第131話「無限の可能性③」
証拠を求めた博士に対し、ナヴィは自分の思いを熱く語った。
「確かに証拠はないし、これは全部僕の推測だ! けれども、僕はラビ様を……自分を信じるよ!
ラビ様は口を酸っぱくして、よくこう言っていたんだ……
『己を信じ、未来を切り開け』
──とね! これはラビ様の口癖だった。また、老師様から教えて頂いた言葉でもある。だから僕は……自分の考えを信じたい!!」
すべてを現・時の支配者のナヴィに委ね、ずっと黙って聞いていた老師は、そのナヴィの堂々とした姿に安らかな笑顔を見せた。
ナヴィは代々伝わる、時の支配者の教えを信じていた。その決意に揺るぎはない。
そしてナヴィは、もうひとつ博士にクイズを出すような形で、ある言葉を告げる。
「それと老師様でもラビ様でもない、もうひとりの人物がこんなことを言っていたよ。誰のことを言っているか分かるかい? 博士!」
「さぁ……検討もつかないな」
突然の問に博士は戸惑ったのか、天才と呼ばれる科学者も、ぱっと答えが出てこなかった。
ナヴィはニヤつきながら、その答えを教える。
「それはね、博士。
あなたの“ペア”──解放軍キリシマのことだよ! 彼はこう言っていたんだ。
『科学者とは自分の信念を曲げない生き物。誰に何と言われようと、己を信じ続ける』
──とね! 確かにそれは、科学者として、とても大切な心得だと思う! まぁ……僕は科学者じゃないけれど」
博士がキリシマのその言葉を直接聞いたわけではない。だが、キリシマはもう一人の自分。
どの場面でキリシマがその言葉を使ったのかは知るよしもないが、博士にはキリシマの言いたい事の意味が、もちろん分かっていた。
そのキリシマの言葉をナヴィから聞いた博士は、突然大きな声で笑い始める。
そして……散々笑った後に、ぼそりと意味深な言葉を呟く。
「はっはっは! これはまいったな! まさか私の前で、科学者の立場で語るとは! はっはっは……
──やられたよ。完全に。どうやら完敗のようだな」
「──えっ!? 完敗って言うのは
……?」
ナヴィは博士の言葉の意味が分からなかった。博士の次の言葉をじっと待った。
すると、博士はナヴィの目をしっかりと見ながら、先程の言葉の真意を告げる。
「まさか自分に言いくるめられるとは……私もキリシマの言う通りだと思ってしまったのさ。
誰に何と言われようと、己の考えを信じ続けなければならない……だから……
乗ろうじゃないか! ナヴィ!! 君の推測……君の信じた、その答えに!! 私も君を信じてみたいと思う!!」
「博士!!」
ナヴィに思わず笑顔が溢れた。それにナヴィだけではない。
ライム、ミサキも笑みを見せ、ここにいる全員が笑顔で包まれている。
満面の笑顔を見せるナヴィに、今度はお返しとばかりに、博士がクイズを出した。
「口癖の話をされて、私も今思い出したよ。ナヴィ、君は何の深い意味もなしに言ったことのようだったけど……以前、私達に向けて、こう言ったのを覚えているかな?」
思い当たる節がまるでなかったナヴィは首を傾げていた。
博士はナヴィに、そのクイズの答えを明かす。
「やはり覚えていないか……大量の装置の犠牲者を出してしまい、心から傷ついていた私に向かって、ナヴィはこう言ったのだよ!
『未来は無限の可能性を秘めている』
──とね。ナヴィは何気なく言い放った言葉のようだったけど、私には衝撃だったよ!
なぜならこれは……私の昔からの口癖でもあったのだから!!」
『未来は無限の可能性を秘めている』
実は博士だけでなく、ライムにもこの言葉はとても心に響き、どこか不思議と親近感を覚えていたのだ。
どうやらこの言葉は、キリシマ博士の口癖だったらしい。
それを知ったライムは、ナヴィの言う“潜在記憶”が、ますます現実味を帯びてきたことを感じていた。
(この言葉……どこか懐かしく思えていたんだ! これは博士の……いや、親父の口癖だったのか!!
そうなると、やっぱりナヴィが語る、潜在記憶は間違いなくある!! 俺の記憶の奥底に、父の言葉が眠っていたのだから!!)
ライムはついに確信を持つ。
ナヴィの推測は……ナヴィの説は、当たっている! 間違ってなんかいない!!
あとは博士が正しき道へと、進んでくれるかどうかだ。
ナヴィの推測を信じた博士は、一人、静かに目を瞑った。
「さぁ、あとは好きにやってくれ! 私が、何としてでもやってみせる! 己を信じて、無限の可能性のある、新たな未来に進むために!!!」
博士が──覚悟を決めた。




