第127話「潜在記憶②」
ようやくライムはナヴィの話の意味を理解する。
ナヴィは更に詳しく、そこに理由を付け加えた。
「そう……ラビ様は博士の暴挙を止めたければ、実体を使って、世界に飛び込み、自らの手で博士を……装置を止められたはずなんだ!!
なのに、ラビ様は意識のみを送り、博士の前に現れた……
それはなぜか?
実体はすでに時の軸を止めているために、動くことができなくなってしまっているからだ!!
“未来の”出来事である、博士の暴挙を止めるには、意識を──幻を動かすしか手段がなかったんだよ!!」
ライム達の構想は、これのおかげですべてが覆った。考え方を色々と、改めなければない。
しかし、それにより、今度は新たな問題も発生する。
それは、もしナヴィのその仮説が正しいとするのならば──
肝心の時の軸をラビが止めたのは、一体いつになるのか?
ということだ。実際問題、そこがかなりの重要ポイントになってくる。
「じゃあナヴィ。今までのがすべて未来の話と、そう仮定するならば、ラビ様は……いつ時の軸を止めたことになるのだろう……?」
「正確な時こそは分からないが、ラビ様のことだ……これだけは、はっきりと言える!!
ラビ様が時の軸を止めたのは……
博士が装置を完成させる“前”であることだけは、間違いない!!!」
ミサキに一気に笑顔が溢れる。
「本当に!? ナヴィちゃん!! 装置の完成より、時の軸が“前”ってことは……装置の完成も、それは未来の出来事になる!!
そうなれば、再び時の軸を動かしたとしても、博士が装置を完成させないという“今”を選択すれば、未来を変えることができるってわけなのね!!」
ミサキの発言に、ナヴィも満面の笑みで、こくりと頷く。
『これで危機を救えるかもしれない!!』
ようやくみんなに笑顔が溢れた。
──はずなのだが……
一人、浮かない顔の者がいる。
それはキリシマ博士だ。博士はナヴィに尋ねた。
「ナヴィ……ひとつ気になることがある。もし仮に私達が、元の世界に戻るとなった場合。その時、ここで起きたことの記憶は……どうなってしまうのだ?」
この島で起きた出来事、博士が引き起こした装置での事件の記憶……
解決に導くには、この“記憶”が、鍵となってくる。
その重要性を知った博士は、ナヴィにそう聞いていたわけだが……
実は以前から、これはライムも気になっていたことでもあったのだ。
その疑問を博士が、このタイミングで聞いてくれた。
ナヴィは少し寂しそうにしながら答える。
「記憶か……もし君達が、元の世界に帰ることになった場合。その時は……
ここにいた記憶のすべては消えてしまうんだ……
皆それぞれ、時空の歪みに飲み込まれる前の“時”に、何事もなかったかのように戻るだけ!!」
それを初めて知ったライムは、ナヴィが寂しい表情を見せていた理由がすぐに分かった。
なぜならそれは、ライムもナヴィと同じ気持ちだったからだ。
元の世界に帰れるということは、もちろん嬉しいことなのだけれども……
ここでの冒険は、辛いことばかりだけでなく、楽しかったことや、よかったこともある。
それらすべて忘れてしまうことになるのだ。
何より……
ナヴィやミサキのことを忘れてしまう……
そのことが、ライムはとても寂しく思っていた。
そんなライムの気も知らず、博士は自分のことばかり考えているようだ。
「やはりそうか……それは残念だ。ここでの記憶を持ち帰ることができれば、私の未来についての研究に、更に発展をもたらすことができたのに……」
博士の言葉に、思わずナヴィはムッとした。
こんな大層ことになったにも関わらず
『博士はまだ懲りないつもりか!』
そう思っていたが、博士はニコッと笑って見せる。
「……と、言うのはほんの冗談だ。もし、ここでの記憶が消えてしまうというのなら、それは大問題になってしまうな」
先程の博士の言葉が冗談で、ホッとしていたライム。
博士の意味深な発言の、その理由を尋ねた。
「記憶が消えるのは寂しいし、嫌だけど……大問題ってのは、何のことなんだ?」
「うむ……仮に私が、装置を完成させる前の時に戻れたとしよう……だが、それでは……
歴史は繰り返すだけだ!!
私はずっと昔の、学生時代から時の研究をしている。
さすがにラビも、それより前の時を止めたとは到底思えない……
そうなれば、私はきっとまた、高確率で装置を作り出すに決まっている」