第128話「潜在記憶③」
ナヴィは腕組みして、困り顔をしながら答えた。
「そうなんだよ……まさに博士の言う通り。僕はずっとそこに頭を悩ませていたんだ!
博士が装置を作り出す事件が、未来の話だとは、だいぶ前にすでに分かっていたのだけれど……
この状況のまま、止めた時をまた動かしても、また同じことの繰り返しになってしまう……」
一度歓喜していたミサキは、ナヴィの話を聞いてまた不安に陥る。
「それじゃあ……結局だめってこと? せっかく装置を完成させる前に戻れたと知っても、何の手段もないんじゃ……」
不安な表情を見せるミサキに、ナヴィは大きく首を振って答えた。
「いいや、それがそうでもないんだよ! ここで話が終わりなら、僕もわざわざ皆をこの場に呼んでないよ!
“それ”に気づくのには、僕らの旅が不可欠だったんだ!! ライムとミサキと過ごした、過酷な冒険がね!
だから、僕達のやってきたことに、無駄なことなんて何ひとつなかったんだよ!!」
ナヴィの発言に、博士は興味を示した。
この天才博士においても解けない謎を、ナヴィがこれから解明するつもりだ。
「ほう……それも可能だと!? おもしろい。そのナヴィの考えを聞かせてもらいたいものだな!」
「うん。僕達は旅で色んな人や物に出会った。そこで、その鍵を握る存在といくつも遭遇する。それは………
“神獣”だよ!!」
この島の伝説的な存在である“神獣”。
一見、神獣がこの事件に結び付きそうにはないが……
果たして何が関係しているのか?
ライムには想像もつかなかった。
「──えっ? 神獣が? 神獣の存在と、一体何が関係してくるんだ?」
「ライムやミサキもよく考えて欲しい。この神獣という存在の、一番のおかしな点に!
まず神獣は、この異世界に存在する生き物で、この島でも珍しい伝説的な扱いになっている。
それゆえに、君達の世界では存在しないはずの、空想的な生き物のはずだ。
それなのに……どうだい? ライムにミサキ。おかしな点がないかい? 思い当たる節があるだろう!?」
今のナヴィの説明で、ライムはナヴィの言いたいことが分かった。
「そうか!! 確かにおかしい点は──ある!!
俺らの世界では存在しないはずの、フェニックスやマーメイド……
なのに、俺達はその神獣をよく知っていた! 初めて見た気がしないほどにね!!」
そう……ライム達が出会ったいくつもの神獣。
フェニックスしかり、マーメイドしかり……
空想像の生き物であるはずなのに、なぜかライム達は初めて見た気がしなかった。
それほどライム達の世界でも、有名な存在であり、その伝説は世界中の人々に知れ渡り、語り継がれていたのだ。
そのからくりを、ナヴィが暴く。
「おかしな話だろ? 名前だけならまだしも、大方の姿、形まで一致しているんだ。完全にライム達のイメージ通りのままの存在……
そんなの変だとは思わないかい? 単なる偶然では片付けられない。それはなぜか……
この異世界で、その“実物を”自分の目で見た者がいるからなんだよ!!」
ナヴィの考察に博士も納得し、ナヴィの言いたいことを簡潔に現す。
「なるほど……元の世界に戻れば、この異世界の記憶は消えると言われているが……
その記憶が残っている可能性があると、ナヴィは言いたいのだな!」
「まさにその通りだ! 老師様が以前、この島の歴史を語ってくれたように、博士が装置を作る前にも、偶発的に発生してしまう、時空の歪みによる被害者はいる……
大昔に異世界に訪れた者達が帰還した後に、インパクトの強かった記憶が甦ったのか、神獣の存在を思い出したんだよ!」
ナヴィが気付いた出来事は、神獣の件だけではない。もうひとつの可能性も示す。
「それともうひとつある! それは解放軍キリシマと戦っていた時に起きた、あの“奇跡”のことだ!
僕はライムとキリシマの親子の絆が起こした奇跡に、一筋の光を見た!!
間違いなくライムはあの時、キリシマのことを……“父親”と認識していた瞬間があったんだ!!
ライムが父の夢を見たり──ライムの人格が突然変わったり──とね」
確かにそれはライム自身も感じていた。
今思い返しても、父の記憶がライムに甦ることはないのだが……
“あの時”のライムは、確実にキリシマの息子と化していた。
「ナヴィの言う通りだ。“あの時”の俺は、完全に別人だった……
あまり記憶がはっきりしてないんだけど、俺の記憶であるはずなのに、俺のものではないような……そんな説明のし難い、不思議な感覚だ」
「だから間違いなくあるんだよ! この異世界での記憶は、完全には消えずに残るんだ!
時のルールによって消えたはずの人の存在や、その記憶が甦ったりもする!
そんな“潜在記憶”があるんだよ!! それを利用すれば、装置の完成を防ぐことができるはずなんだ!!」
第128話 “潜在記憶” 完