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第135話「運命の選択③」

 ラビには他の者には見えない、ライムの“本当の姿”が見えていた。



「そうだ……私が時を止めたことにより、異変が起きたのだ……君達の体は、どちらの世界に残るべきか決めかねている……

 キリシマ博士には“運命の瞬間”が訪れる場面がある……装置を作るべきか、それとも作らないべきか……君達の行く先は、博士の選択に委ねられているのだ……」



 ライムにはラビが意図する言葉の意味を、深く理解することができなかった。

 ラビはそれでも、今にも生き絶えてしまいそうな、かすれた声で懸命に伝えようとしている。


 ナヴィは無理するラビを、今すぐにでも止めたかった。

 しかし、ラビの目からは強き意志がひしひしと感じられる……

 ここは現・時の支配者として、ナヴィはラビの意思を尊重しなければならない。


 ナヴィは涙目ながらも、数少ないラビの言葉を汲み取り、ライム達に説明した。



「ライム達は“今”が止まった瞬間は、本当は生きていたんだ。だから、元の世界に戻ることができる可能性がある。

 でも、後の未来の装置の影響で、時のルールに引っ掛かり、この島に辿り着いてしまった。どちらに転ぶかはまだ分からないんだ……現状は、そんな中途半端な存在なのだろう」



「今俺達の体が点滅してるのはそのせいか。けど、もう“今”は動いてしまっているんだろ? 俺達はその“今”に存在していないことになる……それなのに、俺らは無事に元の世界に帰ることができるのか?」



「恐らくそこは、この『時を刻まない島』の特性が働くはずなんだ。ライムに初めて会ったとき話したよね? 君達が元の世界に戻るのことができれば、まるで何事もなかったかのように、その“時”に戻ることができると!」



 ライムは今でもはっきりとそれは覚えている。

 ナヴィと出会った際に、一番最初に教えてもらった、この島のルールだ。



「あぁ、そういう話だったな。でも、それは過ぎ去った“時”も含まれるものなのか?」



「もちろんだよ。現状、元の世界でライムという存在は、“すべて”が消えてしまっている。それは“今”や未来だけではない。人の記憶からも消えたように──“過去”も含まれているのだから。そう考えると、ライムが元の世界に戻ることになれば、“すべて”が元通りになるはず!」



「じゃあ……!! 博士次第で俺達は、無事に元の世界に帰ることができる!!」



「うん、結局はそういう話になる! もし博士が未来転送装置を作ってしまえば、ライム達が歩んできた、この未来は変わらない。

 反対に、博士が装置を作らなければ、ライム達は元の世界に帰れる……という話なのですよね? ラビ様」



 何もかも知り尽くしたかのように語るナヴィ。


 実はラビだけでなくナヴィにも、ライム達がこちらの世界に中途半端に留まり続けている、その理由……

 ライムとミサキの──“真の姿”が、しっかりと見えていたのだ。

 

 それを知ったラビは安堵していた。

 何の助言をすることもなく、ナヴィはラビの言いたいことのすべてを語ってくれたのだから。


 これでもうラビに……心残りはない。



「その通りだ……成長したな……ナヴィ……おまえは、もう立派な……時の……支配者だ……あとは……任せた……ぞ…………」




 そう言って、ラビは屈託のない笑みをナヴィに見せた。

 そして、ラビはその最中──動きが完全に停止する。



 ラビが……力尽きた。




「ラビ様……? ラビ様ーーー!!!!」



 ナヴィは目を瞑るラビの体に、顔を埋めるようにして大泣きした。

 ラビはナヴィに向けた笑顔そのままに、安らかな表情で眠りについていたのだ。


『ナヴィが一人前の時の支配者になれた』


 そのような安心感から現れた、最後の笑顔だったのかもしれない。


 この僅か数秒後、ラビはそっと静かに息を引き取った。





「ナヴィ……」


 

