第130話「無限の可能性②」
博士に証拠を求められたナヴィは、顔をしかめた。
ライムやミサキはナヴィの話を、何の疑いもなしに受け入れたが──キリシマ博士。
やはり、この男だけは一筋縄ではいかない。
「さすがは博士だ。あなたの目は誤魔化せないね。だから最初に言ったろ? これはあくまで僕の“推測”だって……残念ながら、証拠なんてものはないよ……」
開き直るように認めたナヴィに、博士も少し困惑気味だ。
「やはりそうか……“潜在記憶”の方は、利にかなった話だと私も思う! だが、どうも引っ掛かるのは『すべて未来だった』という話の方。
その説は、完全にナヴィの想像の域でしかない……
あの事件の時に、ラビが実体で私のところに来なかったからといって、それが『すべて未来だった』と結びつけるのは、少し無理がある」
博士のもっともな意見に、ライムも思わず納得してしまっていた。
(確かに!! 当初の考えにあった、ラビ様はあの事件の時に“今”を止めたという説……この説が消えてなくなるほどの証拠は、何ひとつない)
博士の暴挙を止めたいラビが、実体を使わずに、意識だけで現れたのは……
『未来の出来事だったから』
この説に、これと言った確証はなく、これはあくまでナヴィの願望がこもっている内容であった。
なぜなら……
『事件の瞬間が、未来の出来事』
そういうことにしなければ、装置を完成させたという事実が覆ることは、絶対にないからだ。
こう考えるしか、それしか手段はないと言ったところだったのかもしれない。
嫌な空気が漂う……
険悪なムードになりかけている……
そう感じた博士は、すぐにナヴィに謝罪した。
「いや、私もケチをつけたいわけじゃないんだよ? ナヴィ。現実的に考えた意見を、述べたまででね……」
「それは僕も分かってるから大丈夫だよ、博士。では、逆に博士に聞くけど……
これ以外に、何か他に装置の犠牲者を救う方法が、博士にはあるのかい?」
博士は考えることせず、間髪いれずに、両手を挙げながら返答した。
「いや………それがまったくだ!!」
まさにお手上げと言ったところか。
何の案もなしに、偉そうに……とも思えるが、決して博士も文句を言いたかったわけではない。
あくまで、客観的に感じたことを言ったまでだ。
ナヴィは博士に、これとは別のもうひとつの考えを明かした。
「それと博士、僕にはこう感じているんだ。ラビ様は未来を予知できることに長けていた。
だからもしかしたら、“ここまですべて”を、ラビ様は予知していたのではないか──とね!!」
想像を遥かに越えるナヴィの考えに、博士は驚愕する。
「!!! ここまでって……まさに、“ここまで”か!?」
「もちろん! 博士が装置を使い、自らこの異世界へと飛ばされ、装置を作ることの恐怖を博士は知る……
そして、僕が救世主を見つけ、この島の危機を救う……
まさにラビ様はここまで予知していたのではないかと!! そこまでラビ様が考えていて、何ら不思議はない。
だってラビ様は、未来を“支配する”──偉大な時の支配者なのだから!!!」
「そんなバカな……」
驚きすぎて言葉を失う博士に、ナヴィは“もしも”の話をしてみせる。
「仮に装置を作る前に、ラビ様が博士に会って……口頭で、装置の危険性について語っていたとしたら……装置を作ることを、博士はやめたかい?」
ナヴィの質問に対し、博士は黙り、少し考えた上で答えた。
「それは……無理だろうな。やめろと口で言われたくらいで、私が研究をやめるはずはない! 身をもって、この危険を知れということだったのか……」
時の支配者とは、時の流れを管理するだけでは務まらない。
遥か先の未来を読み取り、事件が起きる前に、すべてを解決する。
まさに、時を支配しなければならないのだ。
果たしてそんなことがありえるのか?
時の支配者は、そんな先まで未来を予測できるのか?
そんなはずはないと、博士は一度は思ったが……
思い返せば、博士がライムを事故から回避させるために、装置を無理矢理起動させた際。
ラビはそれすらも予測してたかのように、動揺する素振りは一切見せなかった。
それを思えば、あながちナヴィのその説も否定はできない。