイとDMをするためだ。

『おるかね?』

『はい、おります』

 マイから即返ってきた。

『マジでおったw』

『回らないお寿司はどうでした?』

『へぇ、そういう質問するんスね。回転寿司って、名前のわりに回ってないやん?』

『たしかに』

『今日、妹、俺、オフクロ、オヤジの順に家に帰って来たんですけどね、オヤジ、『お前の元気な顔を見たら回らない寿司じゃなく回ってない回転寿司に連れて行きたくなった』とかぬかしよってね』

『www』

『退院したのが俺じゃなく妹やったら?と聞いたら、回らない寿司一択やったと』

『www愛されてますね、妹さん』


『コウノトリの親鳥って育ちの悪い雛鳥に餌をやらず巣から突き落とすんですよ。知ってました? 俺、車の中でコウノトリの間引き動画を見ながらずっと涙ぐんでたわー怒怒怒』

『ドンマイです、兄さん。ところでリプ見ました。兄さんにとって妹さんは隣にいてほしい存在なんですよね。きっと妹さんにその思いは伝わってますよ。妹さん、機嫌よかったでしょう?』

『機嫌は良かったよ。あーあ、イチャコラしたいなぁ』

『妹さんもそう思ってるんじゃないですか?』

『妹、さっさと自分の部屋に戻ったんですよ。親いるからイチャコラできないし、どっちかの部屋に入り浸るのは得策じゃないし、ストレス溜まるわー』 


『受験勉強手伝う約束してるんですよね?』

『二人きりになるのは危ないかもな。親が勘付くんじゃないか? 意識しすぎかな?』

『女の勘は鋭いですよ。特にお母さんは要注意ですね』

『我が軍師がいうなら、そうなんだろうな』


『自分たちの秘密恋愛は親バレしないって決めつけるのは危険です。正常性バイアスってご存知ですか?』

『ネットで読んだことあるな。赤信号渡るのは危ないことなのに、「自分だけは車に轢かれたりしない」とか思いこむことだろ?』

『はい、恋は実ったらゴールじゃなく、やっとスタートなんです。二人の関係を維持するのは愛だけでは足りなくて、正常性バイアスと絶えず戦い続ける必要があるんですよ』

『スゲー。よく考えてんのな。俺の妹もそんな風にストイックなんかな?』

『本当は妹さんだってイチャイチャしたいんですよ? そこのところも理解してあげてください』

『まるで妹の心を見透かしているようじゃのう。俺の話ばかりで申し訳ない。マイさんは兄貴殿とどうなんよ?』


『こちらは十歩進んで九歩下がる、みたいな感じです』

『そっか、俺みたいに劇的な事件が起きないと進展は難しいか』

『難しいです』

『マイ、お前もドンマイだぞ。周回遅れのお前を俺だけは見捨てず応援してるかならな!』

『ムカつくwww はいはいありがとうございます』


 この地球のどこかにいる赤の他人の中三少女(自称)とのやり取りが楽しい。この楽しい気持ちも浮気心になるんだろうか?


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