 泣きじゃくるナヴィを、ライムとミサキは立ち尽くして見ていた。


 ナヴィには、この瞬間が訪れることは、とうの昔から分かっていたはすだ。

 ラビが時を再び動かすときには、ラビは死を迎えるのだということを。


 なのに、それなのに……

 その覚悟があったとしても、いざこの瞬間が訪れると、これほどまでに辛い……



 ナヴィの涙は止まることはなかった。ずっと泣き続けている。

 しかし、そんな悲しみ溢れるナヴィに、更なる悲劇が襲いかかる。


 これは本当は喜ぶべき、嬉しい出来事のはずなのだが……

 今のナヴィにとっては、“悲劇”と呼べてしまうのだろう。



 まず、その異変にミサキが気づく。



「あれ……ライムの体……点滅が早くなってない!?」



 ミサキにそう言われたライムは、自分の体を見た。

 確かにミサキの言う通り、点滅が激しくなっている。



「本当だ! もしかして……その“時”が来たんじゃないか!? 博士の“運命の選択”が迫る、その“時”が!! どっちなんだ? 博士は……どちらの選択をしたんだ!?」



 天上階の広間は静まり返った。

 泣くナヴィの鼻をすする音だけが、響いている。


 そして……ライム達の体に、動きが現れる。

 答えが出たのだ。博士がどちらを選択したのか……その答えが。



「──消えてる……? 俺達の体が、薄くなっている!?

 やったんだ!! 博士が!!! 装置の存在しない“今”を、選択することに成功したんだよ!!!」


 

 間違いない。ライムとミサキの体は徐々に薄くなり、消滅が始まっている。

 ライムとミサキは、手を取り合って喜んだ。


 それを知ったナヴィは、慌ててライム達の方を振り返り、涙を袖で拭いた。

 泣くのをやめて、急いでライム達のもとへと駆け寄る。



「ライム!! 博士が……やったんだね!!」



「あぁ!! さすが博士だ!! 博士なら、絶対やってくれると信じてたよ!!



 でも……ナヴィ。どうやら、俺達も……お別れみたいだ……な」



 ナヴィの目に、再び涙が溢れ始めた。

 今、泣くのをやめようと決めたばかりなのに……

 どうしてこうも、体は言うことを聞かないのか。


 ミサキは涙を流すナヴィにつられ、思わず泣きうになった。

 涙目になりながらも、ライムと約束を交す。



「泣かないでよ……ナヴィちゃん。こっちまで寂しくなっちゃうじゃない!

 でもライムとはまた会えるしね! 私……あなたのこと忘れない。また絶対会いましょう。元の世界で、私達!!」



「あぁ! 約束だ!! 絶対会おう!!」



 段々と体の透明化は進んでいく。ライムとミサキの体が完全に消え行くまで、あと僅かだ。

 ナヴィは二人の体の間に入り込み、両方に抱きつくようにして飛びついた。


 

「ライム……!! ミサキ……!!」



 大粒の涙を流すナヴィの頭を、ライムは優しくそっと撫でる。



「大丈夫だ。ナヴィ! あるんだろ? 俺達に──“潜在記憶”が! だから俺達は、ナヴィのことを忘れない!!」



「う、うん……」



 ミサキはナヴィに、別れの言葉を告げた。



「私だって忘れないよ! こんな可愛い子、私の世界にはいないもの! だから絶対にナヴィちゃんのことは覚えてる!!」



「うん……忘れたらだめだからね!! 僕も……時の支配者として、これからの二人の未来を見守ってるから!! だから……僕達は離ればなれじゃない!!」



 ライムはそっとナヴィの頭から手を離す。



「あぁ……その通りだ! 頼んだよ!

 俺達の生きる未来は……時の支配者・ナヴィに任せた!!」



 そう言って、ライムはキリシマ博士の真似をするように、親指を立てた。

 ミサキとナヴィも、ライムと同じように親指を立てる。


 するとそこで、ライムとミサキの体から二つの大きな光が放たれていくのが見えた。

 ライムはすぐにその正体を見破る。



(今のは──神獣・フェニックスにマーメイドか。そうだよな……お前達はこの世界に残るべきだよな)



 光が遥か遠くへ去っていくのを確認した後、意識が遠のいていくのが、ライムには分かった。



(お別れが来たみたいだな。ありがとう……ナヴィ。ありがとう……父さん。ありがとう……神獣達。

 俺は今から、自分の世界へ……帰るべき場所に……帰るよ!)



 ライム、ミサキの体は完全に消滅した。


 ライム達だけではない。

 この異世界にいる、装置の犠牲者のすべての異界人が、元の世界へと帰っていった。




 こうして、ライムの『時を刻まない島』での大冒険は、幕を閉じた。






第135話 “運命の選択” 完

※次回、最終回です。

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