表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本能寺の敵  作者: 桜木覚
19/19

本能寺の変・畢る

「おごわあああああああああああ」

光秀のひりついていた喉が、一気に堰を切ったように解放された。

この世のものとは思えない咆哮である。


「撃てぇい!上様もろとも、不逞の者どもを打ち払え!」


鉄砲隊が前面に進み出て、雨あられと銃弾を放った。

瞳孔が開き切った光秀は、その光景を見ているのかいないのか、

夢のように、ゆっくりとゆっくりと、信長の体に銃弾がめり込んでゆく様を知覚していた。

肩に、腹に、衝撃が吸収されてゆくと、そこから血飛沫が、ポンと音を立てて吹き出していた。

信長の目が、光秀を捉えた。


うえさま、と、光秀は、叫んだ。いや、叫んだのかどうか。

信長の、変わらぬ鋭い眼光がその叫びに応え、少し笑ったように見えた。

次の瞬間、弾丸が、信長の額を捉えた。

白い脳漿が散った。

続け様の弾丸の衝撃に、信長の肉体が跳ね、はずんだ。


流石の猿ヶ京の佐助、朝霧の才蔵も、信長を支えたままでは無傷ではいられぬと、短槍を信長の背に「つっかえ棒」として突き立て、書院の中へまろび込んだ。


「槍隊!突撃!」

引き続いて槍衾を作った一軍がどっと雪崩れ込む。

先鋒は、信長にも突きかかろうとしたが、立ち往生しているその姿に、一瞬怯んだ。


「どけ」

明智光秀が槍兵を掻き分け、信長の遺骸に覆いかぶさった。

「敵は書院の奥じゃ!逃すな。一兵残らず討ち取れ!」


その声に、書院奥へ突進してゆく槍隊。

闇から猿ヶ京の佐助のクナイが、先陣の数人を撃ち倒した。

同時に、槍隊の背後を、弥勒寺の孫六たちの銃弾が襲った。

前後からの急襲で隊列が乱れた。

闇から飛んでくるクナイ・手裏剣の方向へ、滅多矢鱈と突きかかる。


室内の戦闘で、長槍は機動力を削ぐ。

一方、佐助ら草の者たちは、短刀程度の忍刀で、明智兵を挑発し、分断しながら、奥へ奥へと誘い込んでいく。


さらに、本能寺の僧兵たちが、背後に迫ってくる。明智軍の後衛と睨み合い、幾合か、槍を交え始めた。

明智左馬之助が、光秀に走り寄った。

「このままでは、挟み撃ちになり申す!上様の首級みしるしを取られ、退却が上策かと」


「猿ヶ京の」

明智兵を縦横無尽に切り刻みながら、朝霧の才蔵が佐助に声をかけた。

「ここは、これまでだな」

「うむ」

猿ヶ京の佐助が煙玉を境内に投げて叫んだ

「火をかけよ!」


号令にあわせ、書院の四方から一気に火の手が上がった。

建物の奥へ誘い込まれた明智兵たちが、我先に逃げ出してくる。

逃げ遅れて、火達磨になったものがまろび落ちてくる。


明智光秀は、左馬之助に促されて一旦、信長の首に手をかけたが、やめた。

「上様は死なぬ」

「え」

「織田信長は死なぬ!このまま、五体を消し飛ばせ。世人に『あれが織田信長の最期よ』などと見せてはならぬ」

「承知!」

左馬之助は、光秀を馬廻衆に託すと、工兵隊の元へ飛び、硝石の俵を担ぎ出した。

えいや、と軒下へ数袋の硝石を転がした。


「引けい!」


明智兵が崩れた土塀を越えて、安全地帯へ走ってゆく。

避難完了の確認もそこそこに、明智左馬之助が号令した。

「放てい!」

硝石の俵に向けて火矢が撃ち込まれた。


いっときの間の後、本能寺書院は轟音を上げて吹き飛んだ。

天地をつなぐ圧倒的な火柱の中、織田信長は、跡形も残さず霧散した。


「なんだどうした」

本能寺の爆散に驚いたのは真田昌幸であった。

「あそこまで大きな仕掛けはしておりません。明智の手によるものでしょう」

かたわらの成田重四郎が応えた。

いや、成田重四郎を名乗っていた、真田昌幸の次男、弁丸べんまるが応えた。

「なんのために」

「さて、追々わかりましょう。それよりも、二の矢が大事」


食えぬ親子が笑い合った。

猿ヶ京の佐助たちが、走り寄ってくるのが見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