第134話「運命の選択②」
ラビの実体に意識が戻ったことに、ナヴィがいち早く気づいた。
すると天上階にある、世界を写す水晶玉──
“世界を見渡す球体”を筆頭に、巨大モニター含めた、いくつもの電子機器の映像が一斉に映り始める。
「もしかして、動いたのか!? “時”が!!」
止められた時の軸が動き出したことに、ライム達も気が付く。
それと同時に、ライム達の体は点滅を繰り返し始めた。
体が薄くなったり、濃くなったり……おかしな挙動をしているのだ。
「──えっ? なんだ……これ……」
ライム同様に、ミサキの体も点滅は繰り返されている。
「私の体にも……一体何が起こっているというの!?」
二人はパニックに陥っているが、ナヴィは今、それどころではなかった。
「ラビ様!! ラビ様!! しっかりしてください!!」
先程まで固まったように仁王立ちしていたラビが倒れ込んでいたのだ。
ナヴィは必死にラビの体を揺すって、何度も名前を呼んだ。
ラビの意識は朦朧としていた。生と死の狭間で、さ迷い続ける。
そんな瀕死状態のラビに、辛うじてナヴィの名前を呼ぶ声が届く……
ラビはナヴィの声に誘われるようにして、意識を取り戻し、ゆっくりと目を開いた。
「ナ……ナヴィ……」
かすれた苦しそうな声で、ラビはナヴィの名を呼び返す。
「──!! ラビ様! 目を覚ましたのですね!!」
ナヴィは歓声をあげたが、何やらラビの様子がおかしい。
ラビの頭は長時間の実体からの離脱と、時を動かした反動により、うまく働いていなかったのだ。
まだラビの意識は、完全には戻って来てはいない。
(どこだ……ここは……この景色見覚えがある気がする……
──!!! そうか!! 分かったぞ、ここは時の塔! 隣にいるのは──ナヴィ!!)
徐々にラビは意識を取り戻す。
時の塔、ナヴィの存在に気づき始める。
そして、意識を取り戻したのも束の間、ラビはついに重要な事柄を思い出した。
(そうだ……世界の危機は救えたのか!? ナヴィはやってのけたのか!? 私の予知する通りに、ナヴィは……)
すべてを思い出したラビは、ナヴィに確認を取るために、必死に体を動かそうとするが……うまく体を動かすことができない。
それすらもままならないほどに、ラビの体は重症だったのだ。
しかし、ラビはナヴィ以外の人物が、自分の目の前にいることに気づく。
体は動かなくとも、目だけを動かすことは可能で、ラビはその人物の方に目線を向けた。
(この者達は……? ま、まさか………!!!)
ラビの視界に飛び込んできたものは、見知らぬ若い一人の女性と……
もう一人の若い男。
その男は、ラビもよく知る……
キリシマ博士の息子、キリシマ ライムだった。
(救世主……!!!)
すぐにラビは、ライムが救世主だということに気が付いた。
そのことにより、ナヴィが何も説明するまでもなく、ラビは自分の予知した通り、ナヴィがすべてを遂行してくれた事を悟った。
残された少ない力を振り絞り、ラビは思いを伝えた。
「ナヴィ……よくやった……さすがおまえは私の弟……私を継ぐ、時の支配者だ……」
ラビが無理をして声を出しているのが分かる。
苦悶の表情を見せるラビが、ナヴィは見てられなかった。
「そんな話はいいです……ラビ様。体に障ります。これ以上、無理をなさらないでください!!」
ナヴィの心配をよそに、ラビは言うことを聞かない。
ラビにはもう自分の命が、あと僅かだということが分かっていた。
それでもラビは、自らの命を削ってでも、救世主の二人に感謝の言葉と、今起こる現状を伝える必要があったのだ。
きっとそれこそが、時の支配者としての、最後の仕事だと考えていたからだ。
「救世主の二人……ありがとう……ナヴィを……助けてくれて……」
辛そうな声からは想像できないような、満面の笑みをラビは浮かべている。
ライムも全力の笑顔でラビに返す。
「いえ、俺達は当然のことをしたまでです」
「恩に着る……だが、すでに始まっているようだな……元の世界に戻れるか、はたまた、この世界に残るのか……運命の選択が……」
「運命の選択……ですか?」