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第132話「無限の可能性④」

 これで準備は整った。


 そうなると、地下の特別独房室に幽閉されている、ペアのキリシマを消滅させる必要がある。

 博士を元の世界に帰す時が来たのだ。


 そのことを下にいる者に伝えようと、ナヴィがエレベーターに向かって動き出す。



「よし、じゃあ僕が今から伝えに行くから──」



 しかし、ナヴィがエレベーターに向かおうとしたその時。

 じっと待っていた老師がナヴィを止めた。



「待つのじゃ、ナヴィ。ここは私が行こう。おまえはこの子達のそばにいてやれ。見事じゃったぞ、おまえの推測! よくぞここまで成長した!!」

 


「いえ、とんでもごさいません! それに、下にはやはり僕が行きます! 老師様にお手を煩わせるわけには……」



「いいのじゃ、ナヴィ。おまえはこの場に残るのじゃ!!」



 ナヴィが老師に行かすわけにはいかないと気を遣うも、それを老師はなぜか頑なに止めている。

 そこでようやくナヴィは、老師が強く止める意味に気づいた。



(そうか……だからか……老師様は僕らのためを思って……)



 これからキリシマを消滅させ、博士が元の世界に帰還するわけだが……


 もし博士が、ナヴィの考えた通りにうまく未来を変えることができたのなら──装置による被害者は生まれなくなる。


 即ち、ここにいるライムやミサキの異界人が一気に元の世界に帰ることになるわけだ。


 ナヴィはライム達と離ればなれとなり、別れを告げなくてはならない……

 最後くらい、みんなでゆっくりと……


 そんな老師の粋な計らいだったのだ。



「分かりました。老師様、お願いします。僕はライム達と、ここに残ります!」



「うむ、それが一番よい選択じゃ。では、私は地下へと行ってくる」



 こうして、老師自ら地下の独房室へと向かうことになった。

 これから起こるであろう悲しみの連鎖に、ライムとミサキはまだ気づいていない。


 その二人に比べ、博士はもちろん、この先に起こる結末を読みきっている。



 すべての責任を背負った博士は、集中力を高めていた。

 まるで瞑想でもしているかのように、目を瞑って静止している。


 そんな博士の気も知らず、ミサキはマイペースに会話を続けた。



「博士が望む未来の選択に成功した場合、私達も無事に帰れることになるわけだけれども……それって、一体どれほどの“時”を待てばいいことなのかしら?」



 ミサキの質問に、ライムが呑気に答える。



「さぁ……ラビ様がどれだけ前に時の軸(タイムアクシス)を止めたのか分からないからね。


──いや、そうじゃないか! 俺達の世界の時と、この異世界の時の流れは干渉しないんだった!

 じゃあ、それこそ一体、どれだけの時を待てばいいのだろう?」



 ここは通称、『時を刻まない島』


 元いた世界の時が、どれだけ流れても、こちらの世界には一切影響をもたらさない。


 向こうの世界の数日が、こちらでは一瞬の出来事かもしれないし、はたまた反対に、もっと長い時を必要とするのかもしれない。


 それは、時の支配者達でも知ることはない。




 ライムとミサキが空気を読まず、そんなやり取りをしていると……

 博士は、自分の体に異変を感じ始めた。



「!!! どうやら……お迎えが来たようだな!」



 そう言って、博士は目を見開く。

 ライム達には、博士の体が徐々に薄くなっているのが分かった。


 ナヴィが寂しそうな顔で、博士に願いを訴える。



「キリシマ博士。何から何まで任せて、申し訳ない。僕は博士を信じてる!! ラビ様や、僕の推測が間違っていなかったことを……博士の手で、証明してみせてくれ!!」



 博士はナヴィの想いを受け取り、力強く答えた。



「ナヴィ、謝らなければならないのはこちらの方だ。元々は私が作り出した装置が、すべての元凶なのだ! 私は必ず自分の望む未来を手にいれてみせる!!」



 ミサキも博士に別れを告げた。



「博士、頑張ってね!! 絶対にあなたなら大丈夫。あなたは奇跡とも呼べる装置を作った天才科学者よ! 不可能を可能にする男でしょ!?」



「ははは。言ってくれるな! ミサキちゃん! 元の世界でまた会おう! ぜひうちへ、ライムに会いに遊びに来てくれ!!」  

 


「えぇ、ぜひお邪魔させてもらうわ」



 ナヴィとミサキが博士に言葉を残し、あとはライムだけ……

 ライムはそっと静かに一人、一歩前へと出た。


 博士はライムをじっと見つめている。



「ライム……」



 同様にライムも博士の目をしっかりと見た。

 そして、その場の雰囲気に任せ、心では思ってもないことを言ってみせた。



「頼んだよ。父さん!! 帰ったら、母さんとまた三人で一緒に暮らそう!!」



 今のライムは、“あの時”のような、別人のライムではない。普段通りの、いつものライムだ。


 しかし、最後ぐらいは博士の息子で……

 そういうつもりで、博士を『父さん』と呼び、あえて息子を演じてみせたのだ。


 博士はすぐに、ライムの嘘の演技を見抜いていた。

 だが、そんなライムの優しさが身に染みて、思わず博士の目は潤んだ。



「ライム、ありがとう……すまない。自然と涙が……またすぐ会えるのにな。ここで泣くのはおかしいよな!」



 博士は服の袖で涙を拭いて、精一杯の笑顔を見せる。

 みんなに向かって、最後の言葉を送った。


 

「じゃあな、ライム! そしてナヴィ、ミサキちゃん。私は行ってくるよ!

 未来の無限の可能性を信じて!!!」



 博士は涙目ながら、右手を握って親指をぐっと立てた。

 博士の真似をするように、三人も同じく親指を立てる。


 博士の健闘を祈る………


 三人に見送られながら、博士は完全に異世界から姿を消し、元いた世界へと旅立っていった。






第132話 “無限の可能性” 完

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