第126話「潜在記憶①」
ライム達は、博士から事件の真相を聞いた時、大きな勘違いをしていた。
時の軸が止まった瞬間は、時の支配者・ラビがキリシマ博士の前に現れた時ではなかった。
ナヴィは神妙な面持ちで、推測を語る。
「僕達が出した結論は……間違いだったんだ! 僕達は大きな勘違いをしていんだよ! 実際に、ラビ様が時を止めたのは……
もっと“前”のことだったんだ!!
博士が僕達に話してくれた出来事、現れたラビ様の幻……それらはすべて、“未来”の出来事だったんだよ!!」
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第126話
“潜在記憶”
ナヴィの発言に、これこそまさに“時”が止まったのではないかというくらいに、天上階は静まり返り、ピタッと空気が止まった。
ライムはナヴィが語る、根本を覆す事柄に納得がいかない様子だった。
「全部未来の出来事だったって? それは一体どういうことなんだ!? なんでそんなことが言えるんだ?」
ナヴィはその理由を説明する。
「まず第一に、僕が博士からラビ様が現れた話を初めて聞いた時……実はすごい違和感を抱いていたんだよ。
博士が見た時の民は、ラビ様“本人”ではなく、ラビ様の“幻”だった──それは間違いないんだよね? 博士!」
博士はナヴィの質問に対し、しっかりと理由付けもしながら答えた。
「あぁ。間違いないと言っていいだろう! それにラビ自身も『触ることができない』と、はっきりと言っていた!
だから私の暴挙を止めることもしなかったし、装置に触れることすらもできなかった。出来ることは、話すことのみ──本人の体とは到底思えないが……それがどうかしたのか?」
「うん。その“幻”かどうか……それが重要になってくるんだ! 仮に博士の言う通り、そのラビ様が幻であった場合……
そうなると、それはまさに“この状況”と同じことになんだよ!!」
そう言って、ナヴィは指を差した。
指差す方向に、皆が一斉に振り向く。
そのナヴィが指差す方角の先には……
元の世界の時を止め、動かなくなって固まってしまっている──先代、時の支配者・“ラビ・ホワイト”の姿があった。
ミサキはナヴィの発言に、疑問を抱く。
「この状況と同じって……今の動かないラビ様と、いっしょってこと?」
「うん……ライム達が天上階に初めて来たとき、僕がラビ様の話をしたのを覚えてるかな?
ラビ様は世界の時を止めるという、とてつもなく体に負担のかかる行為を軽減するために──“意識のみ”を送るやり方をしているって話だったんだけど……」
この話をナヴィにされたのも、そこまで昔のことではない。ライム達は忘れるわけもない。
「もちろん覚えてるよ! その意識のみで、ラビ様は今も俺達の世界の未来で、孤独に戦ってるって話だったよな。それがどうかしたのか?」
まだナヴィの言いたいことに気が付かないライムに、ナヴィは強調して言った。
「こう言えば分かるかな? ラビ様は意識のみを送るというやり方を、体の負担を考慮して……
あえて、選択したということなんだよ!」
今の発言によって、勘の鈍いライムもさすがに気づく。
「もしかして──別のやり方が!? 俺達の世界に行くには、他の手段があるということなのか!?」
ライムの出した結論に、ナヴィは大きく頷いた。
「そう!! 今ラビ様が行っているやり方は、体の負担を考えて“意識のみ”を、ライム達の世界に送る方法だ。
でもね、もうひとつあるんだよ……別の手段がね!!
それは意識のみを送るやり方よりも、もっとシンプルだ。意識だけなんかじゃない……しっかりと自分の体を使う──“実体”で別世界へと行くというやり方なんだよ!!」
新たな事実にミサキは驚いた。
そしてミサキは早速、ラビが自分達の世界にいることを想像する。
「それってさ……私達の世界に、ナヴィちゃんのようなウサギの姿をした、時の民がどこかにいるかもしれないってこと!?」
「まぁ、それが可能ってだけの話で、実際に行くことはまずない。行く場合は、よほどの緊急事態のみだけ!
僕達の存在を、人間達に知られても厄介だからね! 意識だけでも、人の前に姿をさらすなんて、とても稀なことだ。
まさにラビ様が博士の前に現れたのは、それほどの緊急事態だったことになる!」
回りくどいナヴィの説明に、ライムの頭はだんだん理解が追い付かなくなってきていた。
「要するに……ナヴィは何が言いたいんだ?」
「ごめんごめん! それを前提に話さないと伝わらなくてさ!
さっきもライムが言ってたように、ラビ様の“意識”は、ライム達の世界の未来で生き続け、一人で戦っているはず……
きっとそうやって、ラビ様は世界を一人飛び回っているに違いないんだ……
実体を持たない、まるで──“幻”のような姿でね!!」
「そういうことか!! 博士が見たラビ様の幻っていうのは、まさに今のこのラビ様と同じ状況……
実体は時の塔にあって、意識は俺達の世界にいる。博士はその、ラビ様の“意識のみ”を見ていたんだ!!」




